【Vol.245】KAWAI PHm ~珍しい80年代製ハーフラック音源モジュール[1989年]
2018/11/26
今回は河合楽器の「PHm」というシンセ・モジュールを紹介してみたいと思います。発売は1989年で、発売時の定価は38,000円でした。これは何かというと、様々な音色が入ったハーフラック・サイズの音源モジュールなのです。なお、本機はいわゆるDTM用途を想定されたハード音源ではありません(GM制定の約2年前の製品です)。
まあKAWAIがハーフラック・モジュールを出していたというのも今考えると珍しいことなのですが、80年代にはハーフラック形状の音源モジュール自体がほぼ発売されていなかったので、“珍品”ということで今回取り上げさせて頂くことになりました(笑)
PHm概要
いわゆるポップ・キーボードのカテゴリーである同社の「PH50」のモジュール版。PH50というのはそもそも、同社の本格シンセサイザー「K1」と同一の音源を搭載しており、そのラック版であるPHmの音源部もK1直系と言うことができます。
リアルなアコースティックピアノ、ベース、太くて温かいブラス/ストリングスなどの生楽器、はたまた変わったキャラクターのSE音まで内包。MIDI搭載であり、その軽量コンパクト(1.2kg)なボディからも、持ち運びに便利な音源モジュールとして開発されました。
内蔵音色
200トーン(音色)、50コンビネーション(→トーンを組み合わせたもの)の合計250音色を搭載。音源方式は概ねPCMであり、ピアノ、エレピ、ベース、管楽器、弦楽器、シンセ音、オケヒット、SEなど様々な音色を揃えています。
なお本機は、本体内に音色エディットのパラメーターはほぼなく基本的にプレイバックのみです。とはいえ音程の微調整(→チューン機能)や移調機能(→トランスポーズ)もあるため、使い勝手は案外悪くないと思います。
内蔵リズムパターン
PHmには30種類のリズムパターンがあらかじめ内蔵されており、テンポおよびレベル(音量)を変更することもできます。またパネルには「INTRO/FILL IN」というスイッチもあり、これを押すことによって自動的にイントロおよびフィルインを付けてくれます。この辺りの機能は、音源モジュールでありながらポップ・キーボード譲りといった感じですね。
コンビネーションについて
本機におけるコンビネーションとは、最大4つのトーン(音色)を組み合わせて音を鳴らすことができる演奏モードのこと。
これにより、「スプリット」(→鍵盤域を分割して、音域ごとに異なる音色で演奏)や、「デュアル」「レイヤー」(→1つの鍵盤に複数の音色を重ね合わせて演奏)、さらに「ミックス」(→スプリット+レイヤー)といった演奏も可能となっています。
またこのコンビネーション機能とは別に、PCM16音色を持つドラムセクションも搭載。シーケンサー用音源として、トーン4パート+ドラムセクションの計5パートの使用が可能です。
PHm/(株)河合楽器製作所 雑誌広告より画像引用
MIDIについて
MIDIはベロシティ、プレッシャー、ピッチベンド、モジュレーション、ボリューム、プログラムチェンジなどの情報を受け取ることができます。これらMIDI情報受信のON/OFFは、パネル上のSYSTEMスイッチから入って選択が可能です。
また、例えば同社(KAWAI)のシーケンサーQ-80と組み合わせると、PHm1台で同時に5パート(4パート+リズム)の自動演奏ができますね。
関連記事:「KAWAI Q-80 ~カワイのシーケンサー専用機[1988年]」
つぶやき的な
こうやって一通り仕様を見ると、いわゆるポップ・キーボードのラック版でありながら、MIDI周りを始めとして結構充実した内容と言っていいんじゃないかと思います。珍品なんて言っちゃってゴメンネー。
80年代のシンセといえばどれも現在のものほど軽量ではなかったため、現場に置いてあるMIDI対応キーボードとつなげるだけで演奏ができるという超可搬性を実現した、重い機材を運ぶのが嫌いな人にとっては夢のような一台だったと言えるかもしれません。しかも価格は38,000円と超お手頃ですよ! たとえライブで使用する前提じゃないにしても、この値段で200トーンも入ってたらそこそこ遊べたと思います。
エディットができないとか出音がチープとかはさておき、個人的にはこういう “持ち運べる音源”というのは心が軽くて好きですよ(笑)
仕様
■音源方式:PCM+シンセウェーヴ
■最大同時発音数:16音
■プリセット音色数:200トーン、50コンビネーション
■内蔵リズム:30パターン
■外形寸法:219(W)×44(H)×186.5(D)mm
■重量:1.2kg
■価格:55,000円
■発売開始年:1989年