【Vol.415】ENSONIQ EPS ~データロード中の操作が可能なサンプラー[1988年頃]
2018/11/28
今回ご紹介する電子楽器は、かつてエンソニックというメーカーが発売したサンプリング・キーボードの「EPS」です。日本での発売は1988年初頭頃で、当初の定価は320,000円でした(のちに価格改定)。
これは、以前本ブログでも紹介した同社のシンセサイザー「ENSONIQ SQ-80 ~ポリフォニック・キープレッシャー対応の“クロスウェーブ・シンセ”」と同時発売されているんですよね。この2台はシンセとサンプラーということで根本的なコンセプトは全く異なるのですが、まるで兄弟機のような扱いだったように思います。デザインも似ています。
概要
16ビット・フォーマットで最大52.1kHzのレートでのサンプリングが可能な、61鍵盤付きサンプリング・マシン。本体に3.5インチFDDを備えており、フロッピーからのデータのロード中でも演奏およびファンクション操作が行える「プレイ&ロード」機能を装備。他にも8トラック・シーケンサーを内蔵しています。
ちなみにEPSとは【Ensoniq Performance Sampler】の頭文字からのネーミング。その名の通り、楽器としてのパフォーマンス(ライブ)向けサンプラーというコンセプトの下、開発が進められました。
サンプリング・スペック
サンプリング・レートは6.25~52.1kHzまで、全40段階のレートから選択可能。データ・フォーマットは16ビット、サンプリング・コンバーターが13ビット(内部処理は24ビット)となっています。
内蔵のインターナル・メモリー(RAM)は480kバイトであり、その標準状態で以下のサンプリング・タイムを実現しています。
41.70秒(6.25kHzの時)
4.95秒(52.1kHzの時)
約5秒間ではありますが、CD(44.1kHz)、当時のDAT(48kHz)を上回る音質でサンプリングができたということですね。これはサンプラー黎明期の頃と比較したら飛躍的にスペックアップしており、同時代の他社サンプラーと比較して立派な数字と言えるでしょう。なお、いわゆるライブでの “ワンショット・サンプル再生”としてはこの5秒間というのは意外と長いです(笑)。結構使えたと思いますよ。
さらにオプションのエキスパンション・ボードを取り付ければ、480kバイトのメモリが最大2.1Mバイトまで拡張できたとのこと。当然サンプリング・タイムもメモリ容量に(ほぼ)比例して長くなります。
ちなみに同時発音数は再生時のサンプリング・レートによって異なり、31.2kHzの時はMaxの20ボイス、52.1kHzの時には12ボイスとなります。
「プレイ&ロード機能」について
ディスクからデータをロードしている間でも、鍵盤をプレイしたり各種ファンクション操作が行えるというもの。本機の目玉ともいえる機能であり、世界初だそうです。
当時のこのクラスのサンプラーだと、ディスク1枚を本体にロードさせるのに1分近くかかるなんてことはざらであり、さらに大きなサンプルを扱う際には複数のディスクをとっかえひっかえして読み込ませないといけないという時代でした。
まーとにかく時間と手間がかかったということで、(タイムテーブルが決まっている)ライブ時では特に神経を使っていたのです。。しかもロードしている間は、基本的に他の操作は一切できなかったというのも当たり前でした(※これは当時のパソコンでもほぼ同様)。
個人的に実際にベンチマークを行ったわけではありませんが、EPSではそれらロードが数秒で終わり演奏可能な状態になったそうです。
鍵盤はポリフォニック・キープレッシャー(Poly-key™)に対応
同時発売のシンセSQ-80でもそうでしたが、本サンプラーの鍵盤部にもポリフォニック・キー・プレッシャー(アフタータッチ)が搭載されています。
本機の優れている点が、そのアフタータッチ(キー・プレッシャー)が各鍵独立して “ポリフォニック”でできることであり、これは当時のこの価格帯のキーボードとしては珍しいものでした。なおアフタータッチそのものについては、必要に応じて以下記事を参考にしてください。
関連記事:
「ENSONIQ SQ-80 ~ポリフォニック・キープレッシャー対応の“クロスウェーブ…」
「シンセサイザーの「アフタータッチ」機能について ~現行シンセの対応表も記して…」
内蔵シーケンサーについて
本機では、8トラックでMax約80,000音もの音符情報を記録できるシーケンサーを内蔵。基本的な機能はSQ-80と同じみたいです。ただし約80,000音というのはインターナル・メモリーを丸ごと使っちゃうケースでのみ実現できる数字であり、実際にはもう少し減ると思われます。とはいえ前述したようにオプションのメモリによって拡張は可能みたいですね。
シーケンス入力はリアルタイム/ステップの両方に対応。当時のドラムマシンのように「パターン」を組んで、そのあとにその演奏順をソングで並べるタイプです(一つの「パターン」の最大小節数は最高999小節)。
リアルタイム入力においても、パンチ・インやマージといったオーバーダブ機能は一通り備えているといった感じです。
外部記憶メディアについて
3.5'FDD(2DD)を標準搭載。ディスク1枚につき約880kバイトの容量を保存できます。ちなみに本機では同社の「Mirage」のライブラリー・データも読み込ませることができます。
EPS/エンソニック・ジャパン・インコーポレイテッド 雑誌広告より画像引用
個人的つぶやき
EPSは、普及型サンプラーの元祖ともいえる「ENSONIQ Mirage(ミラージュ)」の、言わば次世代モデルといったところですね。のちにラック版のEPS-m、機能拡張版のEPS-16 Plusなども発売されています。
EPSが発売された1988年初頭といえば、AKAIのサンプラーで言えばS900、RolandだとS-50(S-550)、KORGだとDSM-1などの国内モデルがすでに世に出ており、EPSはどちらかというと後発の部類に入ります。まあ後発だけあってサンプリング方面のスペックは結構しっかりしてたし、「プレイ&ロード」といった目玉となる機能もあったりして、なかなかの存在感を放った一台といったところでしょう。
そしてエンソニックのサンプラーの音といえば、“原音を高音質で、できるだけ忠実に再生する”という当時の国内メーカーが目指していた(と思われる)方向性とは異なる、何か全く別のコンセプトを掲げていたという印象です。本機EPSでもそれが感じられ、最初から『エンソニック独特のクセのあるサウンドに染めまっせ~』みたいなイメージがありますね(笑)
関連記事(エンソニック社製サンプラー):
「ENSONIQ Mirage (DSK-8) ~「幻想」ではない、黎明期サンプラーの…」
「ENSONIQ Mirage DMS-8 ~ラックになったミラージュ[1985年頃]」
「ENSONIQ ASR-10 ~EPS-16 Plusが進化した高性能サンプラー[1993年]」
「ENSONIQ ASR-10R ~ASR-10のラック版!だけじゃない[1993年]」
仕様
■鍵盤:61鍵(ベロシティ、ポリフォニック・キープレッシャー対応)
■最大同時発音数:20音
■内蔵メモリー容量:480kバイト
■サンプリング・レート:6.25~52.1kHz
■サンプリング・タイム:4.95~41.7sec(標準時)
■シーケンサー・メモリー容量:最大約80,000音(標準時)
■外形寸法:1030(W)×90(H)×340(D)mm
■重量:13kg
■発売当時の価格:320,000円(のち改定)
■発売開始年:1988年初頭頃