2000年代~'' YAMAHA 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.319】YAMAHA S30 ~「S80」の61鍵版と捉えて概ねよいと思います[2000年]
2018/11/28
今回ご紹介するキーボードは、ヤマハが2000年に発売したシンセサイザー・「S30」です。本体価格は128,000円(税別)。前年に発売されたS30(88鍵盤ピアノタッチ)の音源部を踏襲した、61鍵ライト・タッチ鍵盤バージョンといったところです。音源システムに関してはS80譲りのハイクオリティ/高拡張性を謳い、比較的手に入れやすいプロフェッショナル仕様のシンセサイザーとして注目を集めました。
なお同社のSシリーズというのは原則的にシーケンサーを内蔵しておらず(※プレイバック専用のものを装備している機種も中にはある)、楽曲制作に関してはPCベースをほぼ前提として設計されています。
S30概要
プロの現場でよく使われたS80と全く同等の音源を搭載していることに加え、オプションのプラグイン・ボードを装着することにより高品位で幅広いサウンドをスタンバイ。
またTO HOST端子を装備しており、コンピューターと接続して付属のシーケンス・ソフトやボイスエディター・ソフトを使用すれば、音作りから楽曲制作までPCベースで行うことも可能。本機のみでの最大同時発音数は64、マルチティンバー数は16となっています。
音源、音色(個人的感想含む)
256音色をプリセットで内蔵。音源方式は当時のヤマハさんのPCM路線である「AWM2」を採用しています。前述したように音源部はS80と同じであり、定番のピアノ、ストリングス、ブラスなどの生楽器系音色から、シンセならではのサウンドまで一通り揃えているといったところ。またパネル上には「A.PIANO」「E.PIANO」「GTR/BASS」などと書かれたボタンがいくつか配されており、素早く音色バンクを変更できるのが便利です。
音色のキャラクターとしてはピアノを中心に全体的に明るめ。ローランドシンセに見られるようなエフェクトによる派手なプリセットは少ないですが、本機でもS80の “USAテイスト”をしっかり踏襲しているという印象です。もちろんクラシック向けのややこもったピアノ音色も装備していますが、やはりバンドサウンドに混ぜた際に生きてくる音色が多いといった感じですね。
プラグイン・ボードについて
様々な音源方式を追加できるオプションのボード類のことで、本機S30だと1枚装着可能となっています。これはヤマハさんでは【Modular Synthesis Plug-in System】と呼んでおり、同社のCS6xなどでも装着することができます。
プラグイン・ボードにはいくつかあったのですが、ピアノ音源「PLG150-PF」を装着することにより、音色波形を追加するだけではなく同時発音数も128に拡張することができました。「PLG150-PF」についてはS80の記事にて触れていますので必要に応じご参照ください。
関連記事:「YAMAHA S80 ~ピアノプレイヤーのためのシンセサイザー[1999年]」
コンピューターとの連携
16パート・マルチティンバーで同時発音数は64音。本体リアパネルに装備されたTO HOST端子により、MIDIインターフェイスを介さず直接PC(のシリアルポート)に接続することが可能。同梱のCD-ROMには『XGworks lite V3.0』や『VOICE EDITOR』など、PCベースでのトータルな音楽制作を可能にするソフトウェアが収められています。
前述したように「PLG150-PF」装着により同時発音数が128音に増えるので、そのためだけにピアノ音源ボードを挿すというのもありだったと思います。
ライブ使いについて
ピッチホイール、モジュレーションホイールの他にも、4本のコントロール・スライダー(→コントロールチェンジ情報をコントロール)、5つのアサイナブル・ノブなどによりリアルタイムでの各種オペレーションが可能。
パネルにはシーケンサー・プレイ(およびストップ)のボタンもあり、メモリーカード上のソングファイルを再生/停止することができました。この辺りもS80の操作性を概ね継承していると言えるでしょう。
本機の鍵盤はいわゆるシンセ鍵盤ですが、アフタータッチにも対応しておりライブのマスターキーボードとしての使用もOK。そして本体重量8kgは当時としては比較的軽量だったということで、ライブ時でも現実的に運びやすかったと思います。
S80との相違点(※鍵盤部除く)
①内蔵可能なプラグイン・ボードが2枚→1枚に
②外部入力信号を加工するA/Dインプット端子が省略
③インディビデュアル・アウトプット端子の省略
(→オーディオ出力はR/L[MONO]のみ)
④mLAN拡張スロットの省略
あと電源はACアダプタに変更されていますね。カードスロット(スマートメディア)はS80に引き続き装備されています。上記を見て分かるように拡張性に関してはS80と比べて若干簡略化されたという印象ですが、可搬性アップという大きなメリットがあるので、用途を絞れば本機でも十分といったところでしょう。
S30/ヤマハ(株) 雑誌広告より画像引用
個人的つぶやき
さらに本機ではアルペジエーターも搭載してるんですよね。内蔵のプリセット音色も、ピアノなどのいわゆる定番モノから、アルペジエイターを生かしたクラブ・ミュージックっぽいダンスサウンドなんかも収めてられています。
ちなみに同時期にダンスサウンドおよびリアルタイム操作が売りのシンセ「CS6x」というのが同じくヤマハから出ていて、CS6xも上記のプラグイン・ボードをそのまま装着できるという共通点も見られました(→鍵盤数も同じく61鍵)
S30はこのようにCS6xとカブる部分が若干見られ、同じメーカーながら(おそらく)シェアを食い合う形となり、結果としてS30の方が製品ラインナップから比較的早々とフェードアウトしてしまいました。。本機は内容を広げ過ぎて、商品としてキャラクターが弱くなってしまった一例と言っていいのでしょうか。単体で見れば決して悪くない機種だったと思うのですが。。
関連記事(ヤマハシンセ Sシリーズ):
「YAMAHA S80 ~ピアノプレイヤーのためのシンセサイザー[1999年]」
「YAMAHA S03 ~S80のサウンドを継承した “ハイコスパシンセ” [2001年]」
仕様
■鍵盤数:61鍵(イニシャル/アフター・タッチ付き)
■音源方式:AWM2(Modular Synthesis Plug-in System対応)
■最大同時発音数:64 ※PLG150-PF装着時では128
■最大マルチティンバー数:17パート(内蔵音源16パート+プラグイン・ボード)
■音色数:【ノーマルボイス】プリセット256、インターナル128、エクスターナル128
【ドラムボイス】プリセット8、インターナル2、エクスターナル2
■エフェクト:リバーブ(12タイプ)、コーラス(23タイプ)、インサーション(116タイプ)、マスターEQ
■アルペジエイター:128タイプ
■ディスプレイ:40字×2行LCD(バックライト付き)
■外形寸法:1001.3(W)×99(H)×344.5(D)mm
■重量:8kg
■発売当時の価格:128,000円(税抜)
■発売開始年:2000年