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KAWAI 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.439】KAWAI XD-5 ~パーカッション・シンセサイザー![1990年]

2019/07/13

 

 

 はいどうも! 今回紹介するデジタル機材は、1990年に河合楽器から発売されたパーカッション・シンセサイザー「KAWAI XD-5」です。発売当時の定価は95,000円。デジタル方式の2Uサイズ音源モジュールですね。

 

KAWAI XD-5

 

 これはいわゆる “パーカッション音源専用機”であり、当時のシンセ内ドラム音源では物足りないケースに、2台目の音源として使われることもよくありました。今でこそ、大量の音色・パターンを組み込んだ安価なリズム音源ソフトが広く出回っているのですが、当時としては他と差別化を図るためにこういった専用機が重宝されたわけなのですね。
 
 
 しかもXD-5では “シンセサイズができる”ということで、海外楽器ショーでの発表時はそこそこの注目を集めたわけです。では見ていきましょう。
 
 
 

内蔵波形について

 16ビット/44.1kHzでデジタル・サンプリングされたPCM波形が215個、DC波形が41個用意されています(※DC波形 …Digital Cyclic。PCM波形を解析して倍音加算によって再合成されたもの)。シンセ一台分、丸ごとパーカッション波形という感じですね。
 
 
 “打楽器音色だけで合計256波形!”ということで当時の広告でも大々的に宣伝されていたのですが、実際は(PCM波形において)ループさせたりリバースしただけのものとか、アタック成分だけ切り取ったものを別波形としてカウントしていたようで、純粋な波形の種類としてはもっと少ないといった感じでした。
 
 
 

シンセサイズできる(音を創造できる)!

 本機の売りはこれでしょう。最大4つのPCM波形を組み合わせ、シンセサイザーのようにフィルターやエンベロープなどを細かくエディットすることが可能です。
 
 
 ちょっとしたエディット可能なドラム/パーカッション音源というのは既に世に出ていたのですが、フィルター、レゾナンス、AM変調、ベロシティによる細かな音質コントロール等ができるのはXD-5ならではといったところ。なおAM変調というのは言ってみればリングモジュレーター(変調)みたいなもので、金属音など原波形にはない倍音を得ることができます。
 
 
取扱説明書に記述されている使用例を挙げてみましょう↓

リムショットはブラス・フープ製の明るい感じ、胴鳴りはマイルドで低いチューンにして、深胴ブラスリムスネアを作ったり。あるいは遅いアタックのシンバル波形と、速いアタックのクラップを混ぜ、世の中に存在しないSEを作ったり等々。

 AWAI XD-5取扱説明書より抜粋

 
 なるほどですね。アタック部とサスティン部を別の波形で組み合わせるというのは、当時のシンセサイズ手法としては王道ともいえるエディット術。これがパーカッション・マシンでできるというのは確かに興味深いですね。。特にアタックの速い打楽器系の音色変化は、ADSRで言うところの「Decay(ディケイ。減衰)」を徹底的にいじると面白くなるかも。

 

 

 

音色構成について

本機における基本音色構成を押さえてみましょう。

●シングル・パッチ …一つ一つの音色のこと
●キット・パッチ …シングル・パッチを組み合わせたパーカッションのセットのこと

 
 1音色(シングル・パッチ)を、MIDIノートナンバーで言うところのA1~C7までの88鍵に、1鍵ずつ設定したものを「キット・パッチ」というわけですね。
 
 
 XD-5には工場出荷時に16種類のキット・パッチがメモリーされており、ユーザーはもちろんその16種を任意にエディット/メモリーすることができます。足りなくなったら別売りのRAMカード(DC-16)に保存できますし、同社のQ-80などのシーケンサーへの保存も可能ですね。
 
 
 関連記事:
KAWAI Q-80 ~カワイのシーケンサー専用機[1988年]
KAWAI Q-80EX ~Q-80がパワーアップしたシーケンサー専用機[1992年]
 
 
 88鍵のMIDIキーボード・コントローラーを持っていれば、全パッチ(音色)を同時発音可能ということで便利ですが、61鍵でもトランスポーズすれば問題ありません。というか、パーカッション・セットで88音色全てを配置するというのものあまりないと思うのですが。。
 
 
 

見た目&操作性(主観入り)

 本体左側のカードスロットが独立したデザインとなっていて、見た目はまるで業務用カセットデッキのような印象を受けます。こんなようなデザインのカセットデッキ、はるか昔の学校の放送室/音楽室にあったような気がしますよ(笑)
 
 
 ちなみにXD-5はその独特のデザインが評価され、1991年のグッドデザイン賞(の商品デザイン部門)にも選ばれたそうです。小ネタでした。
 
 
 操作性はというと、16×2で表示されるディスプレイを見つつ、バリュー・スイッチ(およびバリュー・スライダー)でパラメーター値を変更していくといった流れ。スイッチの数は全体的に多めですが、機能兼用スイッチは少なく、KAWAIシンセサイザーと見れば比較的シンプルで扱いやすい印象です。まあPCMですし。
 
 
 なお本機のディスプレイに表示されるパラメーターは常に一種類のみであり、そのためディスプレイ内を移動するカーソル・キーはありません。
 

KAWAI XD-5(advertisement)
XD-5/(株)河合楽器製作所 雑誌広告より画像引用
 
 
 

オーディオ・アウトプットについて

 通常のステレオアウト(L/R)に加え、6つの独立したパラ・アウトを装備。スネアやシンバルなど特にエフェクトにこだわりたい音色はパラで立ち上げて、別途エフェクターをかますなどの使い方が考えられます(2つのL/Rアウトには、その他パーカッション群の音色をパンニングで振る)。
 
 
 

つぶやく

 その頃のKAWAIお得意の倍音加算方式を封印し、リアルなPCM方式でのシンセサイズにこだわった異色のパーカッション専用機といいましょうか。。KAWAIとしては非常に斬新な試みだったのではないかと回想します。
 
 
 個人的には、リズム音色については実際のところ、シンセサイズよりも “エフェクトを使う”方が直感的かつ実用的に変化を付けられると思います。でも本機では内蔵エフェクターをばっさり割愛しており、この辺りは当時のKAWAIさんの潔さみたいなものを感じますね。
 
(KAWAIシンセの内蔵エフェクターはあまり出来がよくないと感じていたのは多分僕だけではないはず。。でも代わりにパラアウトを付けたのは良設計)
 
 
 
 関連記事(パーカッション専用音源マシン):
 「E-mu PRO/CUSSION ~90年代初頭のドラム/パーカッション専用音源[1991年]
 「Roland TR-707/TR-727 ~TR-909の後に発売された“フルデジタル”・RhythmComposer [1984~85年]
 
 

仕様
■音源:16bit PCM+16bit DC
■最大同時発音数:16音(ノーマル時)、8音(ツイン, ダブル時)
■プログラム・メモリー:本体80(シングル64、キット64)、別売カード80
■ディスプレイ:16×2 LCD(バックライト付)
■外形寸法:483.0(W)×88.0(H)×218.5(D)mm
■重量:2.8kg
■発売当時の価格:95,000円(税別)
■発売開始年:1990年

 

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