1970~80年代' Roland 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.421】Roland MSQ-100 ~MIDI規定後間もないお手頃デジタル・シーケンサー[1984年]
2019/07/07
まいど。今回は1984年にローランドから発売された「MSQ-100」という機材を取り上げてみたいと思います。
これは何かと言うと、演奏データを打ち込んで自動演奏させることができるといういわゆるハードウェアMIDIシーケンサーの一種ですね。当時メーカーでは本機を “MIDIデジタル・キーボード・レコーダー”と銘打っていました。
昨今の音楽制作(DAW)はコンピューターだけでほぼ完結できてしまうのですが、かつては本機のようなハードウェア・シーケンサーがトラックメイク・システムの中核を担っていたわけです。当時規定されて間もないMIDIにも対応したこのMSQ-100、ちょっと色々書いてみましょう。
MSQ-100概要
最大記憶容量約6,100音(※単音、キー・ベロシティなしの場合)を実現した、MIDI対応のポリフォニック・シーケンサー。小型、軽量設計ながら、演奏に必要な多量の情報をスムーズに記憶・再生することができました。発売当時の定価は79,000円。
ちなみにMSQ-100が発売される数か月前には「MSQ-700」(定価158,000円)という上記機種がリリースされており、MSQ-100はそれの一部スペックを落として(あるいは削って)価格を落とし、全体的にコスパ感を高めた普及モデルといったところです。
記憶容量について
キー・ベロシティ(キーを押す強弱)なしで単音約6,100音、キー・ベロシティありで単音約4,900音を本体内にメモリー可能。
なお今では考えられませんが、この頃の(比較的安価な)音楽機材に内蔵されていたメモリーは、数日でデータが揮発してしまうというものが多かったですね。本機MSQ-100ではわずか約1日でデータが消失してしまったそうです。よってデータ作成後はテープに保存するというのが一般的でした。
記憶(レコーディング)方式
以下2通りありました。
リアルタイム・ロード
いわゆるキーボード(鍵盤)を接続してリアルタイムに演奏情報を記憶する方式。そう、本機はMIDI装備であるため外部鍵盤とも簡単に接続することが可能でした。そしてMIDIならではのリアルタイム情報(ピッチベンド操作、モジュレーションホイール操作)もデータとして記憶してくれます。
まあ現代の感覚だとどうってことないのですが、MIDI以前のシーケンサー(CV/Gate方式)では各ノートのON/OFFやその長さなど簡単な情報しか扱えなかったのです。
本機はMIDIシーケンサーであり、これによりキー・ベロシティはもちろん、サスティン・ペダルのON/OFF、ベンダー、モジュレーション、あるいはプログラム・チェンジ(音色切り替え)などの、当時としては高度な情報記憶も可能にしたといったところですね。
ステップ・ロード
音程およびキー・ベロシティはMIDIキーボードから入力し、音の長さはMSQ-100内で設定・記憶する方式。本体内で行える設定というのはステップ・タイムのことであり、8分音符、1拍3連、16分音符の3つから選択し、正確かつ細かくプログラミングしていくことが可能です。
なおMC-4にあったテンキーはMSQ-100には見られません。セミ・ステップ入力方式といった感じでしょうか。
エディット機能について
上記のように入力したデータは、様々なエディットを施すことができました。例えば小節単位でコピー、イレース(消去)、デリート(削除)、インサート(挿入)などなど。。まあシーケンサーだったらあって当たり前の機能ですね(ちなみに先発のMSQ-700はそれらエディット機能はありませんでした)。
他にも、任意の小節のみデータを重ねるオーバーダブ機能など、ちょっとしたMTR感覚で使える機能も備えています。リアルタイムで1回では弾くのが難しいフレーズを、2回以上に分けて重ねるなどの使い方ができました。
同期方面について
MSQ-100ではMIDIはもちろん、当時のローランド社製品間での同期を取るための独自の「DIN SYNC」端子を装備。MSQ-100本体の内部クロック、MIDI、DIN SYNCの各クロックをサポートしており、リズムマシンなどとのテンポ同期に対応しました。余談ですが、この頃のSYNC IN/OUTを持つローランド機材といえばTR-808、TR-606辺りが知られていますね(有名なTB-303はSYNC INのみ)。
なお、MSQ-700に装備されていたテープシンク・イン/アウト端子はMSQ-100では省略されており、テープレコーダーとのシンクは不可となっています。
MSQ-100/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
個人的に思うところ
まず、全体的な筐体デザインがJUNO-106に似てますね~(ちなみにJUNO-106も同じく1984年の発売)。MC-202とSH-101のデザインも似ているし、ローランドさんは同時代の別カテゴリの製品も同一にデザインするのが好きなのかなーという印象です。
80年代初頭のローランド社製本格シーケンサーといえば、「MC-4」(1981年)が思い浮かばれますが、今回の機種は “MSQ”となっていてそもそも型名も違うし、MC-4の直系の系譜と見るのは若干違和感がある感じですね(どうでもいいけど)。ともあれ、MIDIシーケンサーならではの豊富な情報を安価に取り扱えたということで、次世代機のMC-500への橋渡しの役目は果たしたのかなといったところ。
ちなみに現代においてもハードウェア・シーケンサーは完全に絶滅したわけではなく、KORGのSQ-1に代表される安価なガジェット風ギアとして販売されているものもいくつかありますね。
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仕様
■メモリー容量:
約6,100音(単音かつキー・ベロシティなしの場合)
約4,900音(単音かつキー・ベロシティありの場合)
■接続ジャック:テープ・ロード・ジャック、テープ・セーブ・ジャック、MIDI IN/OUT/YHRU、DIN SYNC IN/OUT、スタート/ストップ・ジャック(※オプションのペダル・DP-2と接続)
■外形寸法:226(W)×57(H)×223(D)mm
■重量:1.8kg
■発売当時の価格:79,000円
■発売開始年:1984年