1970~80年代'' YAMAHA 楽器・機材【Vol.〇〇】
【Vol.250】YAMAHA KX88 ~MIDI楽器の可能性を引き出す、80年代製 名MIDIマスター・キーボード[1985年頃]
2018/11/26
今回ご紹介するキーボードは、ヤマハが80年代に発売したMIDIキーボード・コントローラーの「KX88」です。発売当初の定価は270,000円(のち250,000円に改定)。発売時期は1985年末~86年初頭頃。豊富なMIDIコントロール機能に加え、88鍵の本格ピアノタッチ鍵盤を備えたMIDIマスター・キーボードの名機というべき一台です。
まあこれも昔からのキーボーディストにすれば非常に有名なモデルですね。特に本機発売後の80年代後半頃のTVの歌番組では、本機およびDX7が2段セッティングされている映像を非常によく目にしたものです。また本機の76鍵バージョンである「KX76」もよく知られていますね。KX76の機能はKX88と同じなので、本記事ではKX88を中心に話を展開していきたいと思います。
概要
KX88は本体内に音源は搭載しておらず、自分の好みの音源モジュールやシーケンサーなどを組み合わせて、複数のMIDI音源を統合的にコントロールできるマスター・キーボード。88鍵のピアノタッチを採用しており、ベロシティおよびアフタータッチに対応しています。また32音色×2チャンネルの音色選択キーもパネル上に装備。
本機とシンセサイザー(例:DX7、TX816)、あるいはシーケンサー(例:QX1)などのMIDI機器と組み合わせることにより、様々なコントロールを行うことができます。
関連記事:
「YAMAHA QX1 ~ヤマハの本格的シーケンサー・シリーズ「QX」第1号機[1984年]」
「YAMAHA TX816 ~DX7が8台分収まっちゃった!?モジュール[1984年]」
3つのモード
本機には以下の3つのモードがあります。
①PLAYモード …演奏時のモード
②CAモード …各種コントローラーに機能を割り当てるモード。CAとはコントローラー・アサインの略。
③PAモード …コントロールチェンジ、パラメーターチェンジ、ユニバーサルパラメーターなどを任意に設定するモード。PAとはパラメーター・アサインの略。
演奏モードでは、シングル、デュアル、スプリットなどがあるので、複数の外部音源モジュールを使って厚みのあるサウンドを作れたりもします。PAモードでは他メーカーのシステム・エクスクルーシブ・メッセージが使えるため、本機でRoland JUNO-106辺りのMIDIシンセの音作りも可能でした。
KX88,DX7/ヤマハ(株) 雑誌広告より画像引用
豊富なMIDIコントローラーに対応
KX88のMIDI機能は当時としてはかなり強力で、全256種類のMIDIコントローラーコードを、本機が備えている19種類のコントローラーへ自由にアサインすることが可能でした。前述したCAモードから入って設定します。以下全て挙げてみましょう(※全てデフォルト状態の場合)
TS1 …MONO 1/POLYの切り替え
TS2 …PORT ON/OFF
MS1 …SINGLE
MS2 …DUAL
MS3 …SPLIT
MS4 …SWAP
MS5 …MIDI CH
FS1 …SUSTAIN ON/OFF
FS2 …PORT ON/OFF
WHEEL1 …PITCH BEND
WHEEL2 …MOD.WHEEL
BREATH …BREATH CTRL
AFTER …AFTER TOUCH
CS1 …VOLUME A
CS2 …VOLUME B
CS3 …LFO SPEED
CS4 …PORT TIME
FC1 …VOLUME
FC2 …FOOT CTRL
上記だけだとちょっと分かりにくいので、ピンポイントで補足してみたいと思います。
「TS」とは(2モード切替の)トグル・スイッチのことで、本機パネルには2個あります。
「MS」とはモメンタリー・スイッチのことで、本機パネルには5個配されています。
「FS」はフット・スイッチのことですね。本体左側面部にジャック(×2)があります。
「CS」とは連続可変スライダーのことで、本機パネルには4本配されています。
「FC」とはフット・コントローラーの略。本体左側面部にジャック(×2)があります。
珍しいのがブレス・コントローラーにも対応していることでしょう。この辺りはヤマハさんならではといった感じです。
関連記事:「YAMAHA CS01(/CS01II) ~ブレスコントローラー搭載! ミニ鍵盤の80年代アナログシンセ[1982年]」
こんなこともできる
トグル・スイッチや可変スライダー、はたまた2つのホイールには、任意のMIDIデータを送り出すことが可能となっています。例えばMIDIクロックを割り当てることによって、スライダーやホイールを動かすことでシーケンサーやリズムマシンのテンポを変えることができたりします。
またプログラムしたコントローラー・コードの割り当てを16種まで記憶できる「コードメモリー」機能も搭載。演奏曲順に細かな設定(セッティング)を簡単に切り替えることができます。
ひとりごと的な
80年代の名マスター・キーボードとして名を残す本機ですが、機能を十分に引き出すにはお金(→他の機器の購入)と深いMIDIの知識が必要だったわけで、一般人にとってはなかなか難易度の高い一台と言えるでしょう。
とはいえ当時は、曲ごとに(あるいは曲中に)音色セッティングがコロコロ変わるフュージョンなんかも流行ってたわけですし、そういった音楽志向のバンド・キーボーディストにとってはこの上ないマスター・コントローラーだったと思います。
僕は80年代中盤以降に録画しまくった音楽系ビデオを未だに沢山持っているのですが(→現在はPCにデジタル保存)、このKX88とKX76(あるいはDX7等のFMシンセ)の2段セッティングは本当によく見られますね。当時リアルタイムでKX88を演奏したわけではないけど、時代を象徴する一台ということで個人的にちょっとだけ思い出深いマシンといったところです。
仕様
■鍵盤数:88鍵(ベロシティ/アフタータッチ対応)
■接続端子:MIDI IN ×1、MIDI OUT×1、フットコントローラー(FC1、FC2)、フットスイッチ(FS1、FS2)
■外形寸法:1441(W)× 347(D)× 131.5(H)mm
■重量:28.5kg
■発売当時の価格:270,000円(のち250,000円に改定)
■発売開始年:1985年末~86年初頭頃