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CASIO 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.410】CASIO FZ-1(/FZ-10M) ~国産機初の完全16ビット・サンプリング・シンセサイザー[1987年]

2018/11/28

 

 

 今回はCASIOのサンプリング・シンセサイザー「FZ-1」およびそれのラックマウントモデル「FZ-10M」を紹介してみたいと思います。FZ-1の発売は1987年。当時の定価は298,000円でした。

 

CASIO FZ-1

 

 本機はカシオさんが当時、ハイエンドユーザー向けサンプラー市場に本格参入した第1号機といいでしょう。FZ-1は、シンセサイザー・ラインナップのCZ/VZシリーズ、ショルダーキーボードのAZなどと共に、同社の “末尾Zファミリー”の一つとして名を残しています。今からざっくり30年位前のカシオさんは、こういった本格志向の機材も作っていたということなのですね。。(遠い目)
 
 
さて本記事では、キーボード・モデルであるFZ-1をメインに記事を進めてみたいと思います。
 
 
 

FZ-1サンプリング性能

 サンプリング・レート最高36kHz、サンプリング分解能16ビット(リニア)を実現した国内初の完全16ビット・サンプラー。
 
 
 ここでの 「“完全”とは何ぞや?」というと、サンプリングの内部演算におけるAD変換、カスタムLSI、CPU、DA変換の全てにおいて16ビットでデータ処理を実現しているからとのこと。当時、CMI-III(フェアライト)などの海外の超高級機を除けば、この “完全16ビット”はクラス初と言ってもよかったでしょう。当時の国内機はおおむね12ビットが主流であり、それよりも12倍(=4ビット分)ものダイナミック・レンジを誇っていたといったところです。
 
 
 

【補足】サンプリング・タイムについて

 メモリーは標準状態で1Mバイトを搭載。サンプリング・レートは36kHz、18kHz、9kHzの3種類から選択可能。サンプリング・タイムはそれぞれ14.56秒、29.12秒、58.25秒となっています。
 
 
 なおオプションのエクスパンション・メモリー・ボード(MB-10 定価40,000円)を装着すると、本機に1Mバイトを追加して2Mバイトにすることができました。2Mバイト時には、上記のサンプリングタイムはそれぞれ倍増することになります(つまり最高レート36kHzで約30秒
 

CASIO FZ-1(advertisement)
FZ-1/カシオ計算機(株) 雑誌広告より画像引用
 
 
 

サンプリング方式について

 サンプリングはオート&マニュアルの2方式があり、入力レベルやタイム、レイトがそれぞれ調整できます。ここでのオート・サンプリングとは、設定したトリガー・レベルを超えると自動的に録音を開始するというものですね。当時のAKAIなどのサンプラーでも見られました。
 
 
 取り込んだ波形は、その後(2つ以上のボイス・ウェーブを)ミックスしたりクロスフェードさせたり、あるいはリバースも可能です。
 
 
 

“ウェーブ・シンセシス”について

 上記のサンプリング以外に、一般のシンセサイザーのように音源波形を得ることも可能(※FZ-1には6種類の基本波形が用意されており、これは「ウェーブ・シンセシス」と呼ばれる)。その後のDCAやVCFのエンベロープ等のパラメーター操作で、アナログシンセのように音作りができるという感じです。
 
 
 この他にも、「サイン・シンセシス」(→サイン波による倍音加算合成)、「カット・サンプル」(→サンプリング音の一部を切り取る)、「ハンド・ドローイング」(→波形を手書き)といった機能を有しており、この辺りは当時の高級シンセぽい音作りもできたといったところですね。
 
 
 特に「ハンド・ドローイング」では、上記ウェーブ・シンセシスにて得られた波形に手描きでエディットを加えることにより修正が可能となるという面白い機能です。修正というか、むしろ波形を適当にグリグリいじっていって、想定外な音を見つけるのが楽しいかったかもしれませんね(笑)。ただし、サンプリングした波形に対しては直接このハンド・ドローイングを行うことはできないので注意。

 

 

 

用意された音色ライブラリーについて

 本機には付属の2枚のフロッピーディスクによって、買ったその日から以下7音色を扱うことができました。

ピアノ1/2/3、アコースティックギター、クラシックギター、ビブラフォン、ウッドベース

 
 それに加え、即戦力となるサウンド・ディスク(別売)も大量スタンバイ。これらFZ-1用音色ソフト「FLシリーズ」は最終的に10種以上がリリースされ、定価は各15,000円前後だったと記憶しています。
 
 
 

グラフィカルLCD搭載!

 パネル中央には、当時としては大型のグラフィカルLCD(64×96ドット)が配置されており、本機だけでもある程度の波形編集などが行えました。
 
 
 ちなみに本機のリアパネルには将来の拡張として「エクスターナル・ポート」なる端子が装備されていました。このインターフェースで外部コンピューターと接続してデータの送受信などを可能にするという感じだったと記憶していますが、最終的にはどうなったのでしょう。。今となってはちょっと謎ですね。。
 
 
 

外部メモリーについて

 3.5インチ・フロッピーディスク・ドライブを本体に内蔵。3.5'FDは当時珍しくはありませんでしたが、本機では両面高密度倍トラックの2HDに対応しています。これにより、前述した本体メモリー増設時において、フロッピー2枚分のデータを本体に読み込むことができるようになりました。
 
 
 余談ですが3.5'FD(2HD)メディアといえば、現代においてもギリ家電屋で見かけることができますね。

 

 

 

FZ-10M

 FZ-1の基本性能はそのままに、3Uのラックサイズに収めたキーボード無しモデル。発売当時の定価は320,000円でした。
 

CASIO FZ-10M(advertisement)
FZ-10M/カシオ計算機(株) 雑誌広告より画像引用
 
 
 
 
FZ-1の定価が298,000円だったので、それよりも約2万円のアップとなっています。ラック版なのにキーボード版より高価になっているというのも珍しいですね。。高くなっている理由は以下。
 
 
 

FZ-1との違い

 ずばり、2Mバイトのメモリーが標準搭載されています(※FZ-1では、前述のようにボードを装着して1→2Mバイトに増設)。増設の手間も省けるし、まあ悪くない仕様だと思われます。なおその他のスペック的にはFZ-1とほぼ全く同じです。もちろんFZ-1用の市販のサウンドライブラリーも読み込み可能。
 
 
 それにしても1Mバイトなんて、今どきの感覚だと画像1枚程度のゴミみたいな容量(失礼!)なのですが、80年代当時はメモリーは非常に高価だったということなのですね。。
 
 
 ちなみにFZ-10MのパネルレイアウトはFZ-1とほぼ同じであり、キーボード版に慣れているユーザーにとっても使いやすい感じなのではという印象です。“売り”である大型LCDもしっかり踏襲されており、ラックものとしては操作性は良好だと思いますよ。入力端子(ライン/マイク)もパネル全面に配置されており新設設計です。あと、FDDや8パラアウトもFZ-1からしっかり踏襲していますね。
 
 
 

個人的つぶやき

 80年代後半といえば、普及型サンプラーが各社から一斉にリリースされて、まさにサンプラー百花繚乱の時代だったといえるでしょう。FZ-1(およびFZ-10M)は完全16ビットの高音質と高い基本性能を謳い、当時の強者「AKAI S900」への刺客として放たれた一台と言えるかもしれません。スペック的には当時の普及型サンプラーの最高峰だったと言って過言ではないでしょう。
 
 
 ただしAKAIも黙っていたわけではなく、翌1988年にはこちらも16ビット機(さらに最高44.1kHz)の「S1000」を投入し、『やっぱりサンプラーはAKAIでしょ』みたいな感じで市場を再びかっさらっていったという感じでした。そのためFZ-1(というかFZシリーズ全般)は今日でもあまり人々の記憶に残っていない、歴史に埋もれたサンプラーといってもいいかもですね。。
 
 
 
 関連記事(80年代後期における各社主力サンプラー):
 「AKAI S900 ~世界中に広まったアカイ・サンプラーの定番機[1986年]
 「Roland S-50 ~「サンプリング未来型」と銘打たれた86年製ローランド…
 「ENSONIQ Mirage DMS-8 ~ラックになったミラージュ[1985年頃]
 「KORG DSS-1 ~サンプリングした音をシンセのパラメーターで加工可能[1986年]
 「E-mu Emulator III(EIII) ~イミュレーター・シリーズの3代目[1988年頃]
 「AKAI S1000(/S1000HD/S1000PB) ~ステレオサンプリングに対応した…
 

仕様(FZ-1)
■鍵盤:61鍵(ベロシティおよびアフタータッチ対応)
■同時発音数:8音
■バンク数:8(1バンクにつき64エリア)
■データフォーマット:16ビット(リニア)
■サンプリング周波数:36kHz/18kHz/9kHz(サンプリングタイム:各々14.56sec/29.12sec/58.25sec)
■メモリー容量:1MB(最大2MBまで拡張可)
■メモリー音色数:最大64
■内蔵ディスクドライブ:3.5インチ(2HD,2DD)
■ディスプレイ:64×96ドット・グラフィカルLCD(バックライト付き)
■付属品:フロッピー・サウンド・ディスク2枚(7音色)
■外形寸法:1036(W)×120(H)×325(D)mm
■重量:17.5kg
■発売開始年:1987年
■発売当時の価格:298,000円

 

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