SEQUENTIAL CURCUITS 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.285】S.C.I. PROPHET-T8 ~76鍵・木製鍵盤を採用したプロフィットの最高峰モデル[1983年]
2018/11/26
今回ご紹介するシンセサイザーは、SEQUENTIAL CURCUITS Inc.(シーケンシャル・サーキッツ。以下S.C.I.)が1983年に発売した「PROPHET-T8」(以下T8)です。発売当初の国内定価は2,500,000円。
76鍵のウェイテッド木製鍵盤を採用し、ベロシティはもちろんアフタータッチにも対応した(→もちろんMIDI搭載)、マスターキーボードとしても使いどころがあるキーボードと言えるでしょう。実際、ハワード・ジョーンズやジョー・ザヴィヌルなど名だたるキーボーディストがマスターキーボードとして(一時期)本機を据えていました。
同社の名機Prophet-5とパネルデザイン、レイアウトは似ており、同機の拡張版(あるいは上位機種)と見られる向きもあるかもしれませんが、果たしてそうだったのでしょうか。詳しく見てみましょう。
音源部仕様
当時PROPHETシリーズのフラッグシップ・モデルとして登場した、8ボイス・ポリフォニック、16VCO(オシレーター)搭載のアナログシンセサイザー。基本構成は2VCO、ノイズ、1VCF、1VCA、および2エンベロープ・ジェネレーター(ADSR方式)となっています。
プログラムはLEFTとRIGHTが独立して64あり、2系統だから合計128。このLEFT/RIGHTというのは一般的なロワー/アッパーといった捉え方ですね。プログラムの数字の表すLEDもLEFT/RIGHT独立して設けられています。
また本機の「グライド」(ポルタメント)はポリフォニックで作動します。これはProphet-5では見られなかった機能ですね(PROPHET-600では採用されている)。
出音は、汎用性がある音色を揃えながらもどちらかというと繊細なキャラクターで、若干荒々しいというイメージのProphet-5とは異なる感じといったところでしょうか。「洗練された音」、違う言い方をすれば「尖りのないデジタルシンセのような音」と表現できるかもしれません。8音ポリということもあり、コードバッキングでの音切れの心配が少なく、余韻を含んだコードを刻むのに向いているといった感じです。
鍵盤部について
ベロシティはもちろんアフタータッチにも対応した、76鍵のウェイテッド木製鍵盤を採用。いわゆる重みのあるピアノタッチであり、本機最大の特徴と言っていい部分ですね。
なお本機のアフタータッチはポリフォニック・アフタータッチ仕様となっており、最大8鍵盤がそれぞれ独立したキー・プレッシャーを検知します。非常に贅を尽くした仕様といったところです。
なお鍵盤部とは直接関係ありませんが、パネル上部は広くフラットなブランク・スペースとなっていて、本機の上に直接別のキーボードを載せるといったことも現実的に行えます。
キーボード・モードについて
本機の演奏モードとも言える「キーボード・モード」は、中央やや左にある以下3つのボタンから選択することができます。
SINGLE
SPLIT
DOUBLE
前述したようにLEFT/RIGHTでプログラムが独立しているため、2音色を鍵域の左右で分けて鳴らす(→SPLIT)、2音色同時に鳴らす(→DOUBLE)といった使い分けも簡単にできるといった感じですね。
S.C.I. PROPHET-T8(上段), PROPHET-5(下段)/モーリス楽器KK 雑誌広告より画像引用
個人的つぶやき
演奏性の高い本格ピアノタッチ鍵盤を採用したProphet-5直系の76鍵モデルといった第一印象ですが、前述したように音的には「やがて主流となるデジタルシンセの時代」を予見したかのような、良くも悪くもまとまりのよさを感じさせる一台といった感じでしょうか。なおT8と時期を近くしてかのYAMAHA DX7がリリースされており、軽くて安価で斬新な音の出る新時代のシンセの登場により、本機のような重くて高価なアナログシンセの時代は終わりといった流れが加速されたように思えます。
実際、同社のProphet-5の系統を受け継ぐアナログシンセサイザーとしては本機が最後と言えます。最後(?)にふさわしい、シリーズ最高峰の仕様といった感じ。まあ発売時の価格も最高峰ですね(同時代に20万円台で発売されたDX7と比べると)。。
個人的おもひで
本機は僕がシンセ専門店時代(90年代)に、店に長期にわたって展示されていた中古品の一台として、個人的に非常に思い出深い機種となっています。さすがに発売時の250万円で売れる時代ではなかったので、当時確か40万前後の値札を付けていたと記憶しています。それでも全然売れる気配がなかったので店がヒマな時によく遊んでました。
前述したように音のキャラクターは若干抑え目で、後年Prophet-5の実機をじっくり操作した際に「ちょっと違う!」と感じたことを覚えています。とはいえT8の鍵盤タッチは非常によろしくて、当時ピアノタッチ鍵盤搭載のシンセとしては1~2を争う出来と勝手に評価していました。いやほんとにこの鍵盤はタッチがよかったんですよ!(個人的には)。生粋のシンセサイザーなのに木製鍵盤というのは今見ても非常に珍しいと思います。
このT8はTM NETWORKの出世作『Self Control』の印象的なイントロで使われたという話を当時小耳に挟んでいて、80年代にいわゆる “FANKS”だった僕は本機で同曲のシンセサウンドを作ろうと試みたことがあります。結果そっくりの音にはならず、“小室マジック”の奥深さを思い知ることになるのでした(笑)
余談です
本機は最低音がA(ラ)、最高音がC(ド)という鍵盤配列になっていて、実はこれは一般的な88鍵盤の配列と同じです(→76鍵の配列はミ~ソとなっているものが多い)。よって僕は長年T8を88鍵だと思い込んでいて、76鍵であることを認識したのは近年になってのことです。全体的に大柄だったこともあり錯覚してたのかなぁ。。
関連記事(S.C.I.PROPHETシリーズ):
「S.C.I. PROPHET 2000(/2002) ~シーケンシャル初のサンプラー[1985年]」
「S.C.I. PROPHET-600 ~世界初のMIDI規格対応シンセサイザー[1982年]」 →T8と発表時期がほぼ同じ(発売はT8の方が若干後)
仕様
■鍵盤:76鍵(ウェイテッドアクション木製鍵盤。ベロシティ/アフタータッチ装備)
■最大同時発音数:8音ポリフォニック(フルプログラマブル)
■音色メモリー:LR独立プログラム、各64プリセット
■外形寸法:1220(W)×110(H)×550(D)mm
■重量:27kg
■発売当時の価格:2,500,000円
■発売開始年:1983年