1970~80年代'' YAMAHA 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.225】YAMAHA TX816 ~DX7が8台分収まっちゃった!?モジュール[1984年]
2018/11/26
今回紹介するシンセサイザーは、1984年にヤマハから発売された「TX816」という機種です。当時大ヒットした同社のシンセ・DX7をFM音源モジュールにした形のものが「TF1」であり、TX816はそのTF1を8基搭載したラック・モジュールという趣きですね。当時の定価は890,000円(!)でした。
要するに本機1台でDX7が8台分と考えてもいい非常に豪華な内容となっています。向谷実(元CASIOPEA)さん、小室哲哉(TM Network)さんなど、当時の名だたるミュージシャンが愛用していました。
TF1について
TX816を読み解くに当たり、まずは基本モジュールとなる「TF1」の話からしてみましょう。
TF1は今で言う音源増設ボードのようなもので、ぱっと見はEURORACKのモジュールに近い印象です。単体では90,000円で発売されました。
TF1それ自体は電源回路を搭載していませんし、単体で音を鳴らしたりすることはできません(→電源はTX816のメイン・ユニットから供給)。本モジュールはあくまでMIDIによる外部コントロールを前提として設計されており、シーケンサー(YAMAHA QX1等)やコンピュータ、あるいはDX7などとつなげることで機能を発揮するといった感じですね。8基のTF1はそれぞれ独立にMIDI受信チャンネルを設定可能です。
なおフロントパネルにあるのは3つのボタンとLEDディスプレイだけというそっけなさ(笑)。各TF1にはそれぞれパフォーマンス・メモリー(マイコンのようなもの)を持ち、音色ごとの音量や音源ごとのMIDIチャンネルを任意に設定できるようになっています。
TF1はDX7と同等の6オペレータであり、同時発音数は16。32ボイスデータ(音色)および、32ファンクション・データ(アフタータッチ、ポルタメント等)といった情報のメモリーが可能となっています。DX7の音源部機能が本ユニットに凝縮されているとも言えますね。
そしてTX816について
TX816は、前述した8基のTF1(FM音源ユニット)+MIDI RACK FRAMEという構成。MIDI RACK FRAME(以下MRF)とはパネル左側にあるユニットおよび全体の「枠」であり、MIDIや電源を管理します。
MRFのフロントパネルにはMIDI IN/OUT/THRU端子を装備しており、MIDI INから入力されたMIDIメッセージは8基のTF1に同時に送られます。またTF1側にもMIDI IN端子が搭載されており、個別に入力も可能。フロントパネルにある共通MIDI INにするか、各TF1にあるMIDI INにするかは、TF1のフロントパネルにあるスイッチを押して選択できるという仕様になっています。
DX7との組み合わせ
TX816とDX7のMIDI IN/OUTをそれぞれ接続(→計2本のMIDIケーブルでハンドシェイク)することにより、TX816の音色エディットなどのデータ送受信が可能になります。まずDX7にTF1の音色をロードし、DX7のパネル操作により音作りを進めていくといった感じです。
QX1との組み合わせ
本機をQX1(シーケンサー)と組み合わせることで、最大8パートのマルチティンバー音源として個別のTF1を各々演奏させることが可能になります。個性の異なる音色をそれぞれ設定すれば豪華なオケを鳴らせますし、同系統の音色のニュアンスを少しずつ変えて(あるいは少しずつピッチをずらして)重ねたりすると、当時としては異次元の音の厚みを実現できたことでしょう。
とはいえこれ「マルチティンバーもどき」みたいな使い方ですね。。実際にはMIDIケーブルを8本つなげることになります。QX1にもMIDI OUT端子は8つ装備されており、QX1+TX816の黄金コンビネーションは、ヤマハさんによって始めから仕組まれていたような気が致します(笑)。まあMIDIパッチベイなどを使えば別にQX1でなくてもシステムを構築できたかもしれませんが。。
関連記事:「YAMAHA QX1 ~ヤマハの本格的シーケンサー・シリーズ「QX」第1号機[1984年]」
補足・TX116について
上記のMRFに「TF1」を1基のみ装備したもの。定価は300,000円でした。TF1は単体でも販売されていたので、徐々にユニットを追加していくこともできたというわけですね。ちなみにそのTF1の装着台数によって型名も変化し、2台だと「TX216」、3台だと「TX316」などと呼ばれたそうです。
個人的つぶやき
8台のDX7の音源機能を1台に凝縮した当時のモンスター・マシンといった印象です。ただし本機のみではほぼ何も行うことができず、QX1やDX7(DX7II)と接続することで真価を発揮できたというところも 価格面で一般人を突き放す(笑)、まさに「夢のプロ仕様シンセ」といった趣きです。他にもミキサー(8ch以上)なども必須だったでしょうし、パフォーマンスを引き出す環境を整えるために途方もなく投資が必要だったことでしょう。。
余談的な
公式の『初音ミク™』のスカートには本機TX816と思われるデザインが施されています。向かって左側にはちゃんとTX816(と思われる)の「MIDI IN/OUT/THRU端子」が確認できますし、スカートの各プリーツはそれぞれのTF1に見立ててあるようです。スカートだと何かのゲージ(横棒グラフ)に見えるのは、実はTF1パネル上の印刷文字を棒状に省略した感じですね。「そんなの誰が気付くねん!」という熱いこだわりっぷりです(笑)
仕様
■音源方式:FM音源
■最大同時発音数:16音ポリフォニック×8
■外形寸法:480(W)×176(H)×346(D)mm
■重量:12kg
■発売当時の価格:890,000円
■発売年:1984年12月