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1960~80年代 KORG 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.345】KORG M1 ~【前編】世界中で記録的大ヒットしたワークステーションタイプ・シンセサイザー[1988年]

2018/11/28

 

 

 さあついにこの機種を紹介する機会がきましたよ。今回は1988年5月にコルグから発売された「KORG M1」というシンセを取り上げます。発売当初の定価は248,000円。リアルなPCM音源を搭載、さらに本格的なシーケンサーも内蔵。ちなみにメーカーは発売当時、本機を “シンセサイザー”ではなく「ミュージック・ワークステーション」と称していました。

 

KORG M1

 

 M1といえば今日でも続く “オールインワン・シンセ”の草分け・源流として名を残していますね。またシンセサイザーとしては異例のベストセラー機となりました。今から30年も前の機種なのですが、ソフトシンセ等で復刻しているので最近の若い人でも知っている人も多いと思います。
 
 
 本機に関しては記述するポイントが余りに多いのですが、とりあえず記事を前後半に分け、今回(前半)は音源部(およびエフェクト)についてメインに書いてみたいと思います。
 
 
 

まずは概要

 16ビット・サンプリング波形を素材とし、ハイクオリティなサウンドを構築できる「ai(advanced integrated)シンセシス・システム」を搭載。この言ってみればPCM音源方式と言える音源部を核に、8トラックのデジタル・シーケンサーおよび高品位のデジタル・エフェクター(2系統)を内蔵。これ一台のみで個人でも非常に高い質の音楽制作を可能にしました。
 
 
 本機が当時の音楽シーンに与えた影響は大きく、特に内蔵されていたピアノ音色は様々なジャンルの楽曲に録音され、「M1ピアノ」という一つの確立した音色名として定着するまで浸透しました。
 
 
 

音源部について

 音源メモリー部は、2Mワード(→4Mバイト相当)のROMを有しており、これは当時の水準からすれば大容量メモリーといったところです。この中に、音源波形としてサンプリングされたピアノなどのPCM波形が62種類、そしてD.W.G.S.波形(※1)が23種類、ドラムキット用サウンドが44種、ほか分離波形データ15種を加えて、全144種類の波形データがメモリーされています。
 
 
 これら波形はいずれも16ビットでサンプリングされた素材であり、これだけでも当時としては相当なサウンド・クオリティを誇っていたといったところですね。
 
 
 

音色について(個人的所感入り)

・ピアノ系 …「Piano 16'」に代表される、アタックが速くキンキンに堅いピアノ音色が有名。
 
 これは本物のピアノ、あるいは今日のシンセのゴージャスなピアノ音色に比べれば非常にぶっきらぼうでシンプルな音色なのですが、アタッキーで倍音が少ないため刻んで弾くと割といい感じになります。いわゆるロック・ピアノ向け。これはのちに「M1 Piano」と呼ばれ、バラードだろうが何だろうが一時期全世界で使われてたんじゃないかというピアノ音色という印象ですね。
 
 
・オルガン系 …「Organ2」が有名。キャラクターとしてはハモンドっぽい感じですが、当時のハウスとかで使われまくりました。こちらも「M1 Organ」として音色が確立され、のちのコルグ社の多くのシンセにも(シミュレーションしたものが)搭載されました。
 
 
・生ギター/生ベース系 …PCM音源の良さを生かしたリアルなサウンドが特徴。ジョイスティックでニュアンスを変えることにより、特にフレットレスベースなどは非常に生っぽく鳴ってくれます。ギターのマルチ・サウンドにはハーモニクスの音もサンプリングされていてこちらもリアルでした。
 
 
・ブラス系 …これまたPCMの良さが生きた音色。コンビネーションモードにて重ねるとよりゴージャスなサウンドになります。特に内蔵リバーブの乗りが良く、独特な質感・広がりを得ることができます。
 
 
 
 あと、言葉では表現しにくいのですが、「カラカラカラ」と美しく響く、独特なキラキラパッドもM1ならではの音色として有名。基となるピアノ音などに薄く重ねると非常に品良く鳴ってくれます。パン・フルートの音色も好きでした。余談ですが、M1開発時におけるプリセット音色作り(ボイシング)に関してはコルグ社外のスペシャリストを招いて作られたそうですよ。
 

KORG M1(advertisement)
M1/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
 
 
 

音作りの実際

 本体内の内蔵されている様々なサンプリング波形をオシレーターに割り当て、フィルター(VDF)、アンプ(VDA)にて加工していくという基本構成。流れとしてはいわゆるアナログ・シンセを踏襲した分かりやすい感じになっています。もちろん各セクションにかけられるモジュレーション、エンベロープ・ジェネレーターも搭載していますね。
 
 
 オシレーターは2系統あり、いわゆるシングルの他にも、2つを組み合わせたダブル・モードも用意されています(※ダブルの場合は同時発音数は半減する)。このように音源部にてパラメーター変更を施した波形は、後述する内蔵エフェクターを掛けた状態で「プログラム」と呼ばれる音色単位となります。
 
 
 さらにこの「プログラム」を組み合わせた音色は「コンビネーション」と呼ばれます。この辺りはコルグ社のデジタルシンセに親しんでいる人にとってはおなじみの概念といったところ。プログラムは最大100、コンビネーションも同じく100まで本体内にメモリー可能です。

 

 

 

内蔵エフェクターについて

 完全デジタルのステレオ・エフェクトを2系統搭載。
 
 エフェクトは全33種類で、空間系(リバーブ、コーラス、ディレイ、フランジャー等)の他にも、エキサイター、ロータリーエフェクト、オーバードライブなど、様々な楽器音に対応する目新しいものも内蔵していました。前述したピアノにエキサイターを掛けてさらにクセを強く出したり、ロータリーにてオルガン、ギターにオーバードライブなどの使い方が定番といったところ。
 
 
 よく使うリバーブも、音場によるバリエーション(ホール、ルーム等)が6種類用意されていて、各々にリバーブ・タイムやリフレクション・レベルを調整することができ、細かな調整が可能になっています。M1のリバーブといえば個人的には “品がいい”という印象ですね。
 
 
 ちなみにM1では、この内蔵エフェクターを通ってからD/Aコンバーターを通過し信号出力されているようになっているので、アウトプットの直前までは劣化のないデジタルにて処理されます。この辺りも地味にM1の “音の良さ”に貢献している仕様と言えるでしょう。
 
 
 

続きもあるよ

 さて前半記事はこれにておしまい。後半(主にシーケンサー部についての記述)に続きます。
 
 
 続き→ 「KORG M1 ~【後編】ワークステーションタイプ・シンセの出発点[1988年]
 
 
 

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※1 D.W.G.S. …同社のDW-6000、DW-8000などで採用されていた音源方式。サンプリングした波形の倍音成分をコンピューター解析し、倍音加算にて再現したもの。

仕様
■鍵盤数:61鍵(イニシャルタッチ、アフタータッチ付き)
■最大同時発音数:16音(シングル・モード時)
■音源方式:aiシンセシス・システム
■波形メモリー容量:2Mワード(4Mバイト相当)
■音源フォーマット:16ビット
■プログラム数:最大100プログラム
■コンビネーション数:最大100コンビネーション
■シーケンサー部:
 8トラック/8マルチティンバー、最大7,700ステップ(ROMカード使用時最大15,400ステップ)
 10ソング、100パターン

■ディスプレイ:40文字×2行 バックライト付きLCD
■外形寸法:1058(W)×110(H)×355(D)mm
■重量:16kg
■発売当時の価格:248,000円
■発売開始年:1988年

 

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