【Vol.123】AKAI S900 ~世界中に広まったアカイ・サンプラーの定番機[1986年]
2018/11/25
今回ご紹介する機材はAKAI professionalのサンプラー「S900」です。発売は1986年。S900は、以前本ブログでも記事にさせてもらったS612(AKAI S612 ~アカイ・サンプラー「S」の元祖)から1年後に発売され、またたく間に世界的なスタンダート・サンプラーとなった有名モデルです。
S612は国産第1号の本格ポリフォニック・サンプラーであり、17万円を切る本体価格は当時衝撃的でしたが、S900の定価は385,000円と倍以上の価格設定となっていますね。とはいえ大幅に機能が強化されています。
基本スペック
サンプリング周波数は最高40kHz(~7.5kHz)、サンプリング・タイムは11.75~63秒、最大32ポイントのマルチポイント・サンプリングを実現。それまではあまり実用的とは言いにくかった、生ピアノなどのアコースティック楽器の再現度が大幅にアップしています。同時発音数は8音で、6オクターブをカバーします。
S612ではオプションだった外部記憶装置も標準で搭載され、メディアも、より汎用性の高い3.5インチ・フロッピー・ディスク(2DD)が採用されました。音色データはこのフロッピーにセーブし、ロードすることになります。
外観
3Uのラックマウント型。白いボディに「AKAI professional」の赤い文字を配する辺りは、のちの同社のサンプラー・Sシリーズに共通するデザインですね。LCDは40×2文字と当時としては比較的大きく、細かなエディット時などで視認性を発揮しました。なおリア・パネルには8チャンネル独立のアウトプットも備えています。
S900/赤井電機(株) 雑誌広告より画像引用
操作について
本機には以下8つのモードがあり、フロント・パネルの独立したモード・キーで即座に呼び出すことができます。
「プレイ・モード」
「レコーディング・モード」
「エディット・サンプル・モード」
「エディット・プログラム・モード」
「MIDIモード」「ユーティリティ・モード」「ディスク・モード」「マスター・チューン・モード」
各モードのページ内では、LCDを見ながら、大型のコントロール・ダイヤル、およびテンキーで細かなエディットが行えます。特にテンキーの装備は操作性向上に大きく貢献しているような印象ですね。
なおレコーディング・モード時では、40桁のLCDがそのままレベル・メーターになるので視認しやすいです。
個人的かんそう
発売当時はリアルな音と高い操作性が注目され、たちまち現場のスタンダードとなりました。サンプリング周波数は40kHzですが、量子化ビット数は12なので、今聴くといわゆるローファイな音の印象が強いですね。一時期ヒップホップ系のトラックメイカーが本機の「ざらついたローファイ感」に目を付け、中古市場でも賑わっていた時期がありました。
個人的には、アカイのサンプラーのキャラクターを決定付ける「原音忠実主義」な製品ポリシーが、本機によって確立されたような気がします。その後続く同社のSシリーズの、本体デザインや基本設計もほぼ固まったといったところですね!
おまけ
オプションの「ASK90」について
S900のリア・パネルに接続して使う、オーディオ・トリガー・インターフェイス・ボード。その名が示すように、オーディオ信号やトリガー信号によってS900を発音させることができるというものです。8チャンネルを独立してトリガー可能でした。価格は39,000円。
電子ドラム(エレドラ)とつなぎ、ドラム・パッドを叩く(→トリガーする)ことによってS900内の音源を鳴らすなどの使い方ができました。またオーディオ信号そのものをトリガーとして使用することもできます。
オプションの「S9V2.0」について
S900発売の翌年に発売された、S900のシステムを向上させるディスクです(これによりバージョンが従来の1.2から2.0に向上)。3.5インチFD2枚を本体内にロードさせるだけでバージョンアップが完了します。ちなみに価格は15,000円でした。
バージョンアップによって実現できた機能群は、今となっては当たり前的なものが多いのですが、当時としてはなかなか革新的だったのです。多くの拡張機能が追加されていますが、その中の一部を見てみましょう。
ダイナミック・フィルタリング機能
従来のS900にはVCFエンベロープは搭載されていなかったのですが、この機能により、A.D.S.Rにフィルター・エンベロープをかけることができるようになりました。
クロスフェード・ループ機能
サンプルのループ・エンド前後の音と、ループ・スタート前後の音をクロスフェードする機能。ループのつなぎ目がマスキングされるため、編集作業におけるルーピング処理がスムーズにできるようになりました。なおクロスフェードさせる最適な長さは、最大32,000ポイントの中から自動検出してくれるようになっています。
スタート・ポイント自動検出機能
録音したサンプルの頭の部分(最初の32,000ポイント)でスタート・ポイントを自動検出。これにより、無音部分をスキップしてデータの的確な頭出しが自動で行えるようになりました。
録音時のサンプル・タイム指定が不要
ノート・オン時のベロシティでリリース・タイムをコントロールするという機能。ベロシティ・データの大きさによってリリース・タイムを長くしたり短くしたりすることが可能に。
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仕様(S900)
■サンプリング方式:12ビット(リニア方式)
■サンプリング周波数:7.5~40kHz
■サンプリングタイム:11.75~63秒
■マルチサンプリング:32ポイント
■最大同時発音数:8
■外形寸法:482.6(W)×132.5(H)×410(D)mm
■重量:10.8kg
■発売開始年:1986年
■発売当時の価格:385,000円