【Vol.400】MOTION SOUND Pro-3(/Pro-3T) ~片手で運べる “リアル・ドップラー”スピーカー[1995年頃]
2018/11/28
機材紹介400回目の今回は、MOTION SOUNDというメーカーの「Pro-3」および「Pro-3T」というロータリー・スピーカーを挙げてみたいと思いますよ。
Pro-3の国内発売は1995年末頃。日本では当時モリダイラ楽器さんが扱っており、発売当初の定価は120,000円(のち98,000円)でした。本機は、オルガン演奏などに欠かせないリアルな「ロータリー効果」をサウンドに加えることができるスピーカーですね。
なおハモンドオルガンと相性の良いLESLIE印の “本格的な”ロータリー・スピーカーといえば、大きさは洗濯機並み、重さは80kgとか、巨大かつ非常に重いものでした(ついでに高価)。『こんなもん気軽に運べるかい!』とちゃぶ台返ししたい人も多かったと思います。
かといって、当時の一般的なデジタルエフェクターに含まれていたロータリー・シミュレーターでは空気感・回転感が十分に得られないというジレンマがあったんですよね。。しょせん “疑似回転”ですから。
そこで本機は「物理的にホーンが回っている」という仕様を持ちながら、手で持って運べる軽量さ(約12kg)を実現した、ライブキーボーディスト(オルガニスト)に革命的なポータビリティを提供してくれたスピーカーだったのです。
まずはPro-3
本体内にホーン・スピーカーが収められておりモーターによって実際に回転。シミュレーションではないリアルなドップラーサウンドを得ることができます。ホーン・スピーカーの出力は30Wで、700Hz~20kHzの音域をカバー。
一般的なロータリー・スピーカーといえば、高音部(ホーン)と低音部(ローター)に分かれており、それぞれが独特の音色を出しているわけですが、本機では高音部に着目して実際のホーン部品を組み込んでいます。まあ実際のハモンド+ロータリー・スピーカーの演奏においても、回転スピード変化による効果的なフレーズの抑揚なんかは、この高音部による部分が多いのではないかと感じます(個人的見解)
そして本機の低音部は、内部回路で電子的にシミュレーションしたものです。なので実際PAに送る際などでは、本体のスピーカーグリルにマイクを立て高音部を拾い、低音部はラインで送ってミックスしてもらうといった感じでしょうか(低音部はステレオ出力にも対応)。なんだったら低音部はギターアンプに突っ込むという手もありそうです。
MOTION SOUND Pro-3/(株)池部楽器店 雑誌広告より画像引用
コントロール部について
本体のコントローラーは、パネル上に「VOLUME」「LIMITER」の2つのツマミがあるのみ。このリミッターつまみはアンプ・ディストーションの調整用に使われるもので、アンプをクリップさせていくといい感じのディストーションになってくれます。この辺りのナチュラルなドライブ感は実際のアンプ駆動ならではといったところですね。
あと付属の専用フット・スイッチにて、回転のSLOW/FASTあるいはSTOPがコントロール可能となっています。
ここまでのまとめ
回転感はもとより、入力ボリュームを上げていって得られる自然な歪み感は、まず既存のデジタル・エフェクターでは再現できない独自のサウンドといったところです。まあナチュラルな歪みといっても本機の場合だと真空管は内蔵していないわけでやや限界があるのですが、この辺りは上位モデルの「Pro-3T」でフォローされていますね(Pro-3Tについては本記事後半にて記述しています)
仕様(Pro-3)
■コントローラー:VOLUME、LIMITER
■入力端子:INPUT(MONO)
■出力端子:LEFT、RIGHT/MONO
■ホーン・アンプ出力:30W
■出力インピーダンス:100Ω
■外形寸法:510(W)×165(H)×420(D)mm
■重量:12.25kg
■発売当初の価格:120,000円(のち98,000円)
■発売開始年:1995年末頃
Pro-3T
Pro-3のプリアンプ部を真空管仕様にして、よりリアルでナチュラルな歪みサウンドを得られるようにした上位モデル。パネルにはその真空管が鎮座している姿を確認できますね。Pro-3のあとに発売され価格は170,000円でした。
この真空管プリアンプの搭載により、ゲイン・コントロールも「プリ・ゲイン」+「ポスト(マスター)ゲイン」となり、直感的に使いやすくなったと言えるでしょう(→プリ・ゲインを挙げることにより真空管がドライブして歪む)。アンプ出力も30W→40Wに増加しています。
さらにPro-3では見られなかった以下の機能も追加されています。
CONTOUR
LESLIEシミュレーターの代表機種とも言える「model 147」は、使用経年によって高音(ハイ)がなくなっていくという特性があり、本機能ではその仕様をシミュレートできるようになっています。
パネルには「CONTOURつまみ」が装備されており、「147」(つまみのMIN位置)から「PRO-3」(つまみのMAX位置)まで無段階で可変できます。「147」寄りにすると年季の入った若干こもったサウンド、「PRO-3」寄りにすると新しめのハイファイなサウンドになるといったところ。レスリースピーカーとしては珍しい “(ハイカット)フィルター”として活用できると思います。
SEPARATION(セパレーション)/AM(アンプリチュード・モジュレーション)
電子シミュレーターで出力されるLowerローターの効果調整コントローラー。モノラル使用時はトレモロの深さ、ステレオ使用時ではLRの広がり具合をコントロールすることができます。
Pro-3Tのサイズ・重量はPro-3とほぼ全く同じであり、Pro-3の可搬性を踏襲しつつ中身を充実させた高級モデルといった感じですね。なお低域はPro-3と同様、電子回路による出力となっています。
仕様(Pro-3T)
■コントローラー:PRE-GAIN、POST-GAIN、CONTOUR、SEPARATION/AM
■入力端子:INPUT、SPEED CONTROL
■出力端子:LEFT、RIGHT/MONO
■ホーン・アンプ出力:40W
■出力インピーダンス:100Ω
■外形寸法:510(W)×165(H)×420(D)mm
■重量:12.2kg
■発売当初の価格:170,000円
Low Proについて
上記Pro-3T専用のLowerローター・アンプ&スピーカー。Pro-3Tと接続することにより、Upper/Lowerともに正真正銘のロータリー・スピーカー・システムを組むことができるというものでした。受注生産で価格は150,000円。
前述したように、Pro-3T(もちろんPro-3も)のLowerローター音は電子でシミュレートすることで本体のコンパクトさを実現しているのですが、そのサウンドに飽き足らず『Lowerローターもちゃんと回って欲しいんだ!』という人にとっては、後から追加できる強力なオプションといったところでしょうか。
自宅のプライベートスタジオでは「Pro-3T+Low Pro」のフルシステム、リハやライブ時にはPro-3Tだけを持ち出すなんて使い方が便利だったと思われます。なおこの2台のリンクはケーブル1本(DIN 5pin)だったので接続も容易でした。
個人的かんそう
昨今のデジタル・ロータリー・シミュレーターにも優秀なものはいくつかありますが、“ホーンが実際にぶん回る”という物理ギミックによる空気感・回転感は、やはり何ものにも替えがたいものがあります。実際、20年以上前の製品にもかかわらず現代でも本機を探している人はいますし、長年の愛用者も多いと思われます。
なお現在入手可能な中古のPro-3/Pro-3Tは、ローターのベルトが経年劣化して傷んでいる(切れている or 切れやすくなっている)ものがほとんどです。購入の際はご注意ください。あるいは既にベルト交換済の個体も出ていることが多いですね。
個人的には、今の時代っぽくもうちょっと軽量・コンパクトに収めた、本機のようなリアル・ドップラー・スピーカーが新たに開発されてもいいのにとも感じますね。
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