【Vol.264】KORG DS-8 ~実はFM音源でした[1987年]
2018/11/26
今回ご紹介するキーボードは、1987年春頃にコルグから発売された「DS-8」というシンセサイザーです。発売時の定価は142,000円。
コルグさんのシンセ系譜とすれば、DW-8000(1985年)、POLY-800II(1985年)に続く機種といった感じですね。DS-8はフルデジタルのオシレーター音源を持ち、さらにマルチエフェクトも内蔵していました。
概要
2系統のデジタル音源を内蔵した8音ポリ・デジタル・シンセサイザー。DWシリーズからさらにデジタル化が進められ、全ての行程においてデジタルで処理が行われるようになりました。鍵盤は61鍵で、タッチセンスおよびアフタータッチにも対応しています。
DS-8の音源方式は、発売時のメーカーのカタログや広告には「デジタル音源」とだけ表記されていたのですが、実際のところはFM音源(4オペ/2アルゴリズム)だったというのは有名な話。。当時コルグは経営難に陥っており、ヤマハが資本参加したことにより本機にもヤマハのパーツがいくつか搭載されているのが特徴です。
YAMAHA DX7に代表されるFM音源方式といえば、デジタルならではのサウンドクオリティでこれまでにない音色を出せたのですが、一方でオペレーションが非常に複雑であり、イメージした通りの音色を作るというのは至難の業でした。そこで本機DS-8では『音作りのシンプル&イージー』というコンセプトが掲げられ、実際、DX7とは違ったアナログ感覚でのエディットが可能な設計が施されています。
その音作りについて
2系統の音源部(オシレーター1、オシレーター2)では、各オシレーターにおいて音程、音量(およびそれらの時間的変化)などを設定することが可能となっています。つまりはMOOGに代表される典型的なアナログシンセ的な減算方式という考え方ですね。
オシレーター1、オシレーター2ではそれぞれ鋸歯状波と矩形波(およびそのバリエーション)が選択可能であり、これを “WAVE FORM”と呼びます。またオシレーター2には「クロス・モジュレーション」も装備されており、(オシレーター1の出力で)オシレーター2に変調を掛けることもできます。より複雑に変化する倍音を含んだ波形を生成できるといった感じです。
そしてWAVE FORMで設定した波形は “TIMBER”へと進み、そのTIMBERにて、エンベロープ・ジェネレーター【ADSR方式】による(出力波形の)時間的変化やピッチ変化を加えることができます。
4オペレータ/8アルゴリズムのFM音源部はどちらかというとシンプルな作りであり、さらにDS-8ではヤマハDXのそれよりもパラメーターが少なく、実際音色作りについては分かりやすかったという話は聞きますね。
DS-8/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
4つの演奏モード
本機では「シングル」「レイヤー」「ダブル」「マルチ」の4つのキーボード・モードを搭載しています。
シングル・モードは文字通り単音色の8音ポリ演奏モードであり、レイヤー・モードは2音色ミックス(→4音ポリ)のモードです。ダブル・モードは一種のスプリット機能とも言えるものです。
その中でもマルチ・モードはちょっと特徴的で、最大8ボイスの独立コントロールおよび同時発音ができるというもの。MIDIシーケンサー(当時のコルグで言えばSQ-8あたりか)を組み合わせれば、本機のみで8マルチティンバー演奏が可能です。各音色ごとにエフェクト処理やパンニングを施したりといったことも可能ですね。
内蔵エフェクターについて
本機にはいくつかのデジタル・エフェクターが内蔵されています。ロング・ディレイ、ショート・ディレイ、ダブリング(→音に厚みを加える)、フランジャー、コーラスなどディレイ系中心ですね。リバーブこそありませんが、DX7ではエフェクターは内蔵されていなかったのでここはアドバンテージと言えます。
パフォーマンス・エディターについて
パネル上のスライダー操作により、演奏中に音色の明るさを変えたり、各オシレーターごとのエンベロープ(の時間的変化)をリアルタイムで行えるという機能。他にも、ベロシティ、アフタータッチ、ポルタメントのON/OFFがスイッチで瞬時にできるという、ライブでも使える仕様となっています。
DS-8/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
つぶやき的な
コルグさんの経営が厳しかった時代に発売されたシンセの一つであり、ヤマハのFM音源チップ(および鍵盤部)が搭載されていたりと、現代でも語り草になっているという意味で非常に個性的な一台といったところです(笑)
“簡易4オペFM”とも言える本機でできる音作りは限られていましたが、その分オペレーションもイージーだったわけで、シンセとしてのまとまりは悪くないと思います。プログラマブル・デジタル・エフェクターも内蔵していたし、比較的安価だったというのも高ポイントです。
がやっぱり(やっぱりなのか!?)セールス的にはあまり振るわなかったらしく、コルグさんが本格的に浮かび上がるには「M1」(1988年)の登場まで待たなければいけません。当時の “YAMAHA DX”ブランドはまだまだ強かったですし、ローランドからは「D-50」なる斬新で強烈なシンセも登場したタイミングでした。本機も「悲運の名機」と言っていいのでしょうか??
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仕様
■鍵盤数:61鍵(イニシャルタッチ、アフタータッチ付き)
■最大同時発音数:8音
■音源:デジタル・オシレーター(FM音源)×2
■本体メモリー:100音色、10コンビネーション
■内蔵マルチエフェクト:ロング・ディレイ、ショート・ディレイ、ダブリング、フランジャー、コーラス
■外形寸法:1020(W)×101(H)×317(D)mm
■重量:約10kg
■発売当時の価格:142,000円
■発売開始年:1987年