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1990年代'' 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.440】YAMAHA A7000 ~ヤマハ渾身の90年代中期ハイスペック・サンプラー[1995年]

2019/07/13

 

 

 今回取り上げるデジタル機材はヤマハが1995年に発売したサンプラー「A7000」です。
 
 発売当初の定価は600,000円(税別)で、これはその頃の一般的なサンプラーとしては結構高額な価格帯。大柄4Uサイズに当時最先端のスペックを詰め込んだ、いわばプロ向け(業務用)ハイエンド・サンプラーといったところですね。

 

YAMAHA A7000

 

 ヤマハの本格路線サンプラーというと、TX16W(1987年)以来実に8年ぶりとなる新作。その間、他社製品をじっくり研究しつつ、虎視眈々と開発を進めていたのでしょう。そんなヤマハさんの意欲機・A7000を、ハード・サンプラーの3大要素?といえる「音質」「操作性」「拡張性」を中心に展開してみたいと思います。
 
 
 なおA7000は後にVersion2というバージョンにアップデートされたのですが、本記事では初期リリースのVersion1について記述しますのであしからずです。
 
 
 

メモリー/音質について

何はともあれ音質に関わる “数字”を箇条書きにしてみます。

・波形メモリ:8MB(標準) ※拡張により最大64MB
・サンプリング周波数:
  48kHz/32kHz(システムクロック=48kHz)
  44.1kHz/29.4kHz(システムクロック=44.1kHz)
・周波数特性:5kHz~22kHz
・A/D変換およびD/A変換:20ビット
・ピッチシフト歪み:0.01%以下(/1oct平均)

 
 標準状態で8MBのメモリーは、(この時代であったとしても)本体価格からすればかなり見劣りする容量。ただし増設メモリーは当時よく出回っていた汎用SIMM(30pin。4MBまたは1MB)を使えたので、比較的安価でMAXの64MBまで拡張することができました。ちなみにサンプリング・タイムは、48kHz, モノラルの場合で、標準8MBで約87秒だったそうです(ステレオ録音の場合は半分のタイムになる)
 
 
 サンプリング周波数はCD音質を上回る48kHz。またA/Dコンバーター、D/Aコンバーターは共に20ビット・リニアであり、これはその頃とすればかなりのハイクラスといえるでしょう。
 
 
 サンプラーにつきもののピッチ・シフト機能ですが、A7000ではこれによる元音の歪みが(平均して1オクターブあたり)0.01%となっていて、これも優秀なスペック。一般にピッチシフトの歪みが少ないほど、サンプルを各鍵盤にマッピングした時の全体の音質が良くなります。
 
 
 この辺りは、“老舗プロフェッショナル・オーディオメーカー”としてのヤマハのノウハウが、本サンプラーでも生かされているという印象ですね。
 
 
 

補足・同時発音数について

A7000の同時発音数は標準仕様で32音。
 
なおオプションの音源ボード(ATGB32)を増設することにより、64音ポリに拡張することができました。ちなみにこのボードを増やすと最大メモリー容量もMAX128MBになったそうです。

 

 

 

操作/音作りについて

 大型のジョグ/シャトル・ダイヤルによる「スクラブ」や、データ読み出し中も他の操作が可能な「バックグラウンド・ロード」、自分好みの作業目的に合わせて操作モードをカスタマイズできる「プリファレンス機能」などなど、多彩な機能を搭載。
 
 
 大型ディスプレイと上記のダイヤル採用により、ループ、クロスフェード、オートマッピング、タイムストレッチなどサンプラーならではの波形編集も比較的行いやすくなっている感じですね。各種パソコンとも簡単につなげられるので、PCベースでのエディットにももちろん対応します。
 
 
 音作りに関しては、キレのいいフィルター(最大カットオフ・スロープ48dB/oct)や、多数の内蔵エフェクトにより、シンセ感覚で積極的に行えるといった感じです。
 
 
 

入出力/拡張性について

 4Uの広大なスペースを生かし、本体前面および背面部には多数の入出力端子が備わっているのが確認できます。MIDI端子やオーディオIN/OUT端子はもちろん付いているとして、以下のような端子も標準で付いてたりします。
 

・デジタル・インプット端子(CD/DATと、AES/EBU)
・デジタル・アウトプット端子(YAMAHAと、AES/EBU)  YAMAHA形式と呼ばれるデジタル信号
・ワードクロック端子(IN/OUT)

・TO HOST端子(IBM互換機、NEC98、Mac等のパソコンと直接接続)
・SCSI端子×2(オプションのMOドライブ/HDDなどと接続)

 
 これとは別に8個のアナログアサイナブル・アウトプット端子もありますね。デジタル/アナログ含め、これだけ豊富な入出力端子を備えているのは特筆すべき点だと思います。
 
 
 拡張性という意味ではSCSI(スカジー)ポートが2基配置されているのがポイント。SCSIでつなぐMOドライブやHDD(別売)は大量のデータを扱うことができるということで、当時としては最先端のストレージ・デバイスだったわけです。しかも4Uという図体を生かして本体に内蔵することができました。
 
 
 そうはいってもSCSI経由で大量データの移動には結構な時間がかかったという話は聞きますね。。SCSIという規格自体の限界なのか、A7000側の設計のせいなのかはよく分かりません。ちょっとしたサンプルだったら、内蔵の3.5'FDD(2HD)を使うのが便利ですね(でもやっぱりデータセーブには時間がかかったそう)。
 
 
 なお本機には「ダイレクト・トゥー・ディスク録音」という機能があり、これはMOやHDDなどのストレージ・デバイスに直接レコーディングすることが可能となっています。

 

 

 

他サンプラーとの互換性について

 新品で購入した際にはサンプルのCD-ROM、フロッピーディスクが付属されており、とりあえずサウンドを鳴らすことが可能。専用のライブラリー・ディスク(別売)もいくつか用意されました。
 
 
 とはいえやはり気になるのが既存のサンプルデータとの互換性。公式では同社のSY99、TX16Wのデータファイル(波形、マッピング)のロードが可能と記述されています。膨大なライブラリーを誇るAKAIフォーマットのデータも読めるという話を聞いたことがありますが、真偽のほどは不明なのでご参考までに。
 
 
 関連記事:「YAMAHA SY99 ~高音質・高機能を誇ったヤマハ渾身のハイスペック・シンセ[1991年]
 
 
 

つぶやき

 90年代中期のハードウェア・サンプラーというと、定番のAKAI professionalを筆頭に、E-mu、Rolandあたりのそれを思い浮かべる人も多かろうと思います。そう、YAMAHAってあんまり “サンプラー”ってイメージなかったですよね。。
 
 
 A7000はそれら他社サンプラーの後発タイミングでリリースされたものであり、他社マシンのいい部分を取り込んだみたいな、戦略的かつ集大成的な一台だったと回想します。セールス的にはさておき市場へのアピールとしては悪くなく、そこそこのインパクトを与えたられたのではないでしょうか。
 
 
 その後同社のサンプラー「Aシリーズ」はダンス路線のA3000(1997年。179,000円)、A4000(1999年。149,000円)などと続くのですが、最初に究極のハイスペック・モデルを投入しておいて、徐々にお手頃モデルにシフトしていくというのも実にYAMAHAさんらしいですね。ジャンルは違うけど、以前本ブログでも取り上げたQX1(シーケンサー)なんかに近いかも。
 
 
 
 関連記事(同時代のサンプラー):
 「Roland S-760 ~1Uサイズに凝縮された90年代の高性能サンプラー[1993年]
 「AKAI S2000 ~AKAIとMacの強力タッグ!?サンプラー[1995年]
 「YAMAHA SU10 ~リボンコントローラー装備のコンパクト・サンプラー[1995年]
 

仕様
■最大同時発音数:32音  ※拡張により最大64音
■ティンバー数:最大16音色
■波形メモリ:8MB ※拡張により最大64MB
■サンプリング周波数:48kHz/32kHz(システムクロック=48kHz)、44.1kHz/29.4kHz(システムクロック=44.1kHz)
■A/D変換:20ビット 64倍オーバー・サンプリング
■D/A変換:20ビット 8倍オーバー・サンプリング
■内蔵エフェクター:ボイスエフェクト30タイプ、システムエフェクト16タイプ(モジュレーション系×5、リバーブ系×11)
■外形寸法:430(W)×180(H)×420(D)mm
■重量:15.8kg
■発売当時の価格:600,000円(税別)
■発売年:1995年

 

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