【Vol.210】KORG EX-8000 ~コルグDW-8000の2U音源モジュール版[1985年]
2018/11/26
今回は、1985年にコルグから発売された「EX-8000」というシンセサイザーについて記してみたいと思います。“世界初のプログラマブル・デジタル・ディレイ内蔵シンセ”であるDW-8000から鍵盤部を取り除いた、2Uラックサイズの音源モジュール版ですね。当時の定価は149,000円と、DW-8000と比較して5万円ほどお安くなっています。
実はEX-8000の音源部はそっくりそのままDW-8000のそれを移植しているため、外観以外はほとんど違いが見られません。VCF、VCA、EG、音色メモリー、アルペジエーター等も一緒。よって内部仕様については「KORG DW-8000 ~世界初のプログラマブル・デジタル・ディレイ内蔵シンセ」の記事をご参照いただければ幸いです。
音源部
音源部は重要なので念のため記しておきましょう(※DW-8000の記事とほぼ重複します)
「D.W.G.S.【Digital Waveform Generator System】」方式の音源を搭載。EX-8000(およびDW-8000)では、2系統のデジタル・オシレーターにそれぞれ16種類の基本波形を装備。これらはバイオリン、ピアノ、トランペットなどの様々な音色を倍音加算方式でシミュレートし、256kビットのROM(×4)に記憶しています。
デジタル・シンセ特有のアタック感の強いサウンドは本機の得意とするところですが、本機にはアナログでもおなじみのサイン波、ノコギリ波、矩形波なども含まれており、アナログ・シンセのような温かく厚みのあるアンサンブルも構築可能といった感じです。
2つのオシレーターを装備しているので、2つの音程をずらしたり(短3度、完全5度など)、ピッチを微妙にずらして重ねて厚みを出す「デチューン」も割と簡単に作れます。また同時発音数も8と、前年に発売されたDW-6000よりも2音増えています。
DW-8000, EX-8000/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
内蔵のデジタル・ディレイについて(DW-8000/EX-8000)
シンセ本体にデジタル・ディレイを内蔵。ディレイ・タイムは最長512msecであり、今見るとちょっと短いかな?という感じですが、当時としては搭載されたこと自体が驚きでした。
なおディレイの設定は、64プログラムのそれぞれの音色ごとにメモリーが可能となっています。TUNE、FEEDBACKなどの6つのパラメーターがあり、コーラスやフランジャー効果(ショートディレイ+フリケンシー・モジュレーション深め)などを作り出すこともできるそうです。
オート・ベンド機能(DW-8000/EX-8000)
鍵盤を押すと同時に、打鍵された鍵盤に向かってピッチが自動的に変化する機能。ヒューマンボイスやブラスの音作りに有効でした。本機では上下1オクターブの範囲内でベンド設定ができ、TIMEパラメーターにより、打鍵したキーの音程になるまでの時間を25msec~6.4secまで変更可能となっています。
一種のポルタメントと言えるかもしれませんが、これとは別に通常のポルタメントも装備されていますね。
DW-8000との相違点
外観以外(=中身)はDW-8000とほぼ全く同じといっていい本機ですが、実はよく見るといくつか違いが確認できます。
「A4」スイッチを装備
この場合のA4とは、鍵盤センター付近の「ラ」のこと。このラはピアノなどでも一般的に440Hzの周波数に設定されていることが多いです。つまりこのスイッチを押すことで、鍵盤楽器のチューニングの基準になるピッチ(=88鍵ピアノにおける4オクターブ目のラ=440Hz)を、一発でマスター・キーボード側に情報送信できるというものです。
一部スライダーがツマミに変更
鍵盤付きのDW-8000では、パネル上の可変コントローラーはスライダーだけでしたが、ラック版のEX-8000では「VOLUME」、「TUNE」、「VALUE EDITOR」(※DW-8000ではエディット・スライダーという名称)が、スライダーからツマミに変更されています。機能的に変更点はなく、単にラックにする上での省スペース化が理由だと思われます。
MIDIインジケーターを装備
LED表示窓の左に、MIDI情報が送受信された際に点灯(点滅)する「MIDI INDICATOR」が配されています。
つぶやき的な
コルグのシンセ史を紐解いた時にしばしば登場するDW-8000に対し、ラック版のEX-8000はいまいち知名度が低いですね。。まあそもそもDW-8000(鍵盤付きモデル)もセールス的にあまり成功したとは言われていないため、そのラック版だったらなおさら市場に出なかったのかもしれません。
そんなEX-8000ですが、個人的には「何故そのネーミング?」とずっと感じていました。中身はDW-8000と同じだから、「だったらDW-8000Rの方が分かりやすくていいんじゃね?」と。いきなりEXと冠されていることで、特定機種の拡張専用の音源ボードかと勘違いされてしまいそうです。
と思って当時のEX-8000の文献をいくつか読んでいたら、“ライブ時に複数台のEX-8000を使い分けて弾くこともできる”という記述が散見されました。どういうことかと考えてみるに、“DW-8000は単品でも素晴らしいが、2台以上持っていたらそれはそれで有益に使える(→だったら場合によってはラックの方がいいよね)”、といった感じでしょうか。そうであれば「EX」の冠も分からなくもないです。。
関連記事(コルグDWシリーズ):
「KORG DW-6000 ~デジタル音源「D.W.G.S.」を搭載した80年代コルグ・シンセ」
「KORG DW-8000 ~世界初のプログラマブル・デジタル・ディレイ内蔵シンセ」
仕様
■最大同時発音数:8音
■プログラムメモリー数:64
■外形寸法:430(W)×90(H)×412.5(D)mm
■重量:7.5kg
■発売当時の価格:149,000円
■発売開始年:1985年