【Vol.358】MOOG The Source ~Minimoogの後継機、モーグ初の音色メモリー搭載アナログシンセ[1981年]
2018/11/28
今回ご紹介するシンセサイザーはMOOGの「The Source(ザ・ソース)」という機種です。発売はMIDI規格制定前の1981年。発売当時の国内価格は650,000円でした。同時発音数は1(モノフォニック)。
The Sourceは一般的には、モーグ初となる制御用コンピューター(および音色メモリー機能)を搭載したアナログ・シンセサイザーといったところですが、ぱっと見はそのカラフル&ポップな外観に目を奪われてしまいますね。。他にもノブやスイッチなどの物理パーツがなくなっており、メンブレン・スイッチ(薄膜フィルムに内蔵されたスイッチ)が採用されているのも特徴的です。
概要
10年以上のロングセラー(およびベストセラー)を誇ったMinimoogの後継機として1981年に市場に投入。モーグ初となるプログラマブル・モノフォニック・アナログシンセサイザーです。
それまでアナログ・シンセには必須とされていたツマミ/スイッチ類は大胆に排されたものの、当時としては最新の技術を投入された革新的なインターフェイスを採用。大胆なパネルカラーを取り入れたデザインでも話題になりました。
基本構成
2VCO(+ノイズ)、1VCF、1VCA、2EG、1LFOという構成。主要な部分は以下補足してみます。
オシレーター部
2基のオシレーターはノコギリ波、三角波、パルス波が選択可能で、パルス幅も変更可能(→PWM)。またOSC2からOSC1へのシンクもできます。
フィルター部
1系統のローパスフィルターであり、モーグ伝統のラダー・フィルター(4Pole)を採用。なおレゾナンス(本機ではEMPHASIS)は発振も可能。
エンベロープ・ジェネレーター
ADSR方式のEGを2系統搭載。
全体的に見ると、アナログ・シンセサイザーの基本構成としてはトリッキーな点は見られず、ごくオーソドックスな構成と言えるでしょう。以前本ブログでも紹介した「MOOG Liberation ~重くてゴツい “ショルダー・シンセサイザー”」ともほぼ共通しています。
操作の実際
パネル上の各パラメーター・スイッチを押して選択すると、そのパラメーターの現在のバリュー(値)がLEDディスプレイに表示されます。そしてパネル左側に鎮座している大きなダイヤル(本機ではインクリメンタル・コントローラーと言います)を回すことにより、各種パラメーターのバリューを増減するというのが基本的な操作手順。
なおパラメーターにより、ダイヤルの回し量によって値が増減する幅(→いわば分解能)は異なり、フィルターの周波数などより微妙なコントロールが必要なものについてはより細かく、ゆっくりと変化するようになっています。ちなみにこのダイヤルはエンドレスであり、ほどよいウェイトも仕込まれているため、慣性に任せて回転させ一気にバリューを変更できたりもしました。
ただし選択しているパラメーター・ボタンがLEDで点灯するわけではないので、どのパラメーターを選んでどう変化させているのかはちょっと分かりにくいですね。。この辺りの操作は慣れが必要だったと思います。
moog The Source, Liberation/ヤマハ(株) 雑誌広告より画像引用
メモリー機能
モーグ製シンセとしては初めて16種類の音色をメモリーすることが可能に。これらは対応したパネル上のボタンにて即座に呼び出すことができたため、特にライブ時には有効な機能だったと言えるでしょう。
また、テープ・レコーダーに音色(データ)をセーブすることもできました。
Minimoogとのサウンドの違いは?
うーん、、僕は実際両機を並べて試奏したとことはないのですが、オシレーターのパワー自体は若干Minimoogの方が強いという話は聞きますね。とはいえサウンド・キャラクターを大きく左右するフィルター部はモーグ伝統のそれですし、十分 “モーグらしさ”は内包していると思われます。太く響く中低域のシンセベースや、シンクを使った尖ったリード音色などは、まさに本機の真骨頂といったところでしょう。
なお、Minimoogにはない機能として以下のようなものを備えています。
■サンプル&ホールド・ジェネレーター
■プログラマブル・アルペジエーター(24音まで)
■リアルタイム・シーケンサー(88音×2種類)
目新しいところでは、パターンを自作できるアルペジエーターが搭載されている点。“制御用コンピューター装備”という本機のセールスポイントは、ほぼこのアルペジエーター機能のことを指していたらしいですよ(※1)。ちなみにアルペジエーターのテンポはLFO(の周期)によって決定されるそうです。
個人的つぶやき
パラメーター・ボタンを選択してからバリュー・ダイヤルで値を増減させるという操作スタイルは、いわばその後のデジタルシンセの主流のそれとも言えるものであり、1981年というリリース年を鑑みると時代を先取りしていた感は見て取れますね。
薄膜のメンブレン・スイッチも当時としては珍しく、そのカラーリングも相まって、アナログシンセの次世代機という印象を与えるには十分な一台だったと思います。
本機は当初、最新テクノロジーを積んだ最先端のMinimoogとして開発が進められたそうですが、VCOが2つで波形もやや少なめになってたりして、音作りのバリエーションとしてはMinimoogよりもやや制約があったといったところ。でも代わりにオシレーター・シンクやアルペジエーターなどを装備していたりして、Minimoogとは違った個性を持っていたということで面白い一台だと思います。商業的には成功と言えなかったらしいですが。。
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※1 The Sourceの制御用コンピューター …当時の8ビット・パソコンにも多く採用されていた米ザイログ社のCPU「Z80」を中核に使用していた。
仕様
■鍵盤:37鍵
■構成:
2VCO(ノコギリ波、三角波、パルス波[PWM])
1VCF(4Pole ローパス・フィルター ※レゾナンス付)
1VCA、2EG(ADSRタイプ)、1LFO(三角波、矩形波)
■メモリー:16プログラム
■外形寸法:676(W)×98(H)×322(D)mm
■重量:7.5kg
■発売当時の価格:650,000円
■発売年:1981年