【Vol.44】AKAI S612 ~アカイ・サンプラー「S」の元祖[1985年]
2018/11/24
今回ご紹介する機材は、AKAIのサンプラー「S612」です。発売は1985年。同社のサンプラーシリーズとして長きにわたって販売された「S」シリーズの、トップバッターを飾った記念すべき機種です。ちょっと内容を見てみましょう。
なお「サンプラー」そのものに関する説明は割愛ぎみに話を進めさせて頂きます、ご了承下さい。
発売当時の背景
1985年の初頭頃、ポリフォニック・シンセサイザーが20万円台で買えるようになってきた時代に、サンプラーの最安値は300万円台と、まだまだ一般の間で使われるのは難しい時代でした。
そこで同年にエンソニック社は「ミラージュ」という(鍵盤付き)サンプラーを約40万円という低価格で発売。それをきっかけに他社からもいくつかの廉価なサンプラーが発表され、80年代後半にもなるとサンプラー戦国時代のような時代に突入していきます。
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S612の発売は?
エンソニック「ミラージュ」の後発として(とはいえ店頭に並んだタイミングとしてはほぼ同時期)、AKAIより「S612」が発売されました。本体価格は168,000円と、ミラージュのさらに半分以下の価格です。
なおS612本体内にはディスクドライブが内蔵されておらず、専用の「MD280」という外付けドライブが別途用意されていました。これにより、エディット後のデータをメモリーできます。
ちなみにこのMD280ですが、価格は54,800円。メディアは「2.8インチ・クイック・ディスク」を採用しています。MD280でストアできる音は、ディスク1枚につき2音までとなっていました。
というわけでS612は実質上、ワンセット222,800円といったところでしょうか。それでも十分お安く、一般人でも手の届く価格帯だったといえます。
音質とかは?
「MAX32kHz、12bit、サンプリングタイム最大8秒」であり、当時のミラージュのスペック「30kHz、8bit、サンプリングタイム2秒」に比べると数字的にも上回っています。「2秒」と「8秒」の差は大きいと個人的には思います(→ただし8秒の場合は最もローファイなモード)
ちなみにS612という何ともキリの悪そうな型番ですが、これは「12ビット(サンプリング)でも6ボイス」という意味が込められているそうですよ。
AKAI S612&MD280/赤井電機(株) 雑誌広告より画像引用
その他装備
もちろん原音の再生だけではなく、サンプリング音にシンセサイザー的効果をつける「エディット&モジュレーション機能」、異なった音を次々と重ねてサンプリングできる「オーバー・ダブ機能」も装備。シーケンサーやリズムマシンを接続し、サンプリング音による演奏も楽しむことができます。
個人的つぶやき的な
当時は、海外の有名ミュージシャンがサンプラーを随所に使用した曲を作っていたりして、「(サンプリングの)手法自体は知ってる」という人は多かったと思います。しかしサンプラーなんて数百万円もする超高嶺の花、とても庶民には手が届かない。。それがこの比較的お手頃価格で販売されたということで、ちょっと無理してでも買ったという人は少なくないと思います。
AKAIお得意の「高品位サンプル・ライブラリー」が充実するのはまだまだ先のことですし、当時のサンプリング少年は「録音可能なウォークマン」とかを片手に町中を歩き回り、踏切の音や、歩行者信号のメロディなどを、嬉々として録音していたのかもしれません(笑)
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仕様
S612
■サンプリング方式:12ビット
■サンプリング周波数:4~32kHz
■サンプリングタイム:1~8秒
■ボイス/レンジ:6ボイス/5オクターブ
■外形寸法:482.6(W)×88.1(H)×205(D)mm
■重量:6kg
■発売開始年:1985年
■発売当時の価格:168,000円
MD280
■記憶媒体:2.8インチ・ディスク
■記録容量:片面1音色(A,B面合計128KB)
■電源:S612より供給
■重量:3.7kg
■発売当時の価格:54,800円