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SEQUENTIAL CURCUITS 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.419】S.C.I. Multi-Trak(マルチトラック) ~6音ポリ, 6パラアウトのアナログシンセ[1985年]

2018/11/28

 

 

 今回ご紹介するキーボードは、SEQUENTIAL CURCUITS Inc.(シーケンシャル・サーキッツ社。以下S.C.I.)から発表された「Multi-Trak」というアナログ・シンセサイザーです。発売は1985年。発売当初の国内定価は238,000円。このスイッチだらけのルックスで実はアナログなんですよねー。

 

S.C.I. Multi-Trak

 

 S.C.I.のシンセサイザーといえばつまみが大きく頑丈で、PROPHET-5に代表される重厚な作りというイメージがあるのですが、本機Multi-Trakでは61鍵ながらわずか約6kgという軽量化を実現。パネルトップも当時のデジタルシンセのようなデザインに仕上がっていますね。どのような機種だったのかちょっと探ってみましょう。
 
 
 

基本構成(主に音源部)

 1音(ボイス)ごとの基本構成は1VCO、1VCF、1VCA。それぞれにはEG(エンベロープ・ジェネレーター)を装備しており、いわゆるADSRによる調整が可能です。あと1LFO
 
 
 まあこれだけだとアナログシンセとして非常にシンプル&ベーシックな仕様といったところですが、本機Multi-Trakでは6音ポリフォニックであるのに加えて、異なった6音色を同時に鳴らすことが可能となっています(→1ボイスごとに音色を変えることができる)。
 
 
 つまり上記構成のモノシンセが6台分詰まっているという捉え方もできそうですね。しかもそれぞれのアウトプット端子が計6個装備されているので、ミキサーに立ち上げて個別にEQやエフェクトを施すこともやりやすいです。
 
 
 音色のメモリーは00~99の合計100個。音色のエディットももちろんできて、各種パラメーター(全36種)を選んでからデータをエディットするという、YAMAHA DX7登場後のシンセで主流になった言わば “パラメーター呼び出し方式”となっています。
 
 
 

鍵盤部など

 鍵盤部は61鍵で、ダイナミクスを表現するベロシティ・センシティブ機能付き。いわゆるキーボード・スプリットもできるので、左右(ロワー/アッパー)別々の音色を割り当てて鳴らすなど、ライブでも使用してもOKな感じ。もちろんアッパーとロワーのボイス数の割り当てとかも自由に設定可能です。
 
 
 他にも、シンセらしくピッチベンド、モジュレーションホイールも搭載。ピッチベンドの変化幅は固定となっており、長3度に変化します(例えばドを弾いてベンドアップすればミが鳴る)
 
 
 

シーケンサー部

 6トラックで、シーケンスのメモリー音数は最大9,000。シーケンス音数は、以前本ブログでも紹介した「six-trak」の800と比べて格段に増えてますね。six-trak同様、各トラックはシンセサイザー部で作った別々の音色でプログラム可能です。
 
 
 レコーディングはリアルタイムで行い、クリック音をガイドに各トラックを指定した音色でオーバーダビングすることになります。録音したデータはオートコレクト機能により、後からでも正確に修正が可能。
 
 
 あと、6音ポリフォニック/6音マルチ発音という特性を生かして、例えばシーケンサーで3音、手弾きで3音なんて割り当てもできました(合計6音以内ならば割り振りは自由)。さらにアルペジエーターも内蔵。

 

 

 

おまけ話・マルチ音源ならではの使い方

 ここでいう「マルチ音源」とは、“複数の音色を同時発音させることができ、なおかつ3つ以上のアウトプット端子から個別の音色が出力できる”というもの。今回のMulti-Trakでもそうですし、Linn DRUMやRoland TR-808などのドラムマシンでもよく見られました。
 
 
 そこで80年代半ば以降にもなると、シンセやサンプラーでもこの「マルチ音源」が各社しのぎを削ってリリースされるようになります。Multi-Trakでは6音ポリ、6パラアウトを実現しており、別途ミキサーやエフェクターをそろえればその機能を十分に発揮できる一台だったという感じですね。
 
 
 この手のマルチ音源シンセでは、同一の音色のピッチを微妙にずらしてサウンドに厚みを出すというワザは定番と言えるでしょう。他にも同一音色にて、ミキサー側でパンニング(定位)、エフェクター(モジュレーション等)をバラバラにセッティングしておくと、1音弾くごとにサウンドが飛び跳ねて面白いです。
 

S.C.I. Multi-Trak(advertisement)
S.C.I. Multi-Trak/モーリス楽器製造(株) 雑誌広告より画像引用
 
 
 

つぶやき的な

 本機Multi-Trakは、前年に発売された「six-trak」にコンセプトが近く、それの直系の後継機といってもいいかもですね。6音ポリでシーケンサー内蔵な点は継承しつつ、内部仕様を充実させたり6パラアウトにしたりと様々な進化点が見られます。あとsix-trakに比べるとボタンも増え、操作性も若干向上している印象ですね。
 
 
 あと本機は、鍵盤付きアナログシンセとしては非常に薄く、横幅もギリギリまで削った感じです。結果軽量化につながり、当時の国産デジタルシンセに劣らない可搬性を得ていたと言っていいでしょう。
 
 
 そうはいっても1985年にもなると、やはりDX7に代表されるデジタル音源がシンセサイザーの主流となりつつあった時代。本機はシーケンシャルというブランド看板を背負いつつも、アナログ→デジタル過渡期におけるメジャーになれなかったシンセサイザーの一つとして頭の隅っこにでも入れておけばいいのかと。。
 
 
 
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仕様
■鍵盤数:61鍵
■同時発音数:6音(ボイス)
■オシレーター:1音につき1VCO
■音色メモリー数:100(00~99)
■シーケンサー部:6トラック、最大9,000音シーケンス
■外形寸法:870(W)×60(H)×295(D)mm
■重量:6kg
■発売当時の価格:238,000円
■発売開始年:1985年

 

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