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1960~80年代 KORG 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.283】KORG DSS-1 ~サンプリングした音をシンセのパラメーターで加工可能[1986年]

2018/11/26

 

 

 今回ご紹介するキーボードは、1986年にコルグから発売された「DSS-1」というサンプリング・シンセサイザーです。発売時の定価は298,000円。

 

KORG DSS-1

 

 これは何かと言うと、サンプリングした音をシンセのパラメーターで加工できるという言わばサンプラーの一種だったのですが、それまでの単体サンプリング・キーボード(およびシンセサイザー)には見られなかった新たな音色創造を実現するという触れ込みで、大々的に市場に投入されました。
 
 
 

基本構成

 本機の構成はそれまでのシンセ/サンプラーとは違っていて、音源部はデジタル方式の波形発生部とアナログ方式の波形加工部に大別することができます。波形発生部はいわゆる “音源波形づくり”のセクションであり、それらをエディット→サウンド・アサインを経由して、“サウンド・シンセサイズ”のセクションであるOSCへまず向かいます。
 
 
 OSC(1および2)ではD/Aコンバーターによってアナログ信号に変換され、その後のフィルターやアンプもアナログで処理されます(→VCF、VCA)。なおVCFおよびVCAは個別にエンベロープ・ジェネレーターを掛けることもできますし、この辺りの一連の流れは従来のアナログシンセに近いと言えますね。
 
 
 なお本機にはエフェクトも内蔵しており、(VCAを通った後に)イコライザーおよび2系統のデジタル・ディレイを掛けて出音の最終調整を行うことができます。
 
 
 

3種類の音源素材

音源波形づくりのための手法には以下3種類の作り方がありました。
 
 
サンプリング… 外部から音声を取り込むいわゆる “普通のサンプリング方式”。一般のサンプラーと同様に、音声信号をPCMによって符号化する方式です。
 
 
倍音合成… あらかじめ用意されている128の(正弦波の)倍音レベルを一つずつ決めて1波形を作る方式。基音(1次倍音)、2次倍音、…、128次倍音といった感じで各倍音を任意のレベル(本機では256段階)に設定していきます。根気さえあれば聴いたこともない音色を創り出すことができたと思います。
 
 
ハンド・ドローイング… 本体のDATA ENTRYスライダーをリアルタイムに動かし、手書きで波形を作る方式。これはとにかく無茶苦茶に動かすだけで簡単かつ面白い音素材が作れますね(まあそれが実用的な音かはさておき 笑)。自前でノコギリ波や矩形波といった波形もドロー可能であり、操作に慣れればある程度イメージ通りの音色に近付けることができたと思います。
 
 
 これら自分で生み出した音源素材は、以下5つの方法でエディットすることもできました。

①トランケート …素材を任意のポイントから任意の長さで取り出す
②リバース …逆再生する
③リンク …2つの素材をつなぎ合わせる
④ミックス …素材を混ぜる
⑤ビュー/エディットサンプルデータ …音源のデジタル・データを直接操作する

 
 さらに波形をゼロレベルでカットできる「オートゼロクロスサーチ」(→波形の途中で切るのではなく、開始時の立ち上がり [=0レベル] を自動でサーチ)という機能が付いています。上記のトランケートをする際、1サイクルの波形を頭から簡単に切り出してくれるという便利機能ですね。この他にも、ループのつなぎ目の不自然さを解消する「クロスフェード」機能なんかもあります。
 
 
 こうして完成した波形は最大16種類本体にメモリーすることができ、その中から2つを選んで前述したOSC1およびOSC2に割り当てます。
 
 
 

鍵盤への割り当て

 最大16スプリットで鍵盤に割り当てることができます。ベロシティはもちろんアフタータッチ(チャンネルアフタータッチ)にも対応しているので、ライブでの演奏性も悪くなかったと思います。

 

 

 

音色エディットソフト「IMAGINE(イマジン)」について

 コルグがDSS-1のために自社ブランドで発売した、DSS-1用音色エディット・ソフト。当時の国産PCの雄・NEC PC-98シリーズを使って、CRT画面上で様々な音作りに関するエディットをグラフィカルに行えるというものでした。価格は38,000円。
 
 
 前述したように、DSS-1は元々本体のみでサンプリング以外のシンセサイズ(倍音合成、ハンドドローイング)ができたのですが、本ソフトを使うことにより、当時で言えば超高級機フェアライトのような操作感を得られたという感じです。もちろん画面表示はカラーだしマウスでも操作OK。ちょっと概念が難しい上記のような倍音合成/ハンドドローイングだって、グラフィカルにエディットが可能です。
 
 
 なおDSS-1とNEC PC-98との接続には、別途MIDIインターフェイス・ボード(コルグで言えばMI-98 [18,000円])を取り付ける必要がありました。
 
 
 

ライブラリーも充実

 本機用のサウンド・ライブラリーも多数用意されていて、最終的に数十(一説によると100)ものタイトルがリリースされたそうです。メディアは低コストな3.5'フロッピーを採用しており定価も比較的抑えられていたので、気軽にクオリティの高いライブラリー(素材)が追加できるという感じでした。
 

KORG DSS-1(advertisement)
DSS-1/(株)コルグ 雑誌広告より画像引用
 
 
 

つぶやき的な

 それまでの一般的なサンプリング・キーボードといえばトランケート、リバース、ミックスなどはあったのですが、さらにシンセ・パラメーターによる音色作りができたという意味で非常に画期的な製品と言えるでしょう。また、DSS-1の “サンプリング・ベースのシンセサイザー”という考え方は、のちの同社のヒットシンセ「M1」開発時において音源のベースとなったとも聞きます。
 
 
 でもってM1が全世界でメガヒットしたからなのかは不明ですが、本機DSS-1(およびラック版DSM-1)の後、コルグはサンプラー市場からぷっつり姿を消してしまいます。久しぶりに再登場したのがTRINITY(のオプションボード・PBS-TRI。1996年発売)ということで、実に10年間も沈黙していたことになります。
 
 
 この辺りは、何だかんだで昔から大体足並みが揃っていた国内シンセサイザーメーカー御三家(ヤマハ、ローランド、コルグ)の開発ポリシーにおいて、コルグ(のサンプラー製品)だけが長年沈黙する形となりました。うーん何故だったのでしょう。。個人的にはちょっと気になります。
 
 
 
 関連記事:
 「KORG M1 ~【前編】世界中で記録的大ヒットしたワークステーションタイプ…
 「KORG M1 ~【後編】ワークステーションタイプ・シンセの出発点[1988年]
 

仕様
■鍵盤数:61鍵(ベロシティ、アフタータッチ付き)
■最大同時発音数:8音
■音源:サンプリング、128倍音の倍音合成、ハンドドローイング波形
■音源ビット数:12ビット
■サンプリングレイト:48kHz~16kHz
■サンプリングタイム:5.5~16秒
■スプリット・ポイント数:最大16ポイント
■エフェクト:デジタルディレイ×2、EQ(Hi/Low)
■プログラム数:本体内32、ディスク内128
■外形寸法:1171(W)×123(H)×436(D)mm
■重量:18.5kg
■発売当時の価格:298,000円
■発売開始年:1986年

 

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