【Vol.346】KORG M1 ~【後編】ワークステーションタイプ・シンセの出発点[1988年]
2019/02/16
さて前回「KORG M1 ~【前編】世界中で記録的大ヒットしたワークステーションタイプ・シンセサイザー」という記事を書きましたが、今回はそのKORG M1の続きの記事です。同機のシーケンサー部を中心に色々と書いてみたいと思いますよ。
M1シーケンサー部概要
8トラックのシーケンサーを内蔵。各トラック最大250小節、100パターン、10ソングまで記憶でき、当時の専用シーケンサー機にも見劣りしない本格的なものでした。
M1の面白いところは、インターナルメモリーの音色プログラム(およびコンビネーション)の割り当てを少なく設定する代わりに、シーケンサーのデータを増やすことができるという点。この機能は「インターナル・メモリー・アロケーション」と呼ばれていて以下の配分変更が可能でした。
■ラージ・プログラム・アロケーション
プログラム …100プログラム/100コンビネーション
シーケンサー …10ソング/100パターン/約4,400ステップ
■ラージ・シーケンス・アロケーション
プログラム …50プログラム/50コンビネーション
シーケンサー …10ソング/100パターン/約7,700ステップ
ライブなどでシーケンサーを使った演奏をする際、音色を100も使うことはほぼないと言っていいので、上記の設定にてシーケンサー容量を増やしておくと便利に使えたと思います。
入力/エディットについて
一般的なリアルタイム入力、ステップ入力はもちろん、パターン(1~8小節)を作ってそれらを組み合わせることでソングにするという方法もあります。
パターンによるレコーディングは、当時出回っていた一般的なリズム・マシンでよく見られた方式ですね。M1にはリズム専用のトラックというのは装備されていないのですが、実質的にリズムを組む際にはこのモードを使うことが多かったと回想します。どのトラックにおいてもパターンを作って組み合わせることができるようになっています。
入力後の細かなエディットももちろん対応。シーケンサーの一般的修正機能といえる小節ごとのDELETE、INSERT、また鍵盤による演奏データやコントロールチェンジ情報のみの削除といったこともできます。また、リアルタイム・レコーディングの後のタイミングにてクオンタイズを掛けてタイミングを修正することもできますね。
鍵盤部/コントローラーについて
61鍵のレギュラー・スケール鍵盤を採用。コルグは80年代半ばの経営難の際にヤマハから資本参加を受けており、M1でもヤマハからOEM供給を受けた鍵盤が採用されています。
あと意外と取り上げられませんがM1ではアフタータッチにも対応しています。タッチはバネによる不自然な戻りではなく、自然にコクンと落ちて返ってくるといった感触。僕は好きでした。本機はワークステーション・シンセとしての実力に目が行きがちですが、タッチの良さに関してももっと語る人がいてもいいのにと思ったりします(笑)
鍵盤左側に鎮座しているコントローラーはKORG伝統のホイール、ではなく、オリジナルのジョイ・スティックを採用しています。このスティックには、ベンド/モジュレーションの他、フィルター(VDF)のカットオフ・フリケンシーなどを割り当ててリアルタイムでコントロールすることもできますね。
アウトプットについて
1(L)、2(R)、3、4という、4つのアウトプットを装備。メインのアウト(1&2)に加え、3&4のアウトプットを併用することにより、ドラム・サウンドの各音色を別々に出力するなど応用も効きました。
M1 PLUS1について
日本では1994年初頭頃に発売されたM1の音源ボード追加版。定価は198,000円でした。
これはM1のPCM音源部に、ダンス系サウンド(45マルチサウンド+40ドラムサウンド)を収録した音源ボードをプラスしたもの。前年にアメリカで先行発売され好評を博していたのですが、日本でも100台限定で発売されたという、知る人ぞ知るレアM1といったところ。この追加音源ボードだけで4MBものメモリーを確保しています。
インターナル・メモリー部には、追加されたサウンドを生かした100プログラム+100コンビネーション、4ドラムキットを収録していました。ちなみに当時のコルグさんでは、既存のM1オーナーに対して、「PLUS1」相当のバージョン・アップを有償(50,000円)で行っていたそうです(※1)
M1/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
まとめ的な
仕様だけを見れば、「8トラックのシーケンサーを内蔵したデジタル・シンセサイザー」とひと言で済ますこともできますが、M1の場合はそもそもの音の良さと、各セクションの完成度の高さ、全体的なバランスの良さが際立っていて、当時としては非常に完成度の高い一台といったところといいましょうか。「シンセ一台だけで音楽制作に関する操作を完結できる」という、現在では当たり前となっている “ワークステーション思想のシンセ”が確立された最初期の機種でもあります。
“音の良さ”に関しても、当時の多数のサンプラーが提示していた「原音を忠実に再生する」という主義思想からちょっと外れた(と個人的には思っている)、「M1独自の音色キャラクター」を打ち出しており、それがうまくはまったという感じでもありますね。結果的に世界的に大ヒットを飛ばしました。
ただし音作りやシーケンストラックのエディットにおいては若干使いにくい部分もあり、本体だけでは基本的に「VALUEスライダー頼み」という感じ。つまみやダイヤルは一切ありませんし、目立ったコントローラーもジョイスティック1基のみ。
フィルター変化もいかにもデジタルな感じだったし、レゾナンスも付いていません。そして何よりその音色は多くの楽曲で使われ過ぎたため飽きられたというのも少なからずあるかもですね。。そして90年代半ばにもなると “ポストM1”とでも言うべき次世代機たちにその座を譲っていったという感じです。
KORG M1/浜松市楽器博物館にて撮影
個人的かいそう
自前の(ファースト)シンセの購入以前、いつも行く町のリハーサル・スタジオに常設されていたのがこのKORG M1でした。僕自身M1を購入したことは一度もないのですが、自分にとって初めて本格的に向き合ったシンセとして思い出深いです。よく使わせて頂きました。
前述したようにM1(のフィルター)にはレゾナンスが付いていませんが、内蔵エフェクターの一つ「エキサイター」をかけると音色にクセを付けることができます。レゾナンスの代用というほどではありませんが、持っている人はお試しあれ。
さて90年代まではスタジオでもよく見かけたこのM1ですが、最近ではさすがにすっかり見かけなくなりましたね。。M1の良さといえば鍵盤タッチなども含めたトータルなバランスにあると感じるのですが、音源部だけ取っても十分キャラが立っていると思います。興味のある方はぜひソフトシンセで確認してみてください。
おまけ
本記事(KORG M1【前編】【後編】)は2018年1月1日、2日に分けてアップしたのですが、実は2018年といえばM1生誕30周年に当たるメモリアル・イヤーだったりします。2018年正月の現時点では何のアナウンスもありませんが、30th Aniversaryということでコルグさんが何か仕掛けてくるのではと密かに楽しみにしてたりします。
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※1 …ただしM1R/M1R EXではバージョンアップ対応不可だった(物理的に音源ボードを追加できなかったため)
仕様
■鍵盤数:61鍵(イニシャルタッチ、アフタータッチ付き)
■最大同時発音数:16音(シングル・モード時)
■音源方式:aiシンセシス・システム
■波形メモリー容量:2Mワード(4Mバイト相当)
■音源フォーマット:16ビット
■プログラム数:最大100プログラム
■コンビネーション数:最大100コンビネーション
■シーケンサー部:
8トラック/8マルチティンバー、最大7,700ステップ(ROMカード使用時最大15,400ステップ)
10ソング、100パターン
■ディスプレイ:40文字×2行 バックライト付きLCD
■外形寸法:1058(W)×110(H)×355(D)mm
■重量:16kg
■発売当時の価格:248,000円
■発売開始年:1988年