【Vol.393】ALESIS QS6 ~ヒットシンセ・QSシリーズの初号機[1995年]
2018/11/28
今回取り上げるシンセサイザーは、アレシスの「QS6」というモデルです。日本発売は1995年末頃、当初の定価は150,000円(のちに120,000円に改定)でした。日本で取り扱っていたのはモリダイラ楽器。
本機は以前本ブログでも紹介した「ALESIS QuadraSynth ~アレシス初号機・クアドラシンセ[1993年]」の後継機とも言えるシンセですね。同時発音数64音、PCMCIAエキスパンション・スロット装備などはQuadraSynthに同じくですが、GMに対応したりPCとの連携を高めていたりと様々な点で強化されています。では早速詳細を記述してみましょう。
概要
8MBのROMを内蔵した64音ポリフォニック・デジタル・シンセサイザー。90年代に同社からいくつかリリースされたシンセ・シリーズ “QS”の初号機でもあります。
マスター・キーボードとしての機能も内包した61鍵セミ・ウェイテッド鍵盤を持ち、QuadraSynth互換のPCMCIA(カード)エクスパンション・スロットを備えた拡張性もセールスポイント。また付属CD-ROMにはシーケンサーソフト、エディター/ライブラリアンも収録されていて、コンピューターと併用することによりクラスを超えた音楽制作環境を構築することができました。
音方面について
ALESIS独自の「QSコンポジット・シンセシス」という音源方式を採用。これはいわゆるPCM(サンプリング)方式であり、方式自体は前モデルのQuadraSynthに同じです。
QS6本体には5つの音色バンク(プリセット×4、ユーザー×1)があり、各バンクに128プログラム+100ミックス(Max16種類のプログラムを組み合わせたもの)が内蔵されています。つまり合計で640プログラム+500ミックスといったところ。なお、そのうち1バンクはGM対応です。
音色の印象としてはやはり “ピアノ系がいい音する”といったところでしょうか。音が太く中域がしっかり鳴ってくれる、存在感のあるキャラクターというイメージでした。QuadraSynthにも共通していますが、ロックとの相性がいい(と思われる)実にアメリカっぽいサウンドです。
コントローラー部など
鍵盤部はセミウェイテッドとなっていて、当時の国内の廉価キーボードよりも良い作りとなっていたと回想します。この鍵盤はアフタータッチにも対応していますね。パネル上はボタン類が中心で、コントロール・スライダーが1本搭載されています。
ピッチベンド/モジュレーション・ホイールはパネルトップ左上に備えられており、その分横幅サイズは抑えられています。両ホイールの間にはちょっとしたすき間が設けられており、QuadraSynthよりも使いやすいと思います。とはいえ本機のピッチベンドは不具合が結構あるという噂を当時耳にした記憶があります。。
PCMCIA(カード)による拡張性
QS6本体には2基のPCMCIAエキスパンション・スロットを装備。ここに同社のQuadraCard(QuadraSynthのサウンドカード)を差し込むことにより音色バンクを拡張することも可能です。
当時QuadraCardには、クラシック、エスニック、ダンスミュージック系などのラインナップが揃っており、ジャンル特化のサウンドメイクをしたいケースなどで重宝されました。カードは当時のフロッピーディスクなどとは違い “そのまんまROM”なので、即座にサウンドを読み込める(→音色バンクを拡張できる)というのもメリットでした。価格は若干お高めでしたが。。
PCとの連携
本機はシーケンサーを内蔵しておらず、当時トレンドだったいわゆる “ワークステーション・タイプ”路線からは外れたシンセになっています。じゃあプレイバック演奏のみの使用に限られるかというとそうではなく、実はコンピューターとの連携も見据えて設計されています。
例えばMIDIインターフェイスなしでPCとダイレクトに接続できるシリアル端子(RS-232C/RC-422切替可能)を備えていたり、付属のCD-ROM(Macintosh/Windows)にはPC用ソフトが収められていました。以下はその中の代表的なソフト。
STEINBERG社 「CubaseLite」
本格シーケンスソフトとして現代でも有名なCubaseの、当時の標準バージョンの機能縮小版。いくつかのエディット・ウィンドウは省略されていますが、トラックは16とそこそこ使える仕様となっています。
MARK OF THE UNICORN社 「Unisyn for Alesis」
Mac向けエディター/ライブラリアン・ソフトとしてこれまた有名だったUnisyn(ユニシン)のQS6専用バージョン。QS6から転送された各種音色データをPC上でエディットしたり、分かりやすく保存/管理ができるというものです。
複雑なパラメーター操作が、PCのGUI環境で広々と行えるというのが大きなメリットでした。もちろんエディットした音色データはQS6本体に返すこともできます。
その他、MIDI方面のいくつかのユーティリティソフトもありました。
ALESIS QS6/(株)モリダイラ楽器 雑誌広告より画像引用
補足・QS6.1について
後年(1998年)リリースされたQS6の後継機。こちらは、QS6を内容的にもバージョンアップさせたQS7(76鍵モデル)、QS8(88鍵モデル)の61鍵バージョンといったところです。
バージョン的にはQS6から「0.1」アップしたに過ぎませんが、16MB ROMを標準実装していたり、LCD窓が大きくなってたり、コントロール・スライダーが1本→4本に増えていたりと、QS6から大幅に強化されていると言えるでしょう。ちなみに内部仕様はQS7/QS8(あるいはラック版のQSR)とほぼ共通しているので、いずれ執筆する(予定の)QS7/QS8の記事で詳しく触れたいと思います。
つぶやき的な
ALESISのシンセサイザー・QSシリーズといえば、世界的には90年代を代表するヒットモデルだったのですが、日本ではなじみが薄くそんなに注目されなかった印象ですね(ALESIS全般に言えるかもしれませんが)。このクラスとしては結構優れた性能だったと言え、デザインもQuadraSyntheよりマシ?になったと思うのですが、日本で愛用しているミュージシャンは多くなかったと回想します。
ちなみにシーケンサーがなぜ搭載されていないのか?なのは、『(当時)シリアスなキーボーディストのほとんどが内蔵シーケンサーを使っていない』という開発チームの見解だったそうで、その分PCとの連携を高めた仕様にしたそうですよ。
現代では当時のPCソフトをあえて使う必要性はありませんが、本機を “結構いい音の出るスタンドアロン・シンセ”と捉えたら、ヤフオクで激安で手に入れて壊れるまで弾き倒すというのもアリかもですね。
関連記事:「ALESIS QuadraSynth ~アレシス初号機・クアドラシンセ[1993年]」
仕様
■シンセシス方式:QSコンポジット・シンセシス
■サウンド生成法:16ビット・リニア&48kHzサンプルROM/スウィーパブル・ローパス・フィルター
■最大同時発音数:64音
■鍵盤数:61鍵
■内蔵波形ROM:8Mバイト
■外形寸法:910(W)×89(H)×292(D)mm
■重量:8.6kg
■発売当時の価格:150,000円(のち120,000円に改定)
■発売開始年:1995年