【Vol.360】AKAI S1000(/S1000HD/S1000PB) ~ステレオサンプリングに対応した当時のスタンダード・サンプラー[1988年]
2019/01/25
今回紹介する機材はAKAI professionalのサンプラー「S1000」です。発売は1988年夏頃。当時の定価は480,000円でした(※ただし消費税導入後は価格改定)
S1000は、以前本ブログでも紹介した「AKAI S900」のコンセプトを継承しつつ、さらにスペック・アップを果たした後継機といったところですね。S900の豊富なサウンド・ライブラリーがそのまま使えて、さらにステレオ・サンプリングにも対応になりました。ここでは、派生機種であるS1000HD、S1000PBも併せて紹介してみたいと思いますよ。
なお、以下は発売当初の「バージョン1.0」を基準に記述してあります。ソフトウェアがアップデートされた「バージョン2.0」についてはまたの機会に触れたいと思います。
基本スペック
16ビット、16ボイス、サンプリング周波数は44.1kHz/22.05kHzで、標準メモリーは2MB(オプション追加により8MBまで増設可)。
サンプリングビット数がS900の12ビットから16ビットへアップし、サンプリング周波数もMAXで44.1kHzを実現。そして何といっても本機の特筆すべき点はステレオ・サンプリングに対応したところでしょう。
また、正弦波、ノコギリ波、矩形波、パルス波の4種類のシンセ波形も内蔵。他にもフィルターやピッチ・モジュレーション、エンベロープ・ジェネレーター(2系統)も搭載しており、ちょっとしたシンセサイズも可能となっています。
外観
白基調のカラーリングでまとめられた3Uのラックマウント型。S900との大きな違いは、LCDディスプレイが飛躍的に大きくなっている点でしょう。S900も40×2文字と当時としては比較的大きかったのですが、S1000では面積が広くなっただけでなく、サンプル波形がグラフィカルにリアルタイム表示されるようになりました。
操作性について
サンプリングされた波形データはグラフィカルにLCDに表示され、スタート・ポイント/エンド・ポイント、あるいはループなどのエディットに素早く移行できるようになっています。
画面のスケールを変更することにより波形のズーム・イン/ズーム・アウトも可能で、より細かな編集も直感に頼らず細かく行うことができますね。なおループは任意のポイントを最大8ポイントまで組むことができます。
LCD画面の下部には、当時のパソコンでよく見られた「ファンクション・タブ」が表示されており、対応するスクリーン・ファンクション・ボタンにて該当の項目(ジョブ画面)が即座に現れるようになっています。シンプルな操作で目的のパラメーターに素早くアクセスでき、全体的な操作性も大きく向上したと見ることができますね。
搭載ドライブについて
S1000では、2HD/2DD対応の3.5インチ・フロッピーディスクドライブを1基内蔵。
ここではS900のサウンド・ディスクをそのままロードすることもできます(※バージョン1.0ではサウンド・データとループ・ポイントのみ)。ただしその際は12ビットのデータを16ビットのデータに変換するということであり、ロードにはちょいと時間がかかります。。
S1000/赤井電機(株) 雑誌広告より画像引用
入出力端子
アウトプットについてはステレオ・アウトはもちろん、8つのパラ・アウト端子を装備。ドラム音源としてパラでミキサーに立ち上げるなど、使い方の自由度は高かったと思います。
あとインプットについては、通常のフォン端子に加えXLR端子(キャノン)にも対応していますね。ボーカル録りなどに便利な親切設計です。
S1000HD
S1000にハードディスク・ドライブを内蔵して(→当時としては大容量だった40MB)、本体へのデータ・ストック量を飛躍的に増大させたハイエンドモデル。またS1000ではオプションだったSCSIインターフェイス・ボードも標準搭載しています。発売当初の本体価格は680,000円。
フロントパネルの見た目的にはほぼ全く変わっていませんね。もちろん内部インターフェイスや操作系もS1000と同様。なおSCSIインターフェイスが標準で付いたことにより、当時ATARI社の外部ハード・ディスクなどとダイレクトに接続できたそうです。
S1000PB
S1000からサンプリング機能を省いた再生(プレイバック)専用モデル。当初の価格は337,000円でした。
サンプリング機能が省略されたためパネル上の操作子もいくつか減らされていますが、320文字表示の大型ディスプレイや豊富なプログラム機能はS1000のそれを継承。16ビット・サンプリングによるS1000用の高音質サウンド・ライブラリーがそのまま読み込むことができ、もちろんエディットもOK。
16ボイスでのマルチ音源として使えたわけで、ライブラリーさえ揃っていれば十分自由かつ豪華な音作りが可能でした。
個人的かんそう
世界中の現場(スタジオ、ライブ等)でスタンダードになった前モデル・S900でしたが、一般人?にとってはまだ若干なじみが薄かったといった感じでした。AKAI印のサンプラーといえば、S900の2年後に発表されたこのS1000シリーズから徐々に盛り上がってきたという印象がありますね。
前述したように用途によってモデルを分け、さらにのちにキーボード版(→AKAI S1000KB)も登場させるなど、個人のニーズに合わせて自由度の高いチョイスができたというのも大きかったと思います。
サンプリング周りのスペックアップ(→16ビット/44.1kHz)によって、アカイのサンプラーの基本製品ポリシーであった(と思われる)「原音忠実主義」がより色濃くなった一台といったところでしょうか。まあ反面、ユーザー・サンプリング(→手作りのサンプリング/エディティング)離れが進み、「ハイクオリティなサンプルは買うもの」という考えが本機により加速したという側面もあったかのではと回想します。
関連記事(AKAIサンプラーSシリーズ):
「AKAI S612 ~アカイ・サンプラー「S」の元祖[1985年]」
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「AKAI S01 ~10万円を切るお手頃・イージーサンプラー[1992年]」
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仕様(S1000 ※Ver1.0)
■サンプリングビット数:16ビット
■サンプリング周波数:44.1kHz/22.05kHz
■最大サンプリング数:200
■最大同時発音数:16ボイス
■メモリー容量:2MB(最大8MBまで拡張可能)
■サンプリングタイム:47.52秒(※モノラル22.05kHz時)
■内蔵ディスクドライブ:3.5インチ(2HD,2DD)
■外形寸法:482.6(W)×132.6(H)×425(D)mm
■重量:9.5kg
■発売開始年:1988年
■発売当時の価格:480,000円 (消費税導入後は439,000円・税別)