ジョー・ザヴィヌルと逆配列キーボードについて ~ARP2600にてリバース・チューニング
2018/11/28
以前本ブログで「左利き用ピアノというのは存在する?」という記事を書いていて、その文章の最後に「逆配列キーボード」について触れたのですが、今回はその逆配列キーボードで実際にライブ演奏をしたジョー・ザヴィヌル(ウェザー・リポート等で活躍したキーボーディスト)のプレイについてちょっとだけ補足してみたいと思います。まあうんちくみたいなものとして気軽に読んでください。
ウェザー・リポート とは(超ざっくり)
サックスのウェイン・ショーター、キーボードのジョー・ザヴィヌルの2人が中心になり1971年に結成された、エレクトリック系サウンドをメインとしたアメリカのジャズ・フュージョン・グループ。代表曲はアルバム『ブラック・マーケット』(1976年)の表題曲「ブラック・マーケット」や、アルバム『ヘヴィ・ウェザー』(1977年)からの「バードランド」など。
エレクトリック・ベースの奏法に革命を起こし後のベーシストに多大な影響を与えたジャコ・パストリアスも、一時期グループに参加したことでも知られていますね。ジャズ/フュージョン系ベーシストでジャコパスを知らない人はまずいないでしょう。
逆配列キーボードでの演奏
逆配列した時の各鍵盤の音程は以下のようになります(→Cを基準とした場合のリバース・チューニング)
共通しているのはCとG♭だけで、あとは全く異なるキーになっていますね。。ちなみにこの場合の黒鍵のみに着目するとDメジャー・ペンタトニック・スケールとなっていることが分かります。
ジョー・ザヴィヌル氏はARP2600というシンセを使い、鍵盤配列を上記のように設定して前述の「ブラック・マーケット」を演奏していたそうです。僕は1978年9月にドイツで行われたライブ映像を持っていて何度も観ているのですが、確かに反転してますねー。しかも曲中にノーマル・チューニングに戻ったりまたリバース・チューニングになったり。。これはどういう仕組みになっているんだろうと長年疑問に感じていました。
余談ですが、そのライブ映像では左手で通常チューニングのエレピでバッキングをしていて、右手でこのリバース・チューニング演奏を行っています。このキーボーディストさんは常人には全く訳の分からない、特殊な脳の持ち主といえるかもしれません(褒め言葉)
ARP 2600について
1970年頃に発売されたセミモジュラー・タイプのアナログシンセ。主なルーティングはあらかじめ内部接続されているため、パッチングをしなくても音を出すことは可能でした(もちろんケーブルを使ったパッチングもできる)。またその独特な質感の内蔵リバーブにも愛好者が多いです。
浜松市楽器博物館にて撮影したARP 2600。上の写真のキーボード・ユニットはモノフォニック仕様の3604ではないかと推測します。
グレー地に白文字のパネル構成。いわゆる “中期”リビジョンの個体。
リバース・チューニングは本体コンソール中央下にある「VOLTAGE PROCESSORS」セクションから行うそうで、KBD CVを反転してVCOに送ることでリバースを得られるそうです。
うーん、僕はてっきり大物ミュージシャンならではの、人脈とお金をふんだんに使った改造を施しての機能だと思っていたのですが、一応標準でこういったことができるシンセだったのですね。。実際のリバース操作やパッチングの手順は定かではありませんが、ザヴィヌル御大もこういったことを演奏中に行っていたのでしょう。
ちなみに2000年代にソフトシンセとしてよみがえった『ARTURIA ARP 2600 V(V2)』でも、この逆配列の設定にできたそうです(※同ソフトは現在は販売終了)
関連記事:「ARP 2600 ~MOOGと双璧を成したセミ・モジュラー・シンセの銘機」
つぶやき的な
ペンタトニック主体の印象的なメロディを持つ名曲「ブラック・マーケット」(ジョー・ザヴィヌル作曲)は、このリバース・チューニングを施したARP2600を弾いているうちに生まれたとのことです。つまり逆に言うと “リバース・チューニングじゃなかったら生まれなかったかもしれないメロディ”ということですか。。確かにこのリバース技は、(上級者にとって)フレーズ作りのアイディアとして有効なのかもしれません。
またザヴィヌル氏は、その後通常の配列の鍵盤で同曲のフレーズを弾き直したものの、納得のいく音にならなかったと後年語っていたそうです。そのためライブでもリバースのまま演奏するようになったそう。常人ではそうそう真似のできないザヴィヌル氏ならではのエピソードといったところですね。
■参考文献:「ウェザーリポートの真実」山下邦彦 編(リットーミュージック発行)