キーボーディスト、脱初心者を目指す

ピアノ、シンセサイザー、オルガンとか鍵盤楽器もろもろ。関係ない記事もたまにあるよ

1960~80年代 KORG 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.220】KORG(京王技術研究所) 試作1号機 ~国産初のシンセサイザーともいえる電子オルガン[1968年頃]

2018/11/26

 

 

 静岡県にある「浜松市楽器博物館」には、シンセサイザー・メーカーとして名を馳せるコルグの、非常に珍しいシンセサイザーが一台展示されています。名前は “試作1号機”。なおこの名称はあくまで社内(当時の京王技術研究所)での通称だったそうで、正式な製品名とかではないですね。1968年(1970年の説もあり)に完成したコルグ初(かつ日本初)のシンセサイザーとして今日でも名を残しています。

 

KORG 試作1号機

 

 これは文字通り試作機として開発されたものであり、一般の人向けに発売することは全く想定されておらず、実際発売されませんでした。当時は「シンセサイザー」という言葉自体知っているという日本人も極めて少なかった時代です。どのような内容のシンセだったのでしょう。
 
 
 

時代背景

 当時は既にアメリカにはMOOGシンセサイザーがあったのですが(→逆に言えばほぼMOOGしかなかった)、非常に高価であり取り上げるメディアも少なかったため、それを知る日本人はほぼ皆無だったそうです。1970年のオーディオ・フェア(および電子楽器ショーの発表会)にて一般向けとして初公開されたこの “試作1号機”ですが、元々は「電子オルガン」として開発が進められたそうです。
 
 
 一般公開の際、『これはシンセサイザーではないか』と指摘され、「そうなのか、これがシンセサイザーというものなのか!」と開発側も認知したというエピソードが残っています。ちなみにこの『シンセサイザーではないか』と仰ったのはジャズ・ピアニストとして知られる佐藤允彦さんだったそうです。
 

KORG 試作1号機

 

 

外観について

 元々は電子オルガンとして開発されたものであり2段鍵盤となっています。当時隆盛を誇っていた家庭向け電子オルガンと一線を画すのは、この “上下の鍵盤がずれていない”点。当時の電子オルガンといえば、エレクトーンのように “ずれている”のが一般的だったのです。またオルガンによく見られるペダル鍵盤もありません。
 
 
 シンセサイザーを連想させる見ため的要素としては、本機にはジョイスティックも装備されているところでしょうか。これはラジコンのコントローラー(→プロポ)のパーツをそのまま流用しているそうです。移動方向は横方向のみでした。
 
 
 

上鍵盤の機能

 49鍵モノフォニック・シンセサイザー(→単音発音)。基本的にプリセット・タイプであり、パネル上に配置された音色スイッチを押すことによって音色が切り替わります。これらは大きく “SINGING(持続系)”、“PERCUSSIVE(パーカッション系)”に分かれていて、ピアノ「Pf」、クラリネット「Cl」などの音色が出せたとのことです。
 

KORG 試作1号機

 
 面白いのがその中には和楽器の音色も搭載されていること。おそらく“SINGING”の「Sha」は尺八であり、“PERCUSSIVE”の「Sha」は三味線でしょう。尺八も三味線も和音で演奏する楽器ではないし、そういった生楽器系の単音音色を鍵盤1本で鳴らせたら面白いだろうとのことで取り入れられたそうです。
 
 
 他にも、「A」「I」「U」「E」「O」という人声(の母音)を模した音色が鳴らせるのもユニークな仕様ですね(スイッチ類は下段にあります)。

 

KORG 試作1号機

 
 また二つの鍵盤を同時に押さえることにより、1/4音(クォーター・トーン)が出せるという変わった機能も有していました。ポルタメントやリバーブも掛けられるそうです。

 

 

 

下鍵盤の機能

 49鍵ポリフォニック・シンセサイザー(→複数音同時発音)。上鍵盤とは異なり、オリジナルの音色作りができたそうです。音作りの手順としては、7つのスイッチ(SINGING 1/2/3、SINGING PERCUS、PERCUS 1/2/3)から基本音色を一つ選択し、その音色を「トラベラー」(→後述します)と呼ばれる一種のフィルターで加工するといった感じ。なおエンベロープは固定となっているそうで変更はできません。
 
 
 下鍵盤は他にも丸ごとオルガンが入っていて、当時の電子オルガンとしては当然とも言える「全鍵ポリフォニック」という仕様となっています。鍵盤の一つ一つに音源が搭載されているようなものですね。
 
 
 
---
 
 このように上鍵盤はプリセット・シンセサイザー、下鍵盤はシンセサイザー+電子オルガンといった構成になっており、一台で3台分の機能を有しているといえます。
 
 
 

トラベラーについて

 KORG独自のVCF(フィルター・カットオフ)のこと。この試作1号機では、スライダーの溝一つにつまみが2つ配されているという、今見ても斬新なデザインとなっていますね。これは-12dB/Octのハイパス(左側)とローパス(右側)のフィルター・スライダーを一つにまとめちゃったような感じです。
 
 
 ただし最初期のトラベラーは接点不良が多かったらしく、のちの製品版であるKORG 700や800DVの頃には、ローパス、ハイパスの2本のスライダーに変更されています。
 
 
 

つぶやき的な

 当時、海外のMOOGシンセがほぼ唯一のシンセサイザーであった時代に、それとは全く異なる設計・開発を行いオリジナルのシンセサイザーを作り上げたという意味では、日本人の独創性、クラフトマンシップが結実した記念碑的な一台だと思います。
 
 
 なお、本機のオルガン部分がのちの「Korgue」(→通称デカコルグ)につながり、シンセサイザー部分は「mini KORG 700」につながっているなど、この試作機の技術はのちの同社の製品に生かされているといった感じですね。

 

KORG 試作1号機

 

関連記事および広告

関連記事および広告


-1960~80年代, KORG, 楽器・機材【Vol.〇〇】