【Vol.85】Roland JV-1000 ~二つの心臓を持ったモンスター・シンセ[1993年]
2019/01/19
今回は1993年発売のローランドのシンセサイザー・「JV-1000」のお話です。「JV」と冠された同社のシリーズは数多くありますが、このJV-1000はそれらのラスボスといった趣きのシンセですね(※1)。これでもか!とばかりに機能を搭載していました。
JV-1000をひとことで言い表すとするならば、「JV-80の音源部をベースとした、76鍵キーボード採用の、シーケンサー内蔵のミュージック・ワークステーション」といったところでしょうか。ひとことにしては長いですね。。
関連記事(ローランドJVシリーズ):
「Roland JV-35 ~コスパの高かったローランド・JVシンセの一つ[1994年]」
「Roland JV-80 ~エキパン「SR-JV80シリーズ」搭載可能の初シンセ[1992年]」
「Roland JV-90 ~JV-1000からシーケンサー部を除いた76鍵シンセ[1993年]」
「Roland JV-1080 ~90年代の人気音源モジュール(前編)[1994年]」
「Roland JV-1010 ~GM音源も内蔵したハーフラック・音源モジュール[1999年]」
フロントパネル外観
シンセサイザー・セクションとシーケンサー・セクションが完全に分離されています。 スイッチやLED、果てはLCDまで独立しています。これは、それぞれが独立したマルチタスク感覚のオペレーションが可能であり、音作り(シンセサイズ)と曲データ作成を同時進行で行えるというものでした。
初心者が初めて本機を見たら、その操作子(スイッチ、スライダー等)の数にまず圧倒されたことでしょう。。
やたらとある拡張スロット(笑)
その拡張性の高さも本機ならではのところです。以下のオプションが後付け可能でした。
エクスパンション・ボード「SR-JV80シリーズ」用スロット×1
JV80を始めとしたJVシリーズ(※一部例外あり)やXPシリーズなどと互換性のある音色拡張ボード「SR-JV80シリーズ」を1枚搭載できました。
関連記事:「Roland SR-JV80-01~06 ~90年代ローランドのエキパン!(その1・初期製品モデル)」
ボイス・エクスパンション・ボード「VE-GS1」用スロット×1
こちらはGSフォーマット対応226音色を追加することにより、(当時ローランドのDTM音源の標準的な規格だった)GS音源を独立して内蔵できるというものです。
それと同時に同時発音数も28→56音に倍増します。JV-1000をDTM中心で考えていた人にとっては、本オプション・ボードはほぼ必須といった感じでした。
サウンド・ライブラリー「SO-PCMシリーズ」用スロット×1
サウンド・ライブラリー「PN-JV80シリーズ」用スロット×1
こちらはカード・タイプであり、本体リア・パネルにそれぞれの空きスロットが用意されています。いずれもJV系サウンド・ライブラリーですね。
これらのオプションボード類を全て装備すると、Max993パッチという、当時としてはとんでもない数の音色を備えることができました。
またSMF(スタンダード・MIDIファイル)対応の3.5インチFDDも搭載されていて、そこからフロッピーディスクでのMIDIソフトも供給されていましたね。
シーケンサー部について
当時の同社のシーケンサー単体機・「MC-50MKII」を完全移植したものを内蔵していました。トラックのスイッチが8つになり、シフトキーを押さずとも直接選べるようになっている点は、「MC-50MKII」よりも使いやすく改良してありますね。
内蔵の音源部との連携もできており、一台でトラック作りを完結したい人にとっては便利だったと思います。
とはいえ当時はMacでの(グラフィカルな)音楽制作も主流になり始めていた頃なので、19×2行のLCDでの打ち込み操作は、Macに慣れていた人にとってはちょっと面倒だったかもしれません。Macに比べトラック数もあまり多くありませんでした。
音源部について
本体は320音色(プリセット256+ユーザー64)ですが、RAMカード64、PCMカード最大128、さらにエクスパンション・ボード最大255、GS音源部226を加えると、合計最大993パッチもの音色を搭載できました。
パッチのバンクもJV-80のA/Bバンクから、A~Dの4バンクに拡張されています。
JV-1000/ローランド(株) 雑誌広告より画像引用
まとめ的な
このように複数の装備を備えた機種(例:MC-50MKII相当のシーケンサー+鍵盤=「JW-50」、JV-80系の音源+鍵盤=「JV-30」)などはそれまでも同社にてリリースされていました。
しかし当時のローランド製シンセサイザーの多くの機能を一台にまとめたという意味で、本機は「統合的なワークステーション」として記念碑的なモデルと言えるかもしれません。
鍵盤数76は演奏でも便利で、実際にライブに持って来たキーボーディストさんもいました。完全手弾きだったら同社のD-70という選択もあったのですが、本機ではシーケンサー部も生かし、シーケンス・フレーズも流しつつ手弾きをしていたプレイヤーが多かったように思います。
関連記事:
「Roland JW-50 ~統合的シンセサイザー・ワークステーション、一部斜めってます」
「Roland D-70 ~「DLM」機能を搭載した76鍵ライブ・キーボード[1990年]」
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※1 …ただし本機のあとにも、JV-2080、JV-1010など、JVシリーズは90年代末まで続いている。
仕様
■鍵盤数:76鍵(ベロシティ/アフタータッチ付き)
■最大同時発音数:28音(本体)
■プリセット・メモリー:パッチ256、パフォーマンス64、リズムセット4
■カード:パッチ64、パフォーマンス16、リズムセット1
■PCMカード:128パッチ(最大)
■エクスパンション・ボード:255パッチ(最大)
■シーケンサー・トラック:フレーズトラック8、リズムトラック1、テンポトラック1
■ソングデータ(本体記憶容量):ソング8、約40,000音、9,999小節
■データ入力方法:リアルタイム/ステップ
■内蔵エフェクト:リバーブ8種、コーラス3種
■外形寸法:1232(W)×97(H)×348(D)mm
■重量:13.5kg
■価格:249,000円(税抜)
■発売開始年:1993年