キーボーディスト、脱初心者を目指す

ピアノ、シンセサイザー、オルガンとか鍵盤楽器もろもろ。関係ない記事もたまにあるよ

その他メーカー 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.437】MARION SYSTEMS MSR2 ~トム・オーバーハイム氏が手掛けたアナログ音源モジュール[1994年頃]

2019/07/13

 

 

 今回ご紹介するシンセサイザーはMARION SYSTEMSの「MSR2」という1Uアナログシンセ・モジュールです。知ってる人いますかね?? 日本での発売は1994年初頭頃だったと記憶しています。当時国内代理店を務めていたのはカメオインタラクティブ。

 

MARION SYSTEMS MSR2

 

 この耳慣れないMARION SYSTEMS(マリオン・システムズ)というブランドですが、これは『シンセサイザーの生みの親』と呼ばれることもあるトム・オーバーハイム氏が、自ら設立したOberheim Electronics社を去ったのち新たに立ち上げた会社のことですね。ちなみに “MARION”というのは同氏の娘の名前から取ったそう。
 
 
 さてMSR2ですが、見た目的には、当時多く出回っていた海外製1U音源モジュール(Oberheim Matrix1000、E-mu各シリーズ等)に近い印象を受けます。とはいえ “シンセサイザー界のパイオニア”が心機一転手掛けた1台ということで、ちょっと個性的な仕様となっていますね。では見ていきましょう。
 
 
 

MSR2の基本概念

 本機は1Uラックサイズの「メイン・フレーム」に、アナログ・シンセサイザー・モジュール「ASM」をプラグ・インする方式のモジュラー・シンセサイザー・システム。
 
 
 要するに外枠(メイン・フレーム)と、基板むき出しのモジュール部を組み合わせるという考え方であり、当時のトム・オーバーハイム氏が、アナログシンセサイザーにおける「拡張性」を強く意識していたことを物語っています。最大2枚の音源モジュールを本体スロットに装着できる仕様となっています。

 

 

 

アナログ・シンセサイザー・モジュール「ASM」について

 8ボイスのアナログ・シンセサイザー・モジュール。もともとはメイン・フレームの方に1枚付いていますが、2枚目として増設する際はオプションとなります。当時の国内価格は69,000円。
 
 
 オシレーター部には新設計の「ハイ・レゾリューション・オシレーター」(以下HRO)を搭載。これはオーバーハイム氏自ら開発したものだそうで、波形はアナログながら、安定性のあるデジタルで制御するといったものだったらしいです。
 
 
 本モジュールでは、1ボイスあたり2基のHROをはじめとして、ノイズ・ジェネレーター、VCF、VCA、ミキサー等を備えた基板1枚をシャーシーに収めてあります。
 
 
 フィルター部は2/4ポールから選択可能でありレゾナンスも付き(4ポール時には発振も可)。そして外部オーディオ入力も備えているので、外部信号をつっこんでフィルター・ワークを楽しむこともできますね。
 

MARION SYSTEMS MSR2(advertisement)
MARION SYSTEMS MSR2/(株)カメオインタラクティブ 雑誌広告より画像引用
 
 
 

メイン・フレームについて

 モジュールからの出力をミックスするための “プログラマブル・6チャンネル・ステレオ・ミキサー”や、“プログラマブル・ステレオ・グラフィックEQ”などを搭載。MIDIポートも2系統装備しています。当時の国内価格は169,000円。
 
 
 操作系は、2つのロータリー・ノブ、バックライト付き液晶LCD(当時としては比較的大型)を採用。なおMSR2の音源モジュールには音色をメモリーすることはできず、それらデータはメイン・フレームにて管理します。
 
 
 

将来的にはこうなるはずだった

 前述したように「ASM」は8ボイスのアナログシンセ・モジュール。これが将来的には、「ウェーブテーブル・シンセシス」、「サンプル・レコーディング&プレイバック」(要するにサンプラー)、「エフェクト」などもモジュールのラインナップに加わるというアナウンスがされていました。
 
 
 つまり個人でモジュールを差し替えることにより、“様々な音楽制作スタイルにマッチするカスタマイズができる”という、非常に意欲的な設計思想だったのです。メイン・フレームの規格に合致さえすれば、あるいはサード・パーティからの参入も視野に入れていたのかもしれませんね。
 
 
 しかし最終的に発売されたのは「ASM」のみで、結局のところ本機はアナログシンセ・モジュールとしてのプロダクトにとどまりました。

 

 

 

姉妹機・ProSynthについて

 ボイス(モジュール)拡張機能が省略された いわばMSR-2の廉価モデル。ただしおそらく日本では未発売です。
 

 
 前面パネルのボタンがいくつかが省略され、空いたスペースには『PROSYNTH BY Tom Oberheim』とオーバーハイム氏のサインが印刷されています。
 
 
 

思う処

 オーバーハイム社の乗っ取られ(?)を経て、トム・オーバーハイム氏が新たに立ち上げた会社にて自ら設計した本機ということもあり、結構な紆余曲折があったのだろうなーという思いが伝わってくる一台です(笑)
 
 
 最初の発表から発売まで3年くらいの期間があったし、発売されてからもソフトウェアの不具合等で、製品としてあんまり安定していなかったのかなという印象。予定されていたモジュール群も結局発売されずじまい。結果、あまり話題にならずひっそりと退場していった感じでしょうか。
 
 
 MSR2が発売された当時は、KORG M1(1988年)に始まるPCMデジタル・シンセ(ワークステーション)が勢いを増していた時代でもあります。そんなタイミングでそもそもアナログシンセ・モジュールというのも、時代に即していなかったのかもしれません。
 
 
 

おまけ

個人的には、本機の広告に以下のような記述がされていたのが印象的でした。

『毎日のようにリリースされる最新のテクノロジーを投入したシンセサイザーの数々。…(中略)… 昨日までの革新的な技術は、今日ではもう当たり前の世界なのです。』

 
意図としては、“そこで拡張性(将来性)に富んだシンセサイザー・MSR2が登場しますよ!”ということなのでしょう。
 
 
 “毎日のようにリリースされる”はちょっと言いすぎではありますが、90年代中頃は確かにシンセ界においてテクノロジーが目に見えて発展していた頃。毎月怒涛のように新製品がアナウンスされワクワクしていた善き時代でした(笑)
 
 

仕様
(メインフレーム)
■ステレオミキサー:6インプット、外部インプット(ステレオ1系統)
■イコライザー:7バンド・ステレオ・グラフィックEQ
■MIDIポート数:2
 
(ASM)
■最大同時発音数:8音
■オシレーター:1ボイスにつき2基(オシレーター・シンク可)、ノイズ・ジェネレーターあり
■波形:矩形波、鋸歯状波、三角波
■フィルター:VCF(2または4基、レゾナンス可)
 
■発売当時の価格:169,000円(MSR2)、69,000円(ASM)※オプション
■発売開始年:1994年頃

 

関連記事および広告

関連記事および広告


-その他メーカー, 楽器・機材【Vol.〇〇】