【ショルダーキーボード】 その他メーカー 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.233】MOOG Liberation ~重くてゴツい “ショルダー・シンセサイザー” [1981年頃]
2018/11/26
静岡県にある「浜松市楽器博物館」には、ショルダーキーボードとしてはひときわ異彩を放つモデルが一台展示されています。博物館内の展示品なので実際に手に取ることはできませんが、コントローラー類が所狭しと配置されており見るからに重厚な作り。。
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これは何かというと、1980~81年頃に発売された「MOOG Liberation(リバレーション)」というショルダー・シンセサイザーなのです。今回はこのLiberationについてちょっとお話をしてみましょう。
2VCOの本格シンセサイザーであり、ショルダーなのに音源を内蔵しているというのが大きなポイントです。なお浜松市楽器博物館で展示されている個体はホワイトですが、一般的にはブラックのカラーリングを目にすることが多いです。
概要
同社のMultimoogをベースにしたとされる2VCOの本格シンセ。ノイズ・ジェネレーターやオシレーター・シンク、リング・モジュレーターも装備し、左手のリアルタイム・コントローラー部も充実。アフタータッチ(→本機ではFORCEと呼ばれる)も搭載しており、幅広い演奏表現に対応する可能性を秘めたショルダー・キーボードだったと言えるでしょう。
なお本体(キーボードおよび音源部)と、専用の電源ユニット(インターフェイス・ユニット)は分離しており、その間を専用ケーブルを接続するという仕様。なおこの専用ケーブルにはCV-GATE(Sトリガー)信号も含まれており、インターフェイス・ユニットから他のMOOG製シンセサイザーとつなげてリモート演奏することもできたそうです。
基本構成
オシレーター・セクション
VCO1には三角波/ノコギリ波/パルス波が選択可能で、3段階のオクターブ設定が可能。VCO2でも同様に3種の波形(三角波/ノコギリ波/矩形波)が選択可能ですが、VCO1よりも1オクターブ上にセットされています。なおオシレーター・シンクもレバー一つでできるようになっていて、ポルタメント(グライド)も可能ですね。
フィルター・セクション
自己発振も可能な-24dBローパスフィルターを搭載。キーボード・トラッキングは「フル/ハーフ/ゼロ」を選択可能。
アンプ・セクション
5チャンネル・ミキサーをパネル上に装備。ここでリング・モジュレーターやノイズ出力などもミックスできます。
EG(エンベロープ・ジェネレーター)
パネル上にASRタイプのものが2基用意されていて、それぞれVCF、VCA用となっています。いずれもスライダーでリアルタイム変更が可能です。
ネック部分(左手のコントローラー)について
この頃のMOOGシンセサイザーによく見られたリボンコントローラーも搭載。これによりベンド操作を行います。他にもキーボード・モジュレーション・スイッチ、ポルタメント・スイッチ、モジュレーション・ホイール(バネ付き)など、演奏の表現力を高めるコントローラーが数多く装備されています。
重量について
キーボード・コントローラーは約6.3kgとなっていて、これはショルダーものとしては相当に重いです。一般的なエレキギターが3.5~4.0kgだとすると、ざっくり1.7倍もの重さということになります(※ただしギターはその材等により重量に大きく幅が出ます)。
音源を内蔵しているから重い、というのは当然なのですが、本機に採用されているソリッドな木材ボディも高重量化に加担しているような気がします。。
MOOG Liberation/ヤマハ(株) 雑誌広告より画像引用
まとめ的な
【Liberation】というのは英語で「解放」という意味だそうです。それまで巨大なキーボード・セットに囲まれてライブで身動きが取れなかったキーボーディストを、広々としたステージ前方に “解放”するという意味を込めて名付けられたのでしょう(おそらく)。
とはいえ前述した専用のケーブル(キーボードと電源ユニットをつなぐもの)は、電源供給、オーディオ信号、CV-GATE(Sトリガー)信号がやや強引にまとめられたものであり、一般的なシールドのように柔軟な取り回しが難しかったそうです(→ケーブルがやや堅かった)。加えて6kgを超えるコントローラー本体の重量感は、欧米人に比べて小柄な体格の日本人にとっては結構な負担だったと思います。
ということで、Liberationはその名前とは裏腹に「解放してくれない」「自由にしてくれない」ショルダーキーボードといった感じでしょうか(笑)。まあライブステージで1~2曲演奏する分には(体力的に)問題なかろうとは思いますが。。重量的にはややヘビーなのですが、これほど欲張りに機能を詰め込んだショルダー・アナログシンセというのもそうそう見当たらないですね。
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※1 …本機においては、分周方式の簡易的なポリフォニック音源と言える。ソース波形は矩形波のみだった。
仕様
■鍵盤:44鍵(アフター・タッチ対応)
■構成:2VCO、1VCF、1VCA、2EG、LFO
■ネックコントロール部:FORCE(BEND/MOD)、FORCE AMT WHEEL、GLIDE(ON/OFF)、PITCHリボン、MOD AMT/FILTER/VOLUME WHEEL
■外形寸法:
1187(W)×136(H)×327(D)mm ※キーボード本体
482(W)×90(H)×186(D)mm ※インターフェイス【電源部】
■重量:6.35kg(キーボード本体)、3.18kg(インターフェイス【電源部】)
■発売当時の価格:450,000円前後
■発売年:1980~81年頃