【Vol.196】Oberheim Matrix-6/Matrix-6R ~強力多彩な「マトリックス・モジュレーション」機能搭載シンセ[1986年頃]
2018/11/25
今回ご紹介するシンセサイザーはOberheim(オーバーハイム)の「Matrix-6」および「Matrix-6R」という2モデルです。日本での発売は1985~86年。
両者の違いは、鍵盤付きがMatrix-6(定価298,000円)、そのラック版がMatrix-6R(定価198,000円)という感じですね。ラック版の方が数ヶ月後にリリースされました。なお末尾の「6」は同時発音数を意味します(→12DCOの6音ポリフォニック)
Matrix-6とMatrix-6Rは外観以外にも若干の差異が見られるのですが、実は中身(機能)的にはほとんど同じと言っていいと思います。一応Matrix-6を基準に話を進めてみましょう。
Matrix-6の仕様
前年(1984年)に発売された同社のプロ仕様シンセサイザー「Xpander(エキスパンダー)」の設計思想を受け継ぐ、いわばXpanderのリーズナブル・モデル。XpanderはVCO採用のアナログ・シンセサイザーだったのですが、Matrix-6ではオシレーターにDCOを搭載しコストダウンを実現した、ハイ・コストパフォーマンス・モデルと言えます。
お手頃モデルとはいえ、2DCO、1VCF(フィルター)、2VCA(アンプ)、3EG(エンベロープ)、2LFOと、シンセサイザーとしては結構本格的な構成と言えるでしょう。ちなみに3基のEGは、通常EG1がVCFモジュレーション用、EG2がVCAモジュレーション用、EG3がFMモジュレーション用となっています。
また、Xpanderゆずりの「マトリックス・モジュレーション」機能もしっかり受け継いでいます。
「マトリックス・モジュレーション」について
自由度の高いモジュレーション(変調)を可能にする機能のこと。
本機にはソース(変調をかける側)が×20種類、デスティネーション(変調をかけられる側)が×32種類搭載されており、それらをアマウント(変調の深さ)にて適当な強さに調整します。ポピュラーな例を挙げるとすると、アフタータッチ(のプレッシャー)によってフィルターを開かせたりとか、ベロシティによってエンベロープのアタック・タイムをコントロール可能、といった感じでしょうか。
上記は一例ですが、アイデアと習熟度次第でかなり凝った音色のコントロールができるといった印象です。その昔全盛を極めたモジュラー型ポリフォニック・シンセサイザーのような自由度の高い “パッチング”を、デジタルでも再現しようとした仕様となっていると言えます。
Matrix-6Rについて
Matrix-6のキーボード部を取り除いた3U音源モジュール。パネルには、キーボード版と同様にテンキー、パラメーターボタンが配されています。なおMIDI機能の面では、Matrix-6と比較していくつかのバージョン・アップが見られます。
パッチマップ・エディット機能(Matrix-6からの追加機能)
これはマスター機から受信したプログラム・チェンジに対して、Matrix-6Rが対応するプログラム・ナンバーを自由に設定できるというもの。例えばナンバー “1”で受信したものを本体では “2”として対応することができるといった感じです。一種のパッチ(音色)メモリー編集機能ともいえるものであり、これにより、マスター機に合わせてMatrix-6Rの音色ナンバーをいちいち並べ替える必要がなくなるわけです。
この辺りは、本機は別のMIDI音源と音色を重ねて演奏するのがより効果的という意図的な設計思想を感じます。
操作感について
Matrix-6Rは僕の楽器屋時代に中古品を仕入れて色々操作したのですが、まーボタンが押しにくいのが強烈に印象に残っています(笑)
Matrix-6/6Rのボタンは、当時(80年代中頃)の流行なのか防水加工のような盛り上がった形状となっており、“押してる感”に乏しいタッチとなっています。長時間作業していると無駄に疲れるといった感じですね。。「マトリックス・モジュレーション」のパラメーター操作はただでさえ大変なのに、さらにこの仕様のボタンということで、個人的には積極的に音色エディットとかをする気にならなかったんですよね。。
いやそういう操作性に起因するモチベーションって案外大事だってことが本機にて思い知らされたわけです。でも掃除はしやすかったですよ(笑)
個人的つぶやき
音色に関してはやはりシンセ・ブラス、シンセ・ストリングスがいいですね。オーバーハイム・サウンドのトレードマーク的な部分はしっかり継承していると言っていいでしょう。ただしキャラクターとしてはXpanderの重厚なサウンドは影を潜め、若干の軽さを感じます(廉価モデルなので仕方ないところですが)
まあ心臓部がアナログ→デジタルに変更されているので当然といえば当然なのですが、逆にデジタルっぽさを生かしたシャープな出音に寄せていけばうまくハマるような気がしないでもないです。あと、本機は(他の音源と混ぜた際に)FM音源との相性が特にいいんですよね。この辺りの続きの記事はまた別の機会に書いてみたいと思います。
関連記事(Matrixシリーズ):「Oberheim Matrix-1000 ~エムセン回顧録」
関連記事:「ACCESS Matrix Programmer/MicroWave Programmer ~ACCESS初の製品」 ※専用プログラマー
仕様
■鍵盤:61鍵(ベロシティ、アフタータッチ付き) ※Matrix-6
■構成:2DCO、1VCF、2VCA、3EG、2LFO
■最大同時発音数:6音(12DCO)
■音色メモリー:100(シングルパッチ)、50(マルチパッチ)
■マトリックス・モジュレーション:ソース20種(ENV1~3, LFO1~2, 他)、 デスティネーション32種(DCO1フリケンシー, 他)
■外形寸法:
1014(W)×103(H)×349(D)mm ※Matrix-6
439(W)×138(H)×308(D)mm ※Matrix-6R
■重量:12kg(Matrix-6)、6.4kg(Matrix-6R)
■発売当時の価格:298,000円(Matrix-6)、198,000円(Matrix-6R)
■発売開始年:1985年(Matrix-6)、1986年(Matrix-6R)