【Vol.377】LINN Electronics Linn9000 ~ロジャー・リン氏が手掛けた統合的ドラムマシン[1984年]
2019/01/19
今回紹介する機材は、LINN Electronicsが80年代中頃に発売した「Linn9000」です。本国アメリカでの発売は1984年(日本での発売は翌85年)。発売当時の国内定価は1,500,000円でした。
これはひと言でいうと「デジタルドラムマシン+MIDIシーケンサー」であり、さらにオプションのサンプリング・カードを装備すれば、サンプリング音をデジタルドラムマシンにて走らせることもできるという、当時夢の仕様で注目を集めました。このLinn9000は、80年代初頭に現れ世界的にヒットしたLM-1、LM-2(通称Linn Drum)のいわゆる “リンドラム”の、最末期のモデルでもあります。
LINN9000・リズムマシン部
本機は大きくリズムマシン(デジタルドラム)のブロックと、MIDIシーケンサーのブロックに分かれています。まずはリズムマシンの部分から触れてみましょう。
音源部はサンプル・プレイバック方式で、以下18種類のサウンドを内蔵していました(→8ビットであり、サンプリング・レートは11kHz~37kHzだそう)。
●ベース ●スネア ●タム(1~4) ●コンガ(1/2) ●ライドシンバル(1/2) ●クラッシュシンバル(1/2) ●カウベル ●クラップ ●カバサ ●サイドスティック ●タンバリン ●ハイハット
これらはパネル上の18個のキー・パッドにそれぞれ対応しており、パッドを叩けばすぐにでも音を鳴らすことも可能です。なお各キー・パッドはそれまでのスイッチ式とは違い、タッチ・センス付きなのが目新しいポイント。そう、叩いた強さに反応するというパッド部分はのちの「AKAI MPC60」にも継承されていますね。
各サウンドは、専用のボリューム・コントローラーを使ってチューニングが可能。またパンポットもサウンド全てに独立したコントロールができます。またハイハット音はディケイ(いわゆる音の減衰)がコントロールできるようになっており、オープン/クローズも簡単に調整できそうです。
本体メモリーには最大24,000個のリズム・ノートを記憶可能。エディットについても、インサート、デリート、コピーなどのディスクによるマージ機能を揃えています。
また、オプションのサンプリング・カード(定価150,000円)を追加することにより、自身で作ったオリジナル・サンプリング音をドラム音源として本機にて走らせるといったことが可能になります。オプションとはいえ、この機能は本機の売りの一つといっていいでしょう。
MIDIシーケンサー(MIDIレコーダー)部
外部キーボードやMIDI音源などと接続可能な、32トラックMIDIハードウェアシーケンサーを内蔵。これは16までのMIDIチャンネルの指定が可能であり、ベロシティ、アフタータッチ、ピッチベンド、モジュレーションなどの様々なパラメーターをメモリー可能。
さらにオプションの3.5インチ・フロッピーディスク・ドライブの接続により、フロッピー・ベースによるライブラリー管理も可能となっています。ちなみにこの純正オプションの3.5FDDですが、当時の定価は350,000円でした(!)
LINN SEQUENCERについて
Linn9000からシーケンサー部だけを独立させたプロダクト。形はいわゆる2Uのラックマウンド・サイズであり、Linn9000ではオプションだった3.5インチフロッピーディスクドライブを標準実装。価格は498,000円でした(※1987年1月1日の価格改定後の国内定価)。
Linn9000譲りの32トラックのMIDIレコーダーを備え、フロッピーディスクに約100,000ノートを記憶可能、またオプションでリモートコントローラーも用意されていました。
実はバグだらけだった…
本機Linn9000(およびLinn Sequencer)は、内部オペレーティングシステムに書かれているプログラムに多くのバグを抱えていたというのは有名な話であり、動作が固まったりデータが消失したりなどといった不具合がよく報告されたそうです。
Linn9000/ナニワ楽器株式会社 雑誌広告より画像引用
まとめ的な
世界的ヒットとなったLM-1、LM-2(Linn DRUM)の後継モデルということでリリースされた、ロジャー・リン氏渾身の統合的デジタルドラムといったところでしょうか。18種のベロシティ/プレッシャー付きパッド、プログラム可能な各サウンド、MIDIシーケンサーを標準で備え、オプションとはいえ3.5インチFDDを搭載、あるいはサンプリング機能装備など、革新的かつ先進的な機能をいくつも有していました。
とはいえ致命的だったのがやはりバグ問題。価格5,000USドル(発売当時の相場は1USドル=220~250円くらい。日本価格は150万円)は完全プロ仕様の機材と見るべきだし、いざという時にちゃんと動いてくれない機材というのは、特に信頼性の求められるプロの現場では使いにくいといった感じだったのでしょう。
その結果、Linn9000およびLinn Sequencerの両マシンの信頼は得られず、結果的にLINN Electronics社の倒産(→1986年)に直接的に影響を及ぼしてしまったとされています(※1)
さてそのLinn Electronics社の倒産後、創業者であるロジャー・リン氏はAKAIとタッグを組み、かの名機AKAI MPC60を開発することになりました。MPC60はそれまでのリンドラムの開発ノウハウを生かし、ヒップホップ系トラックメーカーなどを中心に好セールスを記録することになります。
関連記事:「AKAI MPC60 ~MPC初号機![1987年]」
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※1 …Linn9000のラックマウントバージョンであり9000の後継製品となる予定だった「LinnDrum Midistudio」もアナウンスされたが、結局生産されることはなく会社は倒産。その後、Forat Music&Electronics社がLinn Electronicsの残りの資産を購入し、Linn9000のデバッグ版とも言える「Forat(フォーラット) 9000」を1987年にリリースした。
仕様
■内蔵音色:18種(ベース、スネア、タム(1~4)、コンガ(1/2)、ライドシンバル(1/2)、クラッシュシンバル(1/2)、カウベル、クラップ、カバサ、サイドスティック、タンバリン、ハイハット
■メモリー:最大999小節
■編集機能:インサート、コピー、マージ、デリート
■発売当時の価格:1,500,000円
■発売開始年:1984年(日本発売は1985年頃)