【Vol.409】Roland SonicCell ~MIDI/オーディオ・インターフェイスとしても使えるデスクトップ音源モジュール[2007年]
2018/11/28
今回取り上げる電子楽器は、ローランドが2007年に発売した「SonicCell(ソニックセル)」というハード音源モジュールです。
従来のローランド音源モジュールらしからぬ(笑)、シャープなデスクトップ・タイプのデザインに仕上がっていますね。当時の価格はオープンプライス(発売当初の実勢価格83,000円前後)、現在では生産終了となっています。
これは当時の高水準音源エンジンを積んだハードウェア・シンセサイザーであり、PCベースの音楽制作も視野に入れたMIDI/オーディオ・インターフェイスとしても使うことができるというものです。後述しますが、見ようによってはDTM音源機と捉えることもできるかもしれませんね。では各機能を見ていきましょう。
まずは見た目
操作部がトップパネルに配置されており、メーカーも “デスクトップ音源”と名付けていたみたいですね。ラックマウントも想定されていないようで、デスクの上に乗せて操作するというスタイルっぽいです。
パネル上には使い勝手のよい大型のVALUEダイヤルと見やすい有機ELディスプレイを配置。ボディカラーは黒ですが、サイドパネルがアルミ(っぽい)素材が採用されており、デザイン上のアクセントにもなっています。全体的にいかにも次世代機といった雰囲気ですね! また意外と軽い(1.2kg)ので色々な現場に持っていけそう。
音源部
同社の当時のフラッグシップ・シンセ「Fantom-X」に匹敵する高性能音源エンジンを搭載。マルチティンバー数は16パート、同時発音数は128音となっています。
波形メモリは128MB(16ビットリニア換算)であり、これは当時としては若干物足りないといったところ。でもFantom-Xにはないアコースティック系の音源も数多く収録されています。当時のソフトシンセにおいて、ピアノ、ストリングス、ドラムなどのアコースティック・サウンドの再現にはCPUパワーを必要としたんですよね、、その辺りをハード音源に任せるというのは理にかなった設計といった印象です。
音色について
内蔵のプリセット・メモリーは以下のようになっています。
パッチ=896+256(GM2)
リズムセット=20+9(GM2)
パフォーマンス=64
「パッチ」とは個別の音色のことで、そのパッチおよびリズムセットを組み合わせた単位を「パフォーマンス」といいます。さらに各パッチは、波形の最小単位である「トーン」(4つまで)からなります。まあこの辺りはローランド・シンセではおなじみの概念ですね。
また、作った音色をユーザーが任意に記憶できるユーザー・メモリー領域も備えています(パッチ=256、リズムセット=32、パフォーマンス=64)。
あと、同社のXVシリーズでも見られた「ウェーブ・エクスパンジョン・ボード ー SRXシリーズ」を2枚まで増設できるようになっています。次世代の音源モジュールというコンセプトでありながら、90年代のJV-1080さながらにエクスパンション・ボードが取り付けられるなんて、実にローランドらしい設計じゃないですか(笑)。ちなみにSR-JV80シリーズのボードは物理的に取り付けられないのであしからず(→使えるのはSRXシリーズのボードです)。
音色全体としては生楽器系を中心になかなか洗練されているという印象。収録数も1,000音色を超え、個人使いでは必要十分だと言えるでしょう。ただしいかにも “2000年以降のローランドらしい金属的なピアノ音”は、使う楽曲を選ぶ感じですね。。フィルターで削ってもキンキンさが残ってしまい、個人的にはちょっと使いにくいなという印象です。
GM2音源について
上記で記したように、本機にはGM2音源も内蔵されています。そう捉えると、SonicCellはSCシリーズ(SC-8850など)やSD-90(※EDIROLブランド)の流れを汲むDTM音源機という側面もあると思われます。
各種エディットについて
決して広いないディスプレイですが、一応音色エディットに関する膨大なパラメーターを本体のみで操作できるようになっています。エンベロープなどもグラフィカルに表示してくれますね。それでもボタン類は少ないので、階層深く入っていかなければいけないこともあるわけで、実際にはちょっと使いにくいといったところ。。
ただし本機では専用プラグイン・エディター(Win/Mac)を付属。これによりPCへの負荷を最小限に抑えつつ、パッチ/パフォーマンス/エフェクトなどの各パラメーターをソフトシンセ感覚でグラフィカルにエディットすることができます。
USBオーディオインターフェイス装備
24ビット/96kHzオーディオ・インターフェイス(USB2.0)を搭載し、PCベースの楽曲制作でも使いやすい設計となっていると言えます。
外部入力には、さまざまなソースを選択できるよう、フォン端子およびXLR端子(キャノン)の両方を挿せるコンボ・ジャックを採用。ライン入力、ギター/ベース用のハイ・インピーダンス入力、マイク入力(ファンタム電源供給にも対応してるのでコンデンサマイクも直でOK!)などあらゆる音楽機材を直接接続して、DAW環境でのレコーディングを行うことが可能。
なおオーディオ出力も可能であり、サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzから選択可能(→フロントパネルのスイッチにて切り替え)。A/D、D/Aの分解能は24bitとなっています。
MIDIオーディオ・プレイヤーとしても使える
SonicCellでは、背面にあるスロットに直接USBメモリーを挿入することにより直接データを読み書きすることが可能。ここではUSBメモリーに書かれたWAV/AIFF/MP3などのオーディオ・データやMIDIデータを、本機にてストリーミング再生したりという使い方ができそうです。ライブのオープニングSEとかに重宝しそう。。
なおMIDIファイル再生時は、テンポを変えたり特定のトラックをミュート(消音)させたりといったことが自在にできるわけで、これまたライブ時のシーケンサーとして使い道がありそうです。
SonicCell/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
つぶやき的な
SonicCellを新品で買った際には、DAWソフトである「Cakewalk SONAR LE」が同梱されてきました。本機はMIDIインターフェイスとしても機能するので、一応MIDI+オーディオが統合されたDAW環境が買ったその日から整うといったところですね。
そしてこの製品のキモは、「ソフトシンセ全盛の時代にリリースされたハード音源」という点でしょうか。まあ現在でもソフトシンセがやっぱり全盛なのですが、この頃はお手頃価格帯のPCの基本性能(CPU,メモリー)もすっかり上がって、『今どきDAWシステムに(高価な)ハードシンセなんて組み込む人がどれだけいるのか?』という感じだったように回想します。
前述したように本機はPCとの連携を高めた設計となっており、どちらかというとPC側がシステムの核になると言っていいと思うのですが、(特にマルチティンバー時に鳴らした時)少しでもPC側のCPUの負担を減らしたいユーザーにとって、使い勝手のよいサブ的な外部ハード音源として重宝されたのかもしれません。
このように、ハードウェアならではの扱いやすさを提示した良機といえるかもなのですが、それ以降ローランドからこの手の製品の後継モデルは今のところ出ていませんね。。多機能でいろいろできる反面、DTM(あるいはシンセサイザー)初心者にはやや難しい設計なのかな? と感じたりします。
仕様
【音源部】
■パート数:16
■最大同時発音数:128音
■波形メモリ:128Mバイト(16ビット・リニア換算)
■拡張スロット:ウェーブ・エクスパンション・ボードSRXシリーズ最大2枚装着可能
■プリセット・メモリー:パッチ=896+256(GM2)、リズムセット=20+9(GM2)、パフォーマンス=64
■ユーザー・メモリー:パッチ=256、リズムセット=32、パフォーマンス=64
■エフェクト:マルチエフェクト=3系統、78種類、コーラス=3種類、リバーブ=5種類、インプット・エフェクト=6種類、マスタリング・エフェクト=3バンド・コンプレッサー
【オーディオ・インターフェース部】
■オーディオ入出力チャンネル数:
入力=1系統(マイク、ギター=モノラル/LINE=ステレオ)
出力=1系統ステレオ
■信号処理:PCインターフェース=24ビット、AD/DA変換=24ビット
■サンプリング周波数:AD/DA変換=44.1/48/96kHz
【SMF/オーディオ・ファイル・プレーヤー部】
■再生可能フォーマット:標準MIDIファイル=フォーマット0,1、オーディオ・ファイル=WAV、AIFF、MP3
■外形寸法:294(W)×55(H)×175(D)mm
■重量:1.2kg
■発売当時の価格:オープンプライス
■発売開始年:2007年