【Vol.249】ALESIS Ion ~アレシス初のバーチャル・アナログシンセ[2003年]
2018/11/26
今回紹介するシンセサイザーは、2003年にALESIS(アレシス)が発売した「Ion(イオン)」という名のモデルです。49鍵仕様であり、発売当初の定価は150,000円でした(のち138,000円に改定。いずれも税抜)。
2000年代初頭に同社から先行発売された「A6 Andromeda」はリアル・アナログ・シンセだったのですが、本機IonではDSPエンジンを積んだいわゆるバーチャル・アナログシンセですね。どちらも2000年代のシンセ界で異彩を放った存在として記憶している人も多いかと思います。
概要
アレシスが独自に開発したDSPエンジンを搭載し高速処理を実現。デジタルでありながら追従性の高いリアルタイム・コントロールを可能としたバーチャル・アナログシンセです。心臓部であるこのDSPチップの大部分は自社でカスタム・メイドしたものであり、それにより大幅なコストダウンにも貢献しているとのことですよ。
プリセットは往年の名機(アナログシンセ)をほうふつとさせるものが多く、MinimoogっぽいベースやARP2600ぽいリード音、ポリフォニックを生かしたJUPITER-8っぽいシンセ・ストリングスなど、いわば「定番」な感じの音色が多数収められています。
スペック
同時発音数は8ボイス。各ボイスの基本構成は3オシレーター、2マルチモード・フィルター、3エンベロープ・ジェネレーター、2LFO、エフェクト・センド、モジュレーション・マトリックスから構成されており、4つのマルチティンバーとしても使うことができます。
内蔵プログラム総数は128×4バンク=512プリセットで、全メモリー書き換え可能となっています。このだけの数があれば必要十分だと言えるでしょう。
オシレーター・セクション
3基のオシレーターは、サイン波、ノコギリ波/三角波、矩形波をスイッチで選択可能。またshapeというつまみでは、波形形状をリアルタイムに滑らかに変化させることができます。この辺りの滑らかさはさすがの高速DSP処理!と思わずにはいられない感じです(実際にベンチマーク等で確認したわけではないので体感の範囲内なのですが。。)。あと、シンクやFM合成といったことも可能です。
フィルター・セクション
2基のフィルターは、1つの音色に対して2種類のフィルタリングが可能。なおフィルター・タイプは往年のアナログシンセをシミュレートしたものが内蔵されており、実に20種類ものバリエーションの中から自由に選択することができます。MOOGやOBERHEIM、JUPITER、TB-303などなどですね。
フィルターは音色作りに非常に重要なセクションであり、これだけのバリエーションが取り揃えられているということで、本機の一番の売り機能と言ってもいいのではないかと思います。
イタリアの楽器店で見つけたIon
プログラム・バンク
前述した4つの音色バンク(各128プリセット)は、パネル上のスイッチによって変更可能です。なおバンク名は1,2とかA,Bとかではなく、「red」「blue」「green」「user」となっているのが超個性的ですね! ちなみにバンク名(カラー名)に対応したLEDがちゃんと点灯します。
なお青色LEDが使われているのは本機でもこのblueスイッチだけですね。この色分けにどんな意味が込められているのかは謎ですが。。
ボタン、コントローラー類について
パネル上の各種スイッチの大半はLEDが埋め込まれていて、レッドおよびグリーンで自照します。色によって使用状況を教えてくれるという作りになっていて、これは親切設計ですね。何より暗いステージ上では非常に栄えると思います。
本体左下には、シンセの定番と言えるピッチ・ホイールとモジュレーション・ホイールが装備されているのですが、本機ではモジュレーション・ホイールが2基あるのが特徴的。開発側の意図としてできるだけ多くの機能をリアルタイムに制御できるようにしたかったそうで、実際、リード楽器として使用する際に表現力の幅が広がったと言えるでしょう。モジュレーション・ホイール1がビブラート系、2がフィルター系にアサインして使うのが定番でした。
なおこの3つのホイールはスケルトン仕様で、スイッチと同様にLEDが内蔵されています。ホイールを回す度合いによって赤のイルミネーションが変化していくということで、これまた暗いステージで存在感を発揮することでしょう。
ALESIS Ion/(株)モリダイラ楽器 雑誌広告より画像引用
つぶやき的な
90年代中頃から盛り上がってきたこのバーチャル・アナログシンセのカテゴリーなのですが、ALESISならではの解釈と技術で、非常に面白い仕上がりになっている一台だと個人的に感じました。
ほとんどのパラメーターを直感的に操作できる(※ただしLFOだけは若干複雑)のに加え、本記事では紹介しきれなかった多彩なエフェクト(ボコーダー含む)なんかも備えていて、音作りの楽しさを大いに味わえるシンセだと思いますよ。この頃のALESISさんは輝いてたなぁ(笑)
関連記事:「ALESIS Micron ~Ion譲りの音源を搭載したコンパクト・シンセサイザー[2004年]」
仕様
■鍵盤:49鍵(ベロシティ・リリース、ベロシティ・センシティブ)
■同時発音数:8ボイス
■構成:3オシレーター、2マルチモード・フィルター、3エンベロープ・ジェネレーター、2LFO
エフェクト・センド、モジュレーション・マトリックス
■プログラム・メモリー:512プリセット、64マルチティンバー・セットアップ
■エフェクト:4パート・ドライブ・エフェクト、共通モジュレーション・エフェクト
■外形寸法:838.2(W)×95.25(H)×330.2(D)mm
■重量:9kg
■発売当初の価格:150,000円税抜(のち138,000円税抜に改定)
■発売開始年:2003年