【Vol.399】MOOG SONIC VI ~スーツケース一体型のポータブルアナログシンセ[1972年頃]
2018/11/28
今回ご紹介するシンセサイザーは、MOOGの「SONIC VI(ソニック・シックス)」というモデルです。発売は1972年頃(74年の説もあり)。49鍵盤を備え、同時発音数は2(デュオフォニック)というアナログシンセでした。
スーツケース(持ち運び用の取っ手付き)に音源と鍵盤、さらにはスピーカーまでも組み込んだ、今見てもちょっと珍しいポータブルタイプのシンセサイザーといったところです。ブロックごとに水色に塗り分けられたパネルも何ともシャレオツ。
まずは外観(パネル部)
パネルデザインは、後述する「SONIC V」とほぼ同じレイアウトになっています。そして何といっても色鮮やかな水色パネルが映えますね! 本体には音源はもちろんアンプ/スピーカーも内蔵されており、電源さえあればどんな現場でもすぐに音を出すことが可能といったところです。
パネル上の各ブロックの信号毛色は矢印で表示されており、途中に設けられたスイッチにてそれらの経路をON(接続)/OFF(切断)することができます。非常に分かりやすいインターフェイスと言え、シンセサイザーの信号の流れを理解する上で優れた設計になっていると思われます。まあ前身の「SONIC V」も元々は教育用途として使われることを視野に入れて作られたそうですし、実際、大学機関などの教育現場でも使われたのかもしれません。
あとスーツケース一体型という形状の特性上、各種入出力用の端子も本体側(ケースの内側)に装備されています(→キーボードの右上と左上部)
コントローラー部など
鍵盤は4オクターブの49鍵仕様。そしてキーボードの左側には、ピッチベンド・ホイール(Minimoogでもよく見かけるタイプ)が横方向に配置されているのが確認できます。この横方向というのがMOOGシンセとしてはかなり珍しいですよねー。なおこのホイールはスプリングが入っており、操作後はセンターに戻ります。余談ですが透明なタイプのホイールもあったそうですよ。
なおキーボード部の上には、ケーブル類を収めるための横長のちょっとした “くぼみ”が設けられています。ポータビリティにおける配慮が見られる親切設計と言えるかもです。
内部仕様など(個人的所感入り)
オシレーターは2VCO構成であり、波形はsawtooth(ノコギリ波)、triangle(三角波)、square(方形波/矩形波/パルス波)から選ぶことができます(→もちろん2系統完全独立)。あとノイズもあって、ピンクノイズおよびホワイトノイズが選択可。
フィルターは1VCFでありノーパスのみ。MOOGフィルターでよく見られる4ポールのトランジスター・ラダー式(-24dB/oct)となっています。また変調用の2基のマルチモードLFOを搭載しており、一応他のMOOGシンセサイザーでは見られないちょっと変わった操作ができるそう。
VCAのエンベロープはAR(アタック/リリース)タイプのものが1基のみ。前述したように2系統のLFOを備えてたり、あとリング・モジュレーターも内蔵されているのですが、本格的なシンセサイズに関しては若干制限が見られると言わざるを得ないですね。。SONIC VI全体のサウンドとしても、minimoogのそれよりも薄めの音色キャラクターということで評価されることが多いです。
価格について
発売時の正確な価格は不明ですが、minimoogと近い価格帯だったとのことで当時としてはやや高価な部類の機材だったと推測します。ミュージシャン個人向けというよりかは教育機関向けと言えるかもですね。
補足・前身である「SONIC V(ファイブ)」について
1970~71年頃に発表されたと思われる初期のポータブル・アナログシンセ。ちょっとした教育用機材として開発されたコンセプト機であり、SONIC VIの基本設計の元となった機種としてその名を残しています。
そもそもSONIC Vは「muSonics(ミューソニック)」という会社の製品であり、設計コンセプトを提示したのもモーグ博士とかではなくジーン・ツムチャックというエンジニア。細かな経緯は割愛しますが、ミューソニック社による買収劇などがあり、結果として “モーグ・ブランド”で発売されることになったのです。
製品としてのSONIC Vは、2基のLFOと1基のコントゥアー・ジェネレーター(エンベロープ)をモジュレーション・ソースとして用意し、これらを大きな木製ケースに(49鍵盤のキーボードとともに)収納したもの。パネルデザインおよび内容は、後にモーグ社から発表されたSONIC VIとほぼ同じとなっていますが、折り畳み収納は不可で、ピッチベンドがないなどの違いもあります。
このようにSONIC Vは、他のMOOG製シンセサイザーとはちょっと出どころが異なる、数ある “MOOGファミリー”の中でもかなり毛色の変わった機種といったところですね。
つぶやき
SONIC VIは、まあ色々と変わったMOOGシンセという印象でしょうか。カラーリングもそうだし、スピーカーも内蔵したMOOGなんておそらく本機が唯一なのではないでしょうか。モーグ博士が自らレクチャー用の教材として本機SONIC VIを使用していたということでも(一部では)有名ですね。
個人的には、2018年冬にWurly's(ウーリーズ)さんを訪れた際にSONIC VIの実機を確認しました。その際店員さんからもお話を聞きましたが、これってケース上部とキーボード部は分離できない仕様になっているそうです。
しかもケース上部(コントロール部)は起こした時の角度が固定されないとのこと。だから実際には、自分でいい感じの角度にしてから壁に立てかけて固定することになるそうですよ。自宅使いならともかくライブでのセッティングには苦労しそうですね。。
Wurly's(ウーリーズ)さんにて撮影
■参考文献(海外サイト)
https://en.wikipedia.org/wiki/Moog_Sonic_Six
http://www.vintagesynth.com/moog/sonic6.php
仕様
■鍵盤:49鍵
■同時発音数:2音(デュオフォニック)
■オシレータ:2VCO(ノコギリ波、三角波、パルス波[OSC Bのみパルス幅可変])
■フィルター:1VCF(24dB/oct ローパスフィルター)
■アンプ:1VCA(ADSRタイプ)
■LFO:2マルチモードLFO
■外部コントロール:CV/GATE
■発売年:1972年頃