【Vol.383】E-mu EIIIxp ~EmulatorIIIをラック化したハイコスパ・モデル[1993年頃]
2018/11/28
今回取り上げてみる機材はE-mu Systemsの「EIIIxp」というサンプラーです。日本では当時カメオインタラクティブが取り扱っていて、国内発売は1993年頃、販売価格は700,000円でした(スタンダード・タイプの場合)
これはひと言でいうと、以前本ブログでも紹介した「E-mu Emulator III(EIII) ~イミュレーター・シリーズの3代目[1988年頃]」のラック版ですね。あの巨大な筐体の鍵盤付きサンプラーがすっきり3Uに収まったことで、ラックシステムにも気軽に組み込みやすくなった一台といったところ。
もちろんEmulatorIII(以下EIII)が有する膨大なサウンド・ライブラリーは全て問題なく読み込み可能。本記事では本機の派生モデルなども補足して話を進めてみたいと思います。
はじめに・そもそもあったEIIIラック版
実はEIIIxpの前にもEmulatorIIIのラック・モデルは存在していて、その名も「EIII RACK」。こちらは1988年の発売で定価は2,600,000円。
そちらの内容的には、今回のEIIIxpと同様にEmulatorIIIをラックサイズに凝縮したものなのですが、EIII RACKは4Uということで(→EIIIxpは3U)見た目的にも違いが見られます。
4MBのRAM、そして40MB(40GBじゃないよ!)のハードディスク・ドライブを内蔵し、SCSI端子およびRS-422端子を標準搭載。サンプリングレートは44.1/31kHz。また16ボイス独立アウトプット端子装備、16トラック・シーケンサー内蔵などなど、スペック的は実はEmulatorIIIとほぼ同じ仕様となっています。サンプリング後にサンプリングレートを変更できる「サンプルレート・コンバージョン機能」なんかも踏襲していますね。
でもってEIIIxp
サンプリングレートは44.1kHz固定。ビット数は16ビット(※インプットおよび内部処理)。メモリは標準で8MBとなっており、これはEmulatorIIIの4MBから倍増していますね(Maxで確か32MBまで拡張できたはず)。あとボイス数はモノラル32/ステレオ16音となっています。
EIII RACKの約5年後に発売された本機、まず見た目が3Uとちょっとだけダウンサイジングしています。そしてコストについては260万円→70万円と大幅なダウンを実現していますね。いくら5年の間にLSIチップの低価格化が進んだとはいえ、こんなにも安くなるものなのでしょうか? その辺りにもちょっと触れてみましょう。
EIIIとの違い
・フィルターがアナログ→デジタルに変更
・アナログインプットが排され、代わりにデジタルイン/アウト(AES/EBU)を装備
・ユーザーサンプリングをする際にはA/Dコンバーターが必要
あと、パネルに見える3.5インチFDDは主にシステムのロード(およびセーブ)用であり、ライブラリー読み込みとしては最初からCD-ROMやHDDの使用が想定される設計となっています。この頃になると大容量サンプルを扱えるCD-ROMドライブやHDDの価格も落ちてきており、フロッピーで供給されるライブラリーも少なくなってきた時代なので、当然の仕様と見ることもできそうです。
そんなわけで、EmulatorIIIを割と忠実にラック化したEIII RACKとは異なり、いくつかの機能を省略し、時代の流れを読み、より多くのユーザーを獲得しようとした意図が見られますね。
デジタル入出力端子について
AES/EBUのデジタル入出力端子を標準装備することにより、外部デジタル・レコーディング機器(業務用DAT等)からの入出力が容易にできるようになっています。なおEIIIxpではアナログ入力はできないのですが、派生機種として用意されていた「EIIIXS」ではサンプルのアナログ入力が可能となっています。
豊富な出力端子
アウトプットはステレオ×4の合計8個で、うち2個はキャノン(XLR)端子も装備。また前述したデジタルイン/アウト(ステレオ)、PCとの接続用のシリアルポート、SCSI端子標準実装など、I/O端子だけでもハイエンドクラスの仕様と見ることができます。
SCSI転送機能を利用することにより、Macintoshなどの波形編集ソフトからサンプル・データを取り込むことも可能です。
派生モデルについて
EIIIxpには「ターボ・タイプ」というものも用意されていて、これは32MBのRAMおよび120MBのハードディスク・ドライブを付けた完全プロ仕様モデルです。定価は1,000,000円でした。
サンプルの取り込み・加工について
本機は(オプションの外部記憶メディアを接続することがほぼ前提だが)膨大なEIII向けサウンド・ライブラリーを扱うことができ、プレイバックタイプのサンプラーと見れば非常に強力だった半面、A/Dコンバーターがなければオリジナルのサンプリングを行うことができませんでした。
自分でサンプリングをする際はこのA/Dコンバーターとやらを購入する必要があったのですが、これが当時30万円前後と決してお手頃な感じではなかったと記憶しています。まあ実際のサンプリング操作は、内部で結構オートマティックに進めてくれたりして(トランケート、ノーマライズ等)比較的簡単だったそうですが、やはりコスパの面から考えるとプレイバック機として使うのがよいのかなという感じですね。
もちろんライブラリーから読み込んだサンプルでも、シンセのようにフィルタ(ローパス)、LFO、アンプなどで加工が可能。「サンプルを組み合わせる」→「DCFを通す」→「DCA」→「OUTPUTへ送る」というアナログシンセに近い構成になっているので、使い勝手はよいと思います。またエフェクターも内蔵していますね。
つぶやき
EIIIxpが発売された1993年といえば、日本のAKAIがのちの業界標準機となるS3200(およびS3000/S2800)を発売した年でもあります。それまでもAKAIはS1000/S1100などの普及モデルで市場を握っていたのですが、ここに来てE-muも低価格クラス(とはいっても70~100万円はしたが)にうって出たのではと推測されます。S3200用のライブラリーもまだ出揃ってなかったタイミングでしたしね。
好みによって評価は分かれますが、E-muブランドのサンプラー(というか実質そのサウンド・ライブラリーの質・量)はハイクオリティかつ膨大であり、EIIIに慣れたプロを中心に支持されたというイメージですね。そうはいっても数十万円するオプション類の購入はほぼ必須であり、一般的にはさほど売れなかったみたいですが。。
関連記事(Emulatorシリーズ他):
「E-mu Emulator ~普及型サンプリング・マシン(でも数百万円)[1981年頃]」
「E-mu Emulator II ~80年代中期を代表する世界的サンプラー[1984年]」
「E-mu Emulator III(EIII) ~イミュレーター・シリーズの3代目[1988年頃]」
「AKAI S1000(/S1000HD/S1000PB) ~ステレオサンプリングに対応した当時の…」
「AKAI S1000KB ~S1000のキーボード版(S1000 Ver2.0の補足もあり)」
仕様
■システム構成:
スタンダード・タイプ:8MBメモリ
ターボ・タイプ:32MBメモリ/120MB内部HDD
■サンプリング周波数:44.1kHz(周波数特性 20Hz~21kHz)
■データ処理:
16bit(インプット/内部処理)
18bit(アウトプット)
■同時発音数:32モノラル/16ステレオ
■外部記憶装置:3.5インチFDD×1基
■外形寸法:482(W)×132(H)×340(D)mm
■重量:8.6kg
■発売当時の価格:700,000円(スタンダード・タイプ)、1,000,000円(ターボ・タイプ)
■発売開始年:1993年頃