【Vol.388】AKAI MPC60 ~MPC初号機![1987年]
2019/01/19
今回紹介する機材は、アカイプロフェッショナルが1987年末頃に発売したMIDIプロダクション・センター「MPC60」です。発売当時の定価は480,000円。
これは基本がサンプリング・リズムマシンであり、さらに強力なMIDIシーケンサーを内蔵しており、これ単品でトラックメイクができるよう開発されたハイブリット・ビートマシンといった感じの一台だったのです。
AKAIのMPCというと、特にヒップホップ畑のビート・メイカー/DJにとっては有名でしょう。その4×4の大きなパッドを配した筐体は、まさにMPCの代名詞とも言える “顔”といったところです。
はじめに・MPC60概要
ドラムマシンの名機と言われたLINNドラム(LM-1、Linn9000など)の開発者であるロジャー・リン氏と、当時のアカイの技術チームがタッグを組んで開発されたサンプリング・ドラムマシン&シーケンサー一体型マシン。
本機はAKAI Professionalブランド・「MPC」の初号機。このシリーズはのちに多くの後継モデルを生み、現在も多くのビート・メイカーに愛用されています。サンプルを16のパッドで操るというMPC特有の基本インターフェイスも、既にこの初号機で確立していますね。ちなみに “MPC”とは【MIDI Production Center】の頭文字を取って名付けられたそうです。
関連記事:「LINN Electronics Linn9000 ~ロジャー・リン氏が手掛けた統合的ドラムマシン[1984年]」
サンプラー・セクション
サンプリング・レートは40kHz、サンプリング・フォーマットは12ビット。標準メモリの状態においては、サンプリング・タイムは最大約13.1秒となっています(ただし一度にサンプリングできるのは5.3秒まで)。また専用メモリー[EXM003]の増設により、最大約26.2秒まで拡張可能。
12ビットというのは今でいうところのロービット(→粗い音)。とはいえサンプリング周波数は40kHzと、当時からするとなかなかハイスペックな音質だったと言えるでしょう。なお録音したサンプルは内蔵のフロッピーディスク(3.5インチ2DD)に保存する方法が採用されています。
サンプル音の頭切れを防ぐ「プリ・レコード機能」や、サンプル音の後ろを自動的にフェードアウトする「フェードアウト機能」などにより、使いやすいドラム・サンプルを手軽に作ることができました。
シーケンサー・セクション
本機の内蔵シーケンサーは、容量60,000ノート、99シーケンス、各シーケンス毎99トラックまで使用可。これは当時のMIDIシーケンサーとしたらかなり強力なスペックといったところです。特に60,000音ってこの頃としては大容量ですね。
編集機能も、ループ機能(→シーケンスの一部を繰り返し再生しながらオーバーダブが行える)や、オート・パンチ・イン/アウト機能、コピー、マージ、インサート、デリートなどなど、従来のシーケンサーでも見られる一般的な機能が一通りそろっている感じです。
分解能は♩=96となっており、クオンタイズ(→演奏タイミングのバラつきの補正)の細かさは7段階から選択することができます。なお本機のクオンタイズではノート・データ以外のデータをクオンタイズ処理から外すことができるため、たとえばピッチベンドが掛かった演奏トラックであっても、いわゆる “階段状”に補正されてしまう事態を避けることができます。
外観/インターフェイスなど
写真で見るとコンパクトなサイズに見えなくもないですが、実物は約50cm四方と結構大柄な印象。あと筐体手前にクッション(アームレスト)が配されていて、これがMPC60の見た目上の大きな特徴だったりします。腕にやさしいです。
サンプルを4×4=16のパッドで操るというMPCならではのデザインも確立しており、もちろん各パッドはベロシティ/プレッシャー対応となっています。
パネル右上にあるLCDは40文字×8行の大型設計。しかも角度をつける(起こす)ことができるので、作業において見やすい角度にすることができますね。またミキサー画面ではグラフィカル表示もしてくれるので、16のドラム音源のレベル/パンの設定を一目で認識することもできます。
あとパネルには、開発に関わったロジャー・リン氏のサインなんかも印刷されていますね。ちなみにこのサインはMPC3000まで続きます。。
つぶやき的
ハイブリッド型リズムマシンの意欲機・Linn9000を設計の基本に据えつつも、より使いやすいサンプリング・リズムマシン部+強力なシーケンサー部を一体化した、ハイスペックな複合機といったところでしょうか。決して安くない定価(→それでもLinn9000の国内定価150万円に比べれば遥かに安価)でしたが、プロ・ユースに応える本格的な作りにより、プロのクリエイターを中心に多くの愛好家を生みました。
あと、MPCの “M”ってMIDIの “M”なんですねー、今回改めて調べて初めて知りました。
“MPCをMIDIシステム内でどのように活用するか”という観点で熱く語る人は現在多くはいないような気がしますが(笑)、実はMPC60ではMIDIクロック、MIDIタイム・コード、あるいはSMPTEなど数多くの同期プロセスに対応してたりして、当時シンクに関しても結構な充実ぶりだったんですよね。
関連記事:
「LINN Electronics Linn9000 ~ロジャー・リン氏が手掛けた統合的ドラムマシン[1984年]」
「AKAI MPC60II ~MPC60をローコストにした普及モデル[1991年]」
仕様
サンプラー部
■量子化ビット数:12ビット
■サンプリング周波数:40kHz
■内蔵メモリ:768KB(最大1.5MBまで拡張可)
■サンプリングタイム:約13.1秒(内蔵メモリー時)
■プリセット音:32ドラム音
■同時発音数:16
シーケンサー部
■メモリー音数:60,000
■分解能:♩=96
■シーケンス容量:99
■トラック数:1シーケンスにつき99
■ソング・モード容量:20ソング(1ソングにつき最高255ステップ)
パッド部
■16バッド(ベロシティ、プレッシャー対応)
メモリー・ストア:3.5インチFDD内蔵
ディスプレイ:320文字表示グラフィック機能付きLCD
■外形寸法:495(W)×127(H)×471(D)mm
■重量:10.5kg
■発売当時の価格:480,000円
■発売開始年:1987年末頃