SEQUENTIAL CURCUITS 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.230】S.C.I. PROPHET-600 ~世界初のMIDI規格対応シンセサイザー[1982年]
2018/11/26
今回ご紹介するシンセサイザーは、SEQUENTIAL CURCUITS Inc.(シーケンシャル・サーキッツ。以下S.C.I.)が1982年に発売した「PROPHET-600」です。発売当初の国内定価は348,000円でした。
本機は世界初のMIDI規格対応シンセサイザー(の一つ)ということで、古くからのシンセ愛好家にはよく知られた一台ですね。名機PROPHET-5のローコスト・モデルとして登場し、MIDI対応で価格も比較的お手頃だったという点からも好セールスを上げたそうです。
概要
同社の名物エンジニア(経営者)だったデイヴ・スミス氏が手掛けたシンセサイザーであり、世界で初めてMIDIを搭載したモデル。MIDI規格(Ver.1.0)が発表されたのが1982年10月で、翌83年1月のNAMMショーでは本機とローランドJX-3Pの接続デモが行われたそう。そして日本での発売はおそらくNAMMショー以降の1983年内。
当時のPROPHET-5の日本価格がまだ100万円以上していた時代だったので、PROPHET-600の348,000円は、国内外のシンセサイザー低価格化の波を推し進める形となりました。その頃はコルグPolysixやローランドJunoなどの廉価なポリシンセが多く出回っていたということもあり、それに対抗?するデイヴ・スミス氏の考えが、このMIDI装備のPROPHET-600ということだったらしいです。
関連記事:
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仕様
同時発音数はPROPHET-5よりも1音多い6音ポリフォニックのMIDIアナログ・シンセサイザー。またシーケンサーも内蔵しており、すぐに様々な音が出せるプリセット音色も100個用意されています。本機は言わば廉価帯アナログ・ポリシンセの一つの完成形(最終進化形)と言えるかもしれません。
音源部(音色)について
2VCO(オシレーター)、1VCF(フィルター)、1VCA、および2EG(エンベロープ・ジェネレーター)から構成。
VCO(A/B)はそれぞれが6ボイスとなっていて、同時に6ボイス分をパッチするのでパネル上のコントロールは1ボイス分のみです。また「ユニゾン・モード」をONにすると、6音ポリフォニックからモノフォニックになり、シンセ・リード音色などに有効な太い音も得ることができます。またグライド(ポルタメント)もポリフォニックで作動します。
個人的な音の印象としては若干硬めな感じ。でもおとなしくまとめてある感じじゃなくて、当時のS.C.I.らしい、いい意味での派手さというか荒っぽさを感じます。あとフィルターはカーティス社製ですね。こちらのキレもいいと思いますよ。
なお100個の内蔵音色はプログラマブルであり、エディットした音色は本体内にメモリー可能となっています。カセット・インターフェイスも装備しているため、本体内のメモリーが足りなくなったら外部テープにプログラムをストックしておくこともできます。
ポリフォニック・モジュレーション機能について
一つのVCOやVCFのエンベロープ・ジェネレーターで、もう一つのVCOまたはVCF(のカットオフ)に変調をかける機能のこと。これにより金属的な非整数倍音も出すことができ、従来のアナログ・シンセよりも多彩な音作りの可能性が広がりました。
操作系について
PROPHET-5のようなLED付きボタンは見られず、テンキーや一部ボタンは薄膜スイッチ(→メンブレンタイプと言います)となっています。音色などを呼び出す時やMIDI設定時にはこれをポチポチ押すことになりますね。エディットに関してはそれほどこのボタンを押すこともないので悪くないと思います。
個人的に感じた良い点はツマミの頑丈さですね。大きくしっかりしていて回しやすいです。それぞれのシンセ・パラメータもシンプルかつ教科書のように配置されていて、シンセ初心者にとって非常に入りやすい一台と言えるのではないでしょうか。
アルペジエーターおよびシーケンサーについて
アルペジエーターはいわゆる一般的なUP/DOWNの他にも、演奏された音階順に分散演奏ができるアサイン・モードを搭載しています(またそれをホールドすることもできる)。シーケンサーはリアルタイムで400音までメモリー可能。
S.C.I. PROPHET-600/ラップコーポレーション 雑誌広告より画像引用
余談的な
本機にはPROPHET-5に装備されていたノイズ・ジェネレーターが省略されており、PROPHET-5に近い音作りを求める人(あるいは単純に爆発音などを作りたい人)は、ノイズ取り付けの改造を施していたそうです。
個人的かんそう
これも僕の楽器屋時代に何台も入荷してよく遊んだことを覚えています。当時のアナログ・シンセというと一台一台ごとに出音が微妙に異なったりもしたのですが、本機は何度か仕入れた個体において、概ね安定した出音だったことを記憶しています。
比較的軽量だったし、チューニングも安定してるし、プリセットも100音色用意されているのでとりあえず音も出ます。部品点数も多くなく、回路構成もそれほど複雑でないため、(PROPHET-5に比べれば)故障も少なかったと思います。
PROPHET-5の弟分ということで何かと比較されやすい本機ですが、値段も数倍違うことだし、同じように比べるというのもナンセンスですよね。。機能は絞られているかもしれませんが、ちゃんとS.C.I.のキャラクターは感じられますし、アナログ・シンセ入門者にはうってつけの一台だと思いますよ。
ただこの機種、市場では今も昔も爆発的に人気を得た時期がないんですよね。。PROPHET-5のように神格化されてないっていう印象です(笑)
関連記事(S.C.I.PROPHETシリーズ):
「S.C.I. PROPHET-T8 ~76鍵・木製鍵盤を採用したプロフェットの最高峰モデル」
「S.C.I. PROPHET 2000(/2002) ~シーケンシャル初のサンプラー[1985年]」
仕様
■鍵盤:61鍵
■最大同時発音数:6音ポリフォニック(フルプログラマブル)
■音色メモリー:100プログラム
■外形寸法:955(W)×110(H)×305(D)mm
■重量:9.5kg
■発売当時の価格:348,000円
■発売開始年:1982~83年頃