【Vol.420】Roland SH-201 ~21世紀によみがえった伝統の “SH” [2006年]
2019/04/21
今回取り上げるシンセサイザーは、2006年にローランドから発売された「SH-201」です。標準スケール49鍵仕様で、当時の価格はオープンプライス(当時の市場実勢価格は75,000円前後)。現在は生産終了となっています。
ローランドのシンセサイザー “SH”といえば、同社から1970年代に発売された国産黎明期のモデルとして名を残していますね。本ブログでもいくつか取り上げています(本文末のリンク参照)。
今回のSH-201は長い沈黙を破って発表された “鍵盤付きのSH”ということで、近代的なデザイン/スペックを備えながらも、どこか昔の面影を残したようなモデルに仕上げてある印象です。
SH-201はアナログ・モデリング・シンセサイザー!
そう、本機はデジタル演算・制御によって昔ならではのアナログサウンドを再現する、いわゆる “アナログ・モデリング・シンセサイザー”なのです。本体重量はわずか5.2kgとなっており、これはライブでも気軽に持っていける可搬性を実現しています。
パネル上のコントローラー類は各セクションごとにブロック分けされており、アナログシンセ初心者でも比較的分かりやすいデザイン。あと、この頃のローランド製品によく見られた「D-Beamコントローラー」もありますね。つまみのデザインはどことなくTB-303をほうふつとさせます。
音源部など
SH-201の内部構成は大まかに以下のようになっています。
オシレーター(2系統)
→リング・モジュレーター付きミキサー
→フィルター(1系統)
→アンプ(1系統)
→エフェクト
※エンベロープはフィルター、アンプにそれぞれ1つ、オシレーターに2つ
※LFOは2つ(オシレーター×2、フィルター、アンプにかけられる)
リング・モジュレーターがオシレーターの直下に配置されていることを除けば、まあアナログ・シンセサイザーの基本的なところを押さえた構成といったところです。それでは各セクションごと簡単に触れてみましょう。
オシレーター部
当時のハイエンドモデル・「V-Synth」(2003年)譲りのSUPER SAWやFEEDBACK OSCも装備しており、分厚いアナログ・サウンドを表現可能。もちろん正弦波、三角波、のこぎり波、矩形波などの一般的な波形も備えています。そういえばSUPER SAWってJP-8000(1996年)にもあったっけなぁ。。
SH-201にはこのオシレーターが2系統あって、それぞれ別の音色を同時に鳴らすことができます。鍵盤分割(スプリット)して左右で弾き分けたり、2つ重ねて厚みを作るなどの使い方が定番ですね。
フィルター部
ローパス、ハイパス、バンドパスを装備。バイパス(→フィルターを通さない)もできます。
これらフィルターは、スロープ(いわゆる “傾き”)を-12dB/-24dBから選択することが可能となっています。カットオフ操作は専用のつまみにて行い、レゾナンスつまみもありますね。なおフィルター・エンベロープは、独立してパネル上にスライダーが配されています(ADSRおよびデプス)。
アンプ部
ごく普通のADSR方式のスライダーが装備。なおアンプ・セクションにはLEVELつまみの他にもOVERDRIVEボタンが配されており、簡単に歪みサウンドを得ることができます。
LFO部/エフェクト部
LFO波形は三角波、正弦波など全6種。エフェクトはディレイとリバーブのみとなっています(タイムとデプスが操作可能)。
音色について(個人的所感入り)
本体への音色メモリーは、プリセットが32個、ユーザー(→保存可能)が32個となっています。プリセットはともかくユーザー領域が32とは、2000年代のシンセサイザーとしては少なすぎじゃないかい?と思わなくもないですね。
サウンドのキャラクターとしては、太くてエグいシンセ・リード系音色やシンセ・ベース系が際立っているという印象です。オーバードライブやポルタメントをたっぷりかけるとそりゃもうエグい(笑)
外部入力端子も装備
アナログ(モデリング)シンセとしてはちょっと珍しいといえる外部入力端子を備えています。DJユースも視野に入れた設計といったところでしょうか。
まあこれだけでも便利なのですが(→MP3プレイヤーなどから直接オーディオを流せる)、本機の面白いところは外部入力ソース専用のフィルターを内蔵している点。つまり用意しておいたオーディオ・トラックをSH-201につっこんでパネル上のつまみでウネウネ(→フィルタリング)したりできるということですね。これ専用にローパス、ハイパス、バンドパスなどが用意されています。
あと、中央に定位されている音を消す(減らす)「CENTER CANCEL機能」も備えており、“ボーカル消し”としての用途も期待できそうな感じです。
PCとの連携
USB端子を装備しており、ケーブル1本でPCにつないでオーディオ・インターフェイスとしての使用も可能。まあこの時代のデジタルシンセサイザーにはよく見られた仕様といった感じですね。なおこのUSB端子はいわゆる「USBオーディオ」、「USB-MIDI」の双方に対応しています。
SH-201での音作り(シンセサイズ)をPC上で行うための専用エディターも付属しており、内蔵アルペジエーターやエフェクター(リバーブ、ディレイ)のユーザー・プログラミングも、広くてグラフィカルなPC画面にて行えます。あと自作音色を管理しやすくするライブラリアン・ソフトも同梱されていました。
なお本機がリリースされた時代的には、PC側はおおむねWindowsXPとかMac OS Xとかの頃であり、今どきのOSもサポートしてくれているのかは未確認です。
SH-201/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
つぶやき的な
この時代というとお手頃なソフトウェア・シンセが広く普及しており、“ハードウェア・アナログ(モデリング)シンセを購入して、物理つまみをいじって音色作りに正面から向き合う”というのは、国産シンセとしてはちょっとトレンドから外れていたと回顧します。
SH-201は、ローランド社シンセサイザーの出発点ともいえる “SH”を冠した(鍵盤付き)モデルということで、同社がハードシンセサイザーの復権をかけて投入した意欲機と見ることもできるでしょうか。SHの系譜とされるアナログライクな操作感を持ち、ハードウェアならではの図太いサウンドを鳴らせるというメリットはあったと思います。
そうはいっても『LEDとかLCDディスプレイは最小限でもいいから装備せんかい! 』と思っちゃうんですよね、個人的には。。本体だけじゃ作った音色を管理していくのも難儀だし、つまみ/スライダー操作によって各パラメーターの内容もよく分からなくなり、結局(起動に時間がかかる)PCありきなのかなという印象ですね。。
でも70年代のアナログシンセにはディスプレイや音色メモリー機能なんてあまりなかったし、SH-201はモデリング技術で再構築された派手で変化の反応がよい現代風アナログサウンドを楽しめる、というメリットがあるので、今から安価で手に入れて使いこんでみるのもいいかもですね。
関連記事(ローランドSHシリーズ):
「Roland SH-1000 ~1973年発売の「国産初のシンセサイザー」」
「Roland SH-2000 ~30音色内蔵のプリセット・シンセサイザー[1974年]」
「Roland SH-3A ~幅広い音作りに対応した初期ローランド・シンセ[1974年]」
「Roland SH-1 ~ローランド初となる…[1978年]」
「Roland SH-32 ~卓上シンセで音作り[2002年]」 ※平成の卓上SH
仕様
■鍵盤数:49鍵(ベロシティ対応)
■最大同時発音数:10
■パッチメモリー:プリセット32、ユーザー32(※ユーザー・パッチはライブラリアンソフトにより入れ替え可能)
■音源部および構成:アナログ・モデリング音源
2オシレーター + MIX/MOD + 1フィルター + 1アンプ + 2LFO + 3エンベロープ
■外形寸法:884(W)×107(H)×354(D)mm
■重量:5.2kg(ACアダプター除く)
■発売当時の価格:オープンプライス
■発売開始年:2006年