【Vol.424】Roland SR-JV80-01~06 ~90年代ローランドのエキパン!(その1・初期製品モデル)
2019/06/23
さて今回はちょっと趣向を変えて、シンセサイザーに取り付ける専用の拡張音源ボード(エキスパンション・ボード。以下エキパン)について掘り下げてみたいと思います。
タイトルにもあるように、90年代ローランドのエキパンといえばそう、SR-JV80シリーズですね! 当時のローランドの主力シンセサイザーであるJVシリーズ、XPシリーズ、あるいは次世代のXVシリーズ(の一部の機種)などに後付けで装着することができた、オプションの音色(波形)拡張用ボードのことです。
このSR-JV80シリーズ(製品版)ですが、1992年から2000年頃までの長きにわたり全19種類が発売され、セールス的にもヒット商品となりました。90年代のローランド・シンセや流行音色を語る上でも非常に重要な役割を果たした製品群といえるでしょう。
というわけで今回から3回にわたり、これら19本のエキパンを全て紹介してみたいと思います。かつて購入した方も、『あ~これ昔持ってた!』と懐かしさに浸って頂ければ幸いです(笑)
はじめに
90年代当時、いわゆるPCMベースのデジタル・シンセサイザーにおけるサウンドクリエイトは、いかに “高品位”で “使える”音色が多数備わっているかというかという点で評価されることも多い時代でした。本SR-JV80シリーズでは当時の流行音色から、ジャンルを絞ったマニアックなサウンドまでラインナップしており、ユーザーのニーズに幅広く対応しました。
価格はシリーズ通じて1枚につき25,000円(税別)。当時としては大量のウェーブをこの価格帯で購入できるというのは非常にコストパフォーマンスに優れていたと言っていいと思います。
ちなみにローランド音源の波形の最小単位は「ウェーブ」と呼ばれ、それを組み合わせた1音色が「パッチ」という単位で扱われます。各ボードごとのウェーブ数とパッチ数は異なるため、それぞれ記述しておきました。それでは各シリーズごとに細かく見てみましょう。若干僕の主観も入ってます。
SR-JV80-01 “Pop”
ロックやポップス、あるいはジャズなどにおいてよく使われるベーシックなサウンドをまんべんなく収録した記念すべき初ボード。16bitにリア・フォーマット換算で16MB相当の(当時としては)大容量を誇っていました。
ピアノ、エレピやギター、ベース、ストリングス、ブラスなど、ジャンルを特定せず使用頻度が高い音色が網羅されているという印象ですね。“とりあえず一枚増やしたい”というケースで重宝すると思われます。
■ウェーブ数:224
■パッチ数:145
SR-JV80-02 “Orchestral”
オーケストラ・アンサンブルで使用される、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスなどの弦楽器、あるいはブラスなどの金管楽器、オーボエ、クラリネットなどの木管楽器などを網羅した一枚。文字通りオーケストラ楽器に特化したボードですね。
他にもピアノ、ハープシコード音色などの鍵盤楽器、ティンパニなどの打楽器も見られますね。オケヒットもあったりします。独立音源モジュールとしては「M-OC1 “ORCHESTRA”」が相当します。
■ウェーブ数:174
■パッチ数:255
SR-JV80-03 “Piano”
文字通りピアノ系のウェーブに特化したボード。クラシック向けの重厚な響きのコンサートグランドから、バンドでも使いやすいエレクトリックピアノ(Rhodes、Wurlizer、FM等)、さらに同社のRD-1000(いわゆるSA音源)やクラビネットの音色もいくつか収録。
ピアノ波形はそもそも大容量のウェーブを必要とすることもあり、本ボードでは他ボードに比べ、ウェーブ数/パッチ数ともに若干少ない感じですね。おそらく各ウェーブは贅沢にサンプリングされているものと予想します。
■ウェーブ数:73
■パッチ数:111
SR-JV80-04 “Vintage Synth”
世界中のビンテージ・シンセの音色を多数収録したボード。一部パッチでは、3D立体音場テクノロジー(RSS)を活用したものも収録してあるそうです。また、JD-990のみ専用パッチを使用可能となっています。
さすがに他社シンセのモデル名をそのままパッチ名として採用してあるものは少ないですが、逆にローランド社製の過去の名機は堂々と表記してますね(笑)。SYSTEM-700、SH、JX-3P、Juno、Jupiter、D-50などなど。。
実際のビンテージ・サウンドをどの程度再現していたかというのはとりあえず置いといて、気軽にビンテージ・シンセのテイストを多数追加できるという点で便利だったのかなと。
なお独立音源モジュールとしては「M-VS1 “VINTAGE SYNTH”」が相当します。
■ウェーブ数:255
■パッチ数:255
SR-JV80-05 “World”
世界中から集めた民族楽器の個性あるサウンドを収録。リストをざっと見ただけでも、琴、シタール、タブラ、バグパイプ、カリンバ、ケーナ、ガムラン、ディジェリドゥなどなど。。地域でいうとアジア(日本、中国、東南アジア、中近東等)、ヨーロッパ、北米/南米、アフリカ、オーストラリアなど、まさに世界中のエスニックなサウンドを網羅した一枚となっています。
なおウェーブにはフレーズそのものを丸ごと取り込んだものもあり、あまりなじみのない楽器でも、その楽器独特の奏法やフレーズで使うことができます。
■ウェーブ数:255
■パッチ数:255
SR-JV80-06 “Dance”
ダンス向けサウンドに特化したボード。ウェーブフォームは、当時ダンスミュージックの分野で定評のあったAMG(Advanced Media Group)社のサンプリングオーディオCD-ROM「Black II Black」「Remix」の中から大部分セレクトされているそう。
楽器としては同社のTR-808/909/TB-303/SH-101、ジャンルとしてはユーロビート/ハウス/ヒップホップ/テクノ/アシッドジャズ/ファンク辺りで使用頻度が高い音色が充実していました。
こちらのウェーブにも一部ループものが取り込まれており、そのクオリティの高さから当時のラインナップの中ではヒットモデルとなりました。とはいえすぐに生産中止となったのもマニアにとってはよく知られたところ(笑)
本ボード発売中止の経緯についてはローランド公式で未発表なので想像の域を出ませんが、おそらく著作権上の問題が発生したものと思われます。本ボードの独立ハードウェア音源モジュール「M-DC1 “DANCE”」も同時期に発売中止となりました。
■ウェーブ数:255
■パッチ数:255
ローランドからのお知らせ(2017年)
2017年1月27日、「SR-JV80シリーズ」に関して、ローランドから使用中止のお願い告知がHP上で発表されました。使用している電解コンデンサーが経年劣化により まれに中の電解液が漏れることがあり、もし電解液が漏れ出た場合、最悪の場合には発煙の恐れがありますとのこと。詳細は以下ローランドサイトからご確認ください。
エクスパンションボード SR-JV80 シリーズをご愛用のお客様へ
https://www.roland.com/jp/support/support_news/170119/
個人的つぶやき
今回取り上げた6枚は、シリーズ初期のおおむね1992~95年の製品群ということになります。当時のシンセ側といえば、鍵盤付きのJVやモジュールのJV-1080などが主流だったという感じでしょうか。
初期の製品群こそベーシックなラインナップですが、徐々にコンテンポラリー(当世風)なボードが充実していくといった印象ですね。音色や音楽ジャンルの流行も時代によって移り変わっていくわけで、SR-JV80中期シリーズではそれがさらに顕著に現れます。まさに時代を映す鏡ですね。
それではまた後日、続きの記事にてお会いしましょう。
書きました!↓
「SR-JV80-07~12 ~90年代ローランドのエキパン!(その2・中期製品モデル)」
「SR-JV80-13~19 ~90年代ローランドのエキパン!(その3・後期製品モデル)」
関連記事(本ボード群の独立ハード音源モジュール版):
「Roland M-OC1/M-SE1/M-VS1/M-DC1 ~音色特化型1Uモジュール群[1995年]」
関連記事(SR-JV80シリーズが挿せるシンセサイザー):
「Roland JV-80 ~エキパン「SR-JV80シリーズ」搭載可能の初シンセ[1992年]」
「Roland JV-1000 ~二つの心臓を持ったモンスター・シンセ[1993年]」
「Roland JV-90 ~JV-1000からシーケンサー部を除いた76鍵シンセ[1993年]」
「Roland JD-990 ~その1・個人的回顧録[1993年]」
「Roland JV-1080 ~90年代の人気音源モジュール(前編)[1994年]」
「Roland XP-50 ~マイ・ファーストシンセ回顧録[1995年]」
「Roland XP-80 ~XP-50をリファインした76鍵仕様シンセ[1996年]」
「Roland JV-1010 ~GM音源も内蔵したハーフラック・音源モジュール[1999年]」