1970~80年代'' YAMAHA 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.117】YAMAHA SS-30 ~70年代の“ストリング専用”キーボード![1977年]
2018/11/25
今回ご紹介するキーボードは、ヤマハが1977年に発売した「SS-30」というストリング(バイオリン、ビオラ、チェロ)専用キーボードです。今どきのオールインワン・シンセでは入っていて当たり前のストリングス(弦)音色ですが、当時はこういった専用機が売られていたのですね。定価は225,000円でした。
シンセ・ストリングス機としてのSS-30
生の弦楽器を電気的に再生する機械といえば1960年代の「メロトロン」と呼ばれる楽器が有名でした。その後、オランダのN.V.EMINENT社から発売された「Solina String Ensemble」(→通称・ソリーナ)は、高品位な音でスタジオでもしばしば使用されました。ちなみにソリーナはアメリカではARPが販売権を押さえていたので「アープ・ソリーナ」という呼び名も有名です。
そこでヤマハSS-30です。これはソリーナ(約55万円)の半額以下で発売され、一般人にも手が届きやすくなってきた感じです。ヤマハさんとしては、「シンセサイザー」(当時のCSシリーズ等)、「エレクトリック・ピアノ」(当時のCPシリーズ)に加える、“第3の鍵盤”という謳い文句で広告展開されていましたね。
音色について
ビオラ&バイオリン系3種(VIOLA/VIOLIN1/VIOLIN2)、チェロ系2種(CELLO/1CELLO2)の合計5種類の音色を内蔵していました。
パネルには「VIOLA」「VIOLIN1」「VIOLIN2」といったボタン(→本機ではタブレットと呼ばれる)が独立して配され、例えばVIOLAとVIOLIN1を2個同時に押すことで音が重なります。ただしここにチェロを音を加えようと思っても、音色はチェロのみに切り替わってしまいます。つまり「ビオラ&バイオリン系」+「チェロ系」の独立2系統の作りになっているんですね。
また、大編成オーケストレーションの雰囲気を出す「オーケストラ・スイッチ」も鍵盤左部に備えています。どういった(どの程度の)効果があるのかは不明なのですが、DEPTHで深さ調整もできるみたいですね。
キーボード・スプリット機能
鍵盤上にスプリット・ポイントを設定することができ、このモードだと「ビオラ&バイオリン系」+「チェロ系」の音も(鍵域を分けて)同時に鳴らすことが可能です。アッパー/ロワーにはそれぞれアタック・タイムなどのパラメーターを独立して設定できるため、演奏シーンに応じて設定を作り込むことができます。
左手でスロー・アタックのチェロをパッドのように鳴らして、右手でファスト・アタックのバイオリン+ビオラを早いパッセージで弾く、みたいな使い方もできそうです。
外観
まず、ボディ全身を覆う木工調の筐体が目を引きます。そして同社のエレクトリック・ピアノ「CP-20」とデザインが非常に近いです。
上段:SS-30、下段:CP-20
引用元:YAMAHA 総合カタログ01(1977年)
これはもう「SS-30とCP-20を二段重ねて使ってくださいね~」というメーカーの意図が見え見えですね(笑)。さらにSS-30では、二段使いが前提なのか、水平に設置した時でも鍵盤が手前側にわずかに傾斜しています。
個人的かんそう
今聴くとお世辞にも生弦っぽくは聴こえませんね。。ソリーナと比較すると高域の “はかなさ”みたいな感じはなくて、本物っぽさからみればソリーナには敵わなかったのかもしれません。どの弦音色も、ヤマハの同時代のアナログ・シンセサイザーっぽく聴こえるのは僕だけでしょうか。。
でも実はSS-30は全鍵ポリフォニック(→全49鍵同時発音可能)なんですよね。ここは地味に使えるスペックであり、「シンセとは違うのだよ、シンセとは…」といった感じでしょうか。
70年代後半に登場した「ストリング・アンサンブル機」は、80年代になってポリフォニック・シンセサイザーの機能が向上し同楽器の機能を含有するようになったため、その役割を終えることになりました。
とはいえ本機のような不思議な「ストリングっぽくないストリングス」はそれはそれで味わいがあります。ライブでも、今どきの近未来的なシンセ群の中に、こんなフル木目調の鍵盤が混ざってたらそれだけで味わい深いと思います(笑)
仕様
■鍵盤:49鍵
■音源:電子発振方式
■最大同時発音数:49音
■内蔵音色:2系統5種(VIOLA/VIOLIN1/VIOLIN2、CELLO/1CELLO2)
■外形寸法:960(W)×162.5(H)×350(D)mm
■重量:20kg
■発売当時の価格:225,000円
■発売年:1977年