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【書籍】『チップチューンのすべて All About Chiptune: ゲーム機から生まれた新しい音楽』 田中治久(hally)著

2018/11/28

 

 

 今回ご紹介する書籍は、田中治久(hally)著の『チップチューンのすべて All About Chiptune: ゲーム機から生まれた新しい音楽』です。初版は2017年5月。

 

※カバーは外してあります。
 
 
 
 著者のhallyさんは日本におけるチップチューンの第一人者であり、自身も音楽家として活動するゲーム音楽史/ゲーム史研究家。2001年より個人ニュースサイト「VORC」を運営し、“チップチューン”という言葉を日本で初めて紹介しその普及に務めてきた人物でもあります。
 
 
 まず「チップチューンとは何ぞや?」という人も多いかと思いますので、本著の序章・冒頭の一段落から引用させて頂きましょう。
 

ファミコンやゲームボーイの音楽。あるいは、それら風の音楽──

誰にでも分かるように「チップチューンとは何か」を説明するとしたら、まずはこんな表現になるだろう。あの安っぽくて懐かしい1980~90年代初頭のゲーム音楽から、テイストをそのまま持ってきた、あるいは主要素として用いた音楽のことである。

そういった音楽が、現在ではゲームのBGMという枠を超え、より幅広い表現の場で作られ聴かれるようになっている。レトロゲーム機(風)の音楽なのに、ゲーム音楽ではない──という不思議なものを形容するための言葉。それが「チップチューン」なのである。

(序章:チップチューンとは何なのか より引用)

 

 ゲーム音楽史を取り上げた書籍は過去にもいくつか刊行されていましたが、「チップチューン」という(比較的新しい概念の)音楽ジャンルに落とし込んで執筆されたものは多くありませんでした。本書はチップチューン誕生の歴史、成立過程、定義などを非常に事細かくまとめた、前述のゲーム音楽関連の書籍とは一線を画す内容といった感じです。
 
 
 各章の末尾にはDISC GUIDEがあり、その章のまとめというべき代表的なアルバム(レコード、CD)が紹介されています。また巻末には国内外の現役チップチューン・アーティストへのインタビューが掲載されており、様々な角度からチップチューンを取り上げ実像を浮かび上がらせる重厚な内容となっています。
 
 
 

個人的かんそう

 まず、分厚いですね。330ページ以上あります。この手のゲームミュージック(※チップチューンとは若干定義が異なるが)の本にありがちな、ゲーム画面のスクリーンショットやポップなイラストはありません。硬質な文体で書かれた学術書的な雰囲気に近いです。
 
 
 音源チップについては本ブログで取り扱う機会の多い80年代電子楽器とかとも接点が大いにあり、今後参考文献として使用させて頂く機会があるかもしれません。例えば「PSG【Programmable Sound Generator】」はこれまで、“3音同時に鳴るピコピコしたアレね”とざっくりとしか個人的に認識していなかったのですが、「広義のPSG」「狭義のPSG」など概念的に分類できるところとか、様々なチップが存在するところとかは本書で初めて知りました。勉強になりますね。。
 
 
 ただしやはり全体的に難解であるというのが個人的な印象。ファミコン、ゲームボーイ、あるいはPC-6001やPC-8801mkIISRといったパソコンを少年期にリアルタイムで浴びてきた僕ですが、文献を参照しつつ何とか読み進めることができるレベルと言いましょうか。もっとも本著ではページ下段に、詳細を補足する注釈スペースも設けられており丁寧な解説がなされています。これらに目を通しつつ時間をかけてじっくり読み進めるといった感じですね。
 
 
 特に海外におけるゲームミュージック(チップチューン前史)については、『よくぞここまで調べ上げた』と唸らずにはいられない詳細な記述がなされています(しかも結構なボリューム)。ゲームミュージックというと「ゼビウス」「スーパーマリオ」「ファイナルファンタジー」「イース」などが思い浮かんでしまいがちですが、パソコンもゲーム機も元々海外で開発・発売されたものですし、“チップチューン”の文脈を統合的に浮かび上がらせる上で外せない記述として掲載する必要があったのでしょう。
 

 

 ゲームミュージックおよびチップチューンについて、誕生から現代までの歴史を語るためには本著は欠かせない一冊と言ってもよいでしょう。ただし『本著を読んでチップチューンの作り方がよくわかった!』という性格の本ではないのでご注意を(笑)。歴史書、学術書という心構えで読むのがよいと思います。
 
 
 

ほそく

 「チップチューンについてもうちょっと理解しやすい本はないものかいな?」という人にとってお勧めなのが『キーボード・マガジン 2017 SUMMER』号(リットーミュージック)。
 
 こちらは一般にキーボード雑誌なのですが、この号では国内のゲームミュージック、チップチューンがメインの特集記事が組まれていますので読みやすいと思います。
 

 

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