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KAWAI 楽器・機材【Vol.〇〇】

【Vol.303】KAWAI K5 ~ARTS音源搭載の3-Dデジタルシンセ[1987年]

2018/11/28

 

 

 今回紹介するキーボードは、1987年に河合楽器から発売されたデジタル・シンセサイザー「KAWAI K5」です。発売当時の定価は235,000円。

 

KAWAI K5

 

 本機の前年には、K3という倍音合成音源方式のデジタル・シンセサイザーがリリースされていたのですが、本機ではその倍音合成方式を独自拡張したような “ARTS”という新方式を取り入れ、結果的にさらに複雑化しちゃった感のあるマシンです(笑)
 
 
 

音源部について(イントロダクション)

 K5では ARTS【Additive RealTime Synthesis】という音源を搭載。この音源の基本的な考え方は倍音加算方式(※1)であり、概ねそれを発展させたものと言えるでしょう。
 
 
 自然界に存在する音のほとんどは整数の周波数比を持ち、様々な振幅を持った正弦波(サイン波)の和であらわされます。これらは倍音、振幅が時間によって複雑に変化したものが組み合わさったものであり、逆に、基本となる正弦波(サイン波)をそれと倍音関係にあるサイン波で合成していくことで、(理論的には)あらゆる音を作り出すことが可能ということです。
 
 
 本機では127倍音の合成および、それぞれの振幅に対してエンベロープを付与することができ、3-D的な音源波形も得られるという触れ込みでした。あーよく見れば本機のパネル上の “K5”ロゴの下にも、『DIGITAL MULTI-DIMENSIONAL SYNTHESIZER』と書かれていますね。
 
 
 

音作りの各セクションについて

本機の基本的なブロック・ダイアグラムは、大まかに以下の図のようになります。

では追って説明してみましょう。ちょっと難しいかもしれませんが。。
 
 
S1 …Souce1の略であり、基本となる音源部のブロック単位のようなもの。本機では2基の音源部があります(→Souce1/Souce2。以下S1/S2)。このS1とS2には、任意にレベルを設定できる整数倍音をそれぞれ1~63まで持つ「TWINモード」と、S1とS2を合体させ1~127倍音まで制御する「FULLモード」の2つのモードがあります(どちらのモードでも独立した2つの音源として使うことが可能)
 

DFG …デジタル・フリケンシー・ジェネレーターの略。ここでは音程を決定します。エンベロープ(ENV)×1も掛けられます。

DHG …デジタル・ハーモニック・ジェネレーターの略。ここは波形を作成するセクションであり、音作りの元となる重要なブロックと言えるでしょう。倍音の一つ一つに対してレベルとエンベロープ(ENV)×4の設定ができます。

DDF …デジタル・ダイナミック・フィルターの略。ここは音質を決めるセクションであり、いわゆるフィルターです。ここでもエンベロープ(ENV)×1が掛けられます。

DDA …デジタル・ダイナミック・アンプリファイアの略。ここでは音量を決めます。もちろんENV(×1)も掛けられます。

 
 基本はこんな感じで “ベーシックな音源波形をDHGで作って、あとはフィルター(DDF)やアンプ(DDA)で加工していく”と捉えると分かりやすいかもしれません。そう、アナログシンセの一般的な音作りの流れに近いですよね。
 
 
 特筆すべきは、いわゆる波形作成時(→DHG)でもエンベロープが設定できる点。波形の時間的変化がこのセクションだけでも作れるということです。
 
 
 このように作った基本音色は、必要に応じDFT(デジタル・フォルマント ※2)、KS(キーボード・スケーリング)、LFO(→モジュレーション)を施し、「Single」という一つの音色単位として扱われます。ここまでが大まかにARTS音源の正体といったところですね。
 
 
 

MULTIモードについて

 1単音色=1Singleと考えた時、最大15までのSingleを組み合わせたものを本機では「MULTI(モード)」と言います。このモードだと、各SingleごとのMIDI受信チャンネルはもちろん音量やモジュレーションなどのパラメーターもまとめて管理しているため、本機を独立した15台のMIDI音源と捉えることができます。
 
 
 実際の演奏においては、鍵盤に15か所のスプリット・ポイントを施して各音色を割り当てられるのはもちろん、鍵盤を押す速さ(強さ)によって鳴らす音色を変えることも可能。
 
 
 補足すると、K5では7段階のベロシティ(→ベロシティ・スイッチといいます)によって、各段階に異なるSingleを割り当てることができます。またアフタータッチも備えているため、タッチの強弱により、様々な音色を入れ替わらせたり(あるいは重ねたりデチューンさせたり)といったことが可能だったわけですね。ちなみに本機の鍵盤タッチの作りは、ピアノメーカーらしくちょっとよく出来てます。

 

 

 

表示ディスプレイについて

 240×64フルドットのグラフィカルな大型ディスプレイを搭載。当時の一般的に販売されていたデジタルシンセの中で、本機のように各倍音のレベルやEGなどをグラフィカルに表示してくれる機種は珍しかったです。
 
 
 

オーディオ・アウトプットについて

 音声出力は通常のミックス・アウト(L/R)に加えて、4つのグループ・アウトも装備。各Singleをどのグループから出力させるかを任意にアサインすることが可能。
 

KAWAI K5(advertisement)
K5/(株)河合楽器製作所 雑誌広告より画像引用
 
 
 

つぶやき的な

 倍音加算方式は一般的にパラメーターが複雑で非常にとっつきにくいのですが、本機はそれを大型でグラフィカルなディスプレイによってカバーしてあるといった印象ですね。
 
 
 なおこういった倍音加算方式の音源では、高次倍音の再現性に優れるため、デジタル金属的な響きを持つベル系やキラキラ系音色を創るのに効果的でした。また本機では、各倍音は全倍音、オクターブ、奇数倍音のみ、偶数倍音のみといった感じでいくつかのモードから選ぶことができ、アナログシンセっぽい波形やノイジーな効果音作りにも対応可能です。要は音作りに対する情熱と根気と努力次第(笑)
 
 
 本機は今日のデジタルシンセのように多数のプリセット音色を備えていたわけではありませんが、音作りの楽しみを知る当時のマニアを惹き付けるには十分魅力的なシンセだったと思います。
 
 
 
 関連記事(カワイKシリーズ):
 「KAWAI K3 ~デジタル・ウェイブ・メモリー・シンセサイザー[1986年]
 「KAWAI K5000W ~Advanced Additive音源搭載のワークステーション・シンセ
 
 
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※1 倍音加算方式 …一定の周波数を持つサイン波を重ねて音色を合成する、シンセサイザーの音源方式の一つ。
 
※2 デジタル・フォルマント …本機の場合は、(C1~C9の範囲で)1オクターブ単位の周波数特性のコントロールができるというもの。いわゆる人声(ヒューマンボイス)系音色のフォルマント補正ができる機能。

仕様
■鍵盤数:61鍵(ベロシティ/アフタータッチ付き)
■音源:ARTS音源
■最大同時発音数:16音
■内部メモリー:96パッチ(48Single/48Multi)
■外形寸法:1040(W)×99(H)×339(D)mm
■重量:12.8kg
■発売当時の価格:235,000円
■発売開始年:1987年

 

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