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1990年代' Roland 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.405】Roland S-760 ~1Uサイズに凝縮された90年代の高性能サンプラー[1993年]

2018/11/28

 

 

 今回ご紹介するデジタル機材は、ローランドが1993年に発売したサンプラー「S-760」です。発売当初の定価は198,000円(のち148,000円に改定)。1Uサイズのコンパクトなラック・サンプラーでありながら、高い操作性・拡張性などにより、90年代末まで生き残った息の長いモデルとなりました。

 

Roland S-760

 

 なおS-760はのちにバージョンアップ(→Version2)も行われたのですが、本記事ではリリース当初のVersion1を基準に話を進めてみたいと思います。
 
 
 

メモリーについて

 この頃のハード・サンプラーにとって、サンプリング・タイム(録音時間)の長さはメモリーにほぼ依存するところであり、メモリーの容量はサンプラーのスペックを読み解く上でも非常に重要な項目だったと言えるでしょう。本機S-760は以下のようになっていました。

標準(初期状態):2MB
最大拡張時:32MB

 
 本機には2つのメモリー用空きスロットを備えており、8MBおよび16MBのSIMMを扱うことができました。単純に8MBを足すと10MB、16MBを足すと18MBといったように、追加分はデフォルト(2MB)との足し算で認識するのですが、16MB×2の場合だけデフォルトの2MBは認識しなくなります。
 
 
 なおこの “標準2MB”は、後述するSCSI機器と接続して音色をロードする際、メモリー不足でロードできないケースもありました。大容量サンプルを扱うのならば、やっぱりある程度増設しておいた方がよいという感じでしたね。
 
 
 最大拡張時(32MB)だと、44.1kHz/モノラルで約363.8秒のサンプリングが可能となっています。
 
 
 

サンプリング・スペックについて

 量子化ビット数は16ビットリニア(内部処理はA/Dが16ビット、D/Aが18ビット)、サンプリング周波数は48/44.1/32/24/22.05/16kHzの全6種類の周波数から選択可能。最大同時発音数は24音となっています。
 
 
 なおこの頃は、特にクラブ系ではざらつきのある “ローファイ・サウンド”がちょっとしたブームとなっていました。本機S-760ではハイファイを謳いつつも、ビット・コンバート機能、レート・コンバート機能によりあえてローファイなサウンドを得ることもでき、当時のニーズをくみ取った設計と言えるでしょう。
 
 
 なお音声入力は基本的にラインからのみで、マイク入力端子は備えていません。マイク入力する際は、ミキサーなどでレベルを上げてから接続するなどちょっとした準備が必要でした。
 

Roland S-760(advertisement)
S-760/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
 
 
 

拡張性について

 本体にハードディスクは内蔵していませんが、標準でSCSI(スカジー)端子を備えており、外付けで最大7台までのSCSIデバイス(ハードディスク、CD-ROMドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等)を接続することができました。
 
 
 まあこの頃はサウンド・ライブラリー(オプションの音色データ集)もCD-ROMで供給されることが多くなっており、流行の “大容量サンプル”を扱うにはこういったSCSIデバイスはこれまた必須だったというところです。
 
 
 なお本体には3.5インチ・フロッピーディスク・ドライブも搭載しており、ちょっとしたサンプルだったらこのFDDにて事足りるといった感じです。もし100MB以上を扱いたかったらZIPなりMOドライブを用意してねといったところ。
 
 
 

他のローランド製サンプラーとの互換性について

 高級機として知られS-760の前身モデルとも言える同社のサンプラー「S-770」「S-750」のサウンド・データをそのまま読み込むことが可能。また「S-550」「W-30」の音色データはコンバート・ロード機能により読み込むことができ、それまでのサウンド・ライブラリー資産を生かすこともできますね。
 
 
 関連記事:
 「Roland S-550 ~S-50とアッパーコンパチな2Uサンプラー[1987年]
 「Roland W-30/W-30SC ~何でもありの「ミュージック・ワークステーション」…

 

 

 

操作など

 クイック・サンプリング、クイック・エディット・モードを備えており、ちょっとした鍵盤へのサンプル割り当てやパッチ設定だったらそれほど複雑ではない感じです。でもまあ結構細かく作り込みたい場合は、SCSI経由でMacintoshへ転送したり、後述するOP-760-1を導入するというのが現実的だったと思われます。
 
 
 TVF/TVA/LFOなどのパラメーター・エディターも備えており、サンプルデータをシンセサイザーと同じような感覚でエディットすることが可能。また、使用頻度の高い音色を登録し、簡単にロードできるクイック・ロード機能も搭載。ライブでも使いやすい仕様といった感じです。
 
 
 バックライト付きのLCDは64×160ドットの細かいものであり、本機のみでも波形表示/編集が可能です(当然のことながら文字は非常に細かかったが…)。1Uという限られたパネルスペースでありながら、ぎりぎりまで広いディスプレイを採用した辺りはローランドさんの企業努力を感じますね。。
 
 
 

オプションのOP-760-1

 S-760は、本体のみでもサンプラーの基本機能は押さえておりそのまま使用できましたが、オプションの「OP-760-1」ボードを接続することにより、大幅な操作性&拡張性を得ることができました。発売当初の定価は40,000円(のち25,000円に改定)。
 

Roland OP-760-1

 
このOP-760-1を追加することによって…
 
・付属の専用マウスにより、外部CRTモニターへの接続が可能。
・1系統のデジタルイン、2系統のデジタルアウトを追加。
 
 
などといったところ。特に前者は、細かな波形編集を始めとするオペレーションが大画面で視覚的に行えるようになるということで、S-760ユーザーだったら必携といった趣きのオプションでした。ついでに(?)デジタルI/Oによる音質劣化のないサンプリングが可能になるという点もお得感がありますね。
 

Roland S-760(advertisement)
S-760/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
 
 
 

つぶやき

 その頃のハードウェア・サンプラー市場といえばやはり定番のAKAIが強くて、あとはプロ志向のE-mu、YOUNG CHANG(KURZWEIL)などが続くといった感じだったと回想します。今回のRoland S-760はそういった定番機からはちょっと外れた製品でありながら、一定の固定ファン層は獲得していたという印象ですね。「任天堂じゃなくてあえてSEGA」みたいな(笑)
 
 
 S-760は音に強烈なクセがなく、おそらく原音忠実再現の思想の下、単純に音がいい(16ビット/48kHz)という楽器としての基本性能の高さから、市場に受け入れられ一定数の評価を得たという(個人的)印象です。Roland純正のサウンド・ライブラリーも充実していたし、ひょっとして今でも愛用している人がいるかもですね。
 
 
 
 関連記事:
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仕様
■最大同時発音数:24音
■データ・フォーマット:16bitリニア
■サンプリング周波数:48/44.1/32/24/22.05/16kHz
■ウェーブ・メモリー:RAM 2Mバイト(最大増設時32Mバイト)
■エフェクト:2バンドEQ×8
■ディスプレイ:64×160ドット(バックライト付きLCD)
■外形寸法:482(W)×44.8(H)×362.3(D)mm
■重量:4.2kg
■発売当時の価格:198,000円(のち148,000円へ改定)
■発売年:1993年

 

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