【Vol.417】KAWAI Q-80EX ~Q-80がパワーアップしたシーケンサー専用機[1992年]
2018/11/28
今回はKAWAIの「Q-80EX」という機材を紹介してみたいと思いますよ。これは何かというと、同社のQ-80の後継機であるハードウェア・シーケンサーですね。発売はQ-80の4年後の1992年で、価格は78,000円(税別)でした。
外観はQ-80とほぼ変化はありませんが、内容ではいくつかバージョンアップが見られます。とはいえベースとなっているのはやはりQ-80なので、主にQ-80との相違点について記述してみたいと思いますよ。必要に応じてそちらの記事も参照してみてください↓
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32チャンネル・32トラック!
Q-80に引き続き「完全独立32トラック」を装備。これはQ-80の記事でも書きましたが、当時としてはかなり多くのトラックを扱うことができたという感じです。各トラックごとに個別にMIDIチャンネルを設定可能であり、最大16トラックまでの同時録音、および32トラックまでの同時再生が可能となっています。
Q-80EXではさらにMIDI OUT端子が1→2に増えており、完全独立2系統のMIDIデータ出力(16ch×2)ができるようになっていますね。
ちなみにQ-80EXと同時に「GMega」というGM音源モジュール(→32マルチティンバー対応)も発売されており、まさにこの2台は相性抜群だったという感じだったと回想します。
関連記事:「KAWAI GMega(/GMegaLX) ~カワイ初となるGM音源モジュール[1992年]」
スタンダードMIDIファイルに対応
Q-80EXではスタンダードMIDIファイル(以下SMF)に対応するようになりました(フォーマット0,1)。
これはQ-80およびQ-80EX固有のデータ・フォーマット形式に加え、当時大量に出回っていた音楽データ・フォーマットであるSMFがダイレクトに読み書きできるということですね。その頃は既存の楽曲データとしてSMF形式のものが多く流通しており、市販のパッケージ・データ集(2DD)などもダイレクトに本機のFDDにてロードすることができました。
以下、Q-80EXで扱える3つのソング・ファイル・フォーマットを簡単に記してみましょう。
◆「EXsong」 …Q-80EX標準のソング・フォーマット
◆「80song」 …従来のQ-80でのソング・フォーマット
◆「SMF」 …スタンダードMIDIファイル形式でのフォーマット
書き込みは「EXsong」と「SMF」から選択可。「80song」は読み込みのみですが、本機を介してSMFにコンバートすることも可能です(なお、Q-80でQ-80EXのデータ再生は不可)
Q-80EXは3.5インチ2DDのフロッピーディスクを採用しており、本機でフォーマットされたディスクはMS-DOS 2DD(9セクタ・フォーマット)とも互換性があります。つまり当時出回っていた主要なPCとSMF形式のソング・データのやりとりがディスク経由で行えたということですね。
内蔵メモリーも増加
本体内蔵のメモリー容量は約52,000音。これはQ-80の26,000音からきっかり倍増しており、ソング当たりの制限もなくなりました。3.5インチFD(2DD)では、EXsongフォーマットの場合、約150,000音のデータストックが可能となっています。ちなみにこの52,000音のメモリーは、電源を切っても内蔵電池でバックアップされるのでデータは消えません。
なお「データ・ダンプ・エリア」(→シンセの音色データやドラムマシンのパターンなどを一括管理できるエリア)は、Q-80の約4倍の容量を備えており、MIDIデータ・マネージャーとしての使用も有効。
10ソング、1,000モチーフ
本体内へメモリーできるソング数は10。1ソングにつき100個作成(合計1,000)できる「モチーフ」もQ-80から踏襲されています。このモチーフというのはQ-80の記事でも書いているのですが、いわばドラムマシンのパターンのようなものであり、これらを任意に組み合わせることで自由なソング作りに対応します。
アクティブ・クオンタイズ機能について
同じくQ-80の記事でも書きましたが、この機能はQ-80/Q-80EXの目玉とも言えるので改めて記述してみましょう。
そもそもクオンタイズ機能というのは、リアルアイム入力でばらつきが出てしまった演奏データを、16分音符などの単位でタイミングを揃えてくれるというものです。
本機の「アクティブ・クオンタイズ機能」では、特定のノート・ナンバー(およびクロック・レンジ)を指定すれば、そのノートのみクオンタイズが行うことが可能です。つまり特定の音色パート(例・スネアドラム)を指定しこの機能を使えば、そのパートだけを前ノリ/後ノリに調整することができるといった感じですね。特にリズムパートにかければ効果的です。
クオンタイズといえば一般に “機械的にそろえる”というイメージが強かったのですが、それを “音楽的にアリ”な範囲で意図的に(特定パートをまとめて)ずらせるということで、まさに「アクティブ(積極的)」なクオンタイズが楽しめたといった感じですね。
GMega, Q-80EX/(株)河合楽器製作所 雑誌広告より画像引用
つぶやき的な
PLAY/STOP/RECボタンなど(当時の)テープレコーダー感覚で扱える操作しやすいインターフェイスは先代機から継承し、SMF対応、メモリー増加など内部仕様を充実させた、正統なQ-80の進化版といったところですね。
90年代半ば以降にもなると、いわゆるオールインワン・シンセやPC(Windows95/98、Macintosh)でのシーケンスデータ作成が主流になりつつあったのですが、このQ-80EX(およびRoland MC-50MKII)は2000年直前まで生産・販売され続けました。最後期のハードウェア・シーケンサー(※音源非搭載タイプ)として存在感を放ち、今でも愛好家が少なからずいるなんて話も耳にしますね。
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仕様
■ソング数:10ソング+1,000モチーフ(1ソングあたり100)
■トラック数:完全独立32トラック
■ディスク:3.5インチ2DD(720KB)
■メモリ容量:インターナル約52,000音、フロッピーディスク約150,000音(720Kbyte)
■テンポ:♩=40~250 ■分解能:♩=1/96
■入力方法:リアルタイム、ステップ(MIDIキーボードまたはフロントパネル)、パンチ・イン/アウト
■データフォーマット:
[ロード]Q-80、Q-80EX、スタンダードMIDIファイル(FORMAT0,1)
[セーブ]Q-80EX、スタンダードMIDIファイル(FORMAT1)
■外形寸法:390(W)×68(H)×232(D)mm
■重量:2.2kg
■発売当時の価格:78,000円(税別)
■発売開始年:1992年